妹二人と旅行に行く事になりそうなんだが
休日の日は昼まで寝ておく俺は午後になってから覚醒した。
目覚まし時計もセットせず、遮光性の高いカーテンによって真っ暗な部屋で気が済むまで睡眠を楽しむ。
起きたい時に起きれるこの休日は俺にとって何よりも幸せだ。
洗面所まで行って洗顔や歯磨きなど一通り済ませ、リビングに足を向かわせた俺は改めて家族が増えたのだと実感する事が出来た。
扉を開けると、大きく広いリビングにあるソファーに二人の少女が寛ぎ、テレビを鑑賞していた。
親父と二人暮らしの時は一人寂しくリビングまで行ってはカップ麺にお湯を注いでいた日々。
それが今は誰かがテレビを点け、テーブルの上にはラップされたオムライスがある。
「あ! 康太くんおはようございます......じゃなくて今はこんにちはですね。お昼ご飯そこにラップしてあるので適当にチンして食べてください」
「おう、美味しく頂くことにする。......それよりもこのオムライス、誰が作ったんだ?」
手作りのオムライスなんて親父が意気込んで作り卵はぐちゃぐちゃで、焦げも付いている様な汚いオムライスしか見たことがなかった。
しかしこのオムライスはケチャップご飯の上に、黄金色をした卵が乗っかっている。
見た目からして美味いのと言うのが伝わってくる品物だ。
「オムライスの事なら私が作りましたよ。私、前の家では家事担当だったんで」
「へぇ、器用なんだな雪は」
「全然器用とかそういう訳じゃないんですよ? 家事は昔からやっていたので慣れてるんです」
「昔から自主的にやってたのか? 俺には到底出来ない事だから素直に尊敬する」
「......」
適当にチンしながらそんな質問をしていたのだが。
いきなり言葉の返しが届かなくなり、俺は視線を雪に飛ばす。
......雪の顔は少しばかり曇って見える。
何か変な事を俺は言ってしまったのだろうか。
「雪? どうしたんだよ急に」
俺がそう問いかけた言葉で呪縛から解き放たれたかの様に刹那、笑顔を浮かべる。
「いえなんでもないです。今の事は忘れてください」
「......そうか。取り敢えずオムライスはめちゃくちゃ美味いぞ」
俺は熱々のオムライスを一口頬張ってから、雪に声を放った。
よかっです、と笑みを浮かべながら俺に答えた雪だったが、俺には何となく違和感を感じた。
......でもまぁまだ起きたばっかりだし、俺の脳が働いてないだけだと思うのだが。
──何か、腑に落ちないものがある。
俺は夕方から入っていたバイトを終わらせ、空は随分前に灰色に染め上げられていた頃、家に足を踏み入れた。
リビングに入ると何やら騒がしく、机の上にはパックに入った新鮮な肉が並び、近くにもウインナーや野菜など食べ物が多く置かれている。
「おう帰ったか康太。今日はお別れパーティーということで庭でバーベキューをする事にした」
「親父の口からバーベキュー何て言葉を聞いたのは初めてだな。......あれ、百音の姿が見当たらないが」
リビングには親父と母親、雪が忙しく準備をしていた。
美咲はソファーに座ってムスッとした表情でスマホに指を滑らせている。
しかしどこを見渡しても百音の姿はどこにもない。
「百音はこういうの昔から苦手なんです。だから今回は不参加って言ってました」
と、俺の質問に対して準備の手を止めて雪が微笑を浮かべて答える。
「......じゃあ出来上がった食べ物は俺が持っていく。部屋の前とかに置けばいいか?」
「はい、部屋の前に置いておけば大丈夫ですよ。でも嫌なら私がもって行きますよ?」
「その気持ちは有難いんだが俺が持っていくよ。俺の仕事はこれくらいしかないんだ」
美咲に百音のこの二人は俺に対して良い思いを抱いておらず、これから生活を送る上でどうやって対処していけばいいのか。
幸い真ん中の子の雪は俺に嫌悪感を抱いているとかそういう事はなく、至って普通に接してくれている。
......不幸中の幸いと言うべきか。
取り敢えずこのバーベキューで少しででも関係を改善するべく俺は動くしかないだろう。
それから時間は過ぎ、俺らはバーベキューコンロを使い交代で肉や野菜を焼いていた。
外に二つ大きな机を置き、片方には親父と母親が座り、もう片方に俺と雪、それに美咲と大人と子供で別けられる形となっている。
俺は雪が肉を焼いている時に美咲と二人きりになって飯を食うのは気まずいと思い、積極的に肉を焼きに行っていた。
時折視線を机の方に飛ばしてみると雪と美咲が楽しそうに会話を繰り広げている。
美咲は俺に対しては無口だが、それ以外には楽しそうに気さくに話していた。
そのため性格が人を嫌うとか、話せないとかそういう物じゃなくて、やはり俺の事が嫌いなだけ。
学校でも転校初日から俺の隣の席の麻美とよく話していた。
麻美は陽気なキャラなのだが、それとも上手く打ち解けていたためコミュニケーションはめちゃくちゃ上手い筈だ。
幾ら思い返してみても俺が嫌われる要素なんて微塵も......。
「康太くん? どうしてそんな顔をしているんですか? あと、焦げてますよ?」
「うわっ! すまんボーッとしてしまった。すぐ新しいの焼くから少し待っててくれ」
そう俺は言いながらパックから新しい肉を取り出そうとしたのだが。
貸してくださいと俺が持っていたトングを取り、雪は口を開いた。
「二人でやりませんか? 私バーベキューであんまり康太くんと話せていません。あと、康太くん焼くの下手ですから」
「さっきのは色々考え事してて気が回らなかったんだ。......でもまぁ、二人でやった方が効率もいいか」
「それに、一人でやっても楽しくないですよね。私康太くんに色々話したい事があるんです」
「奇遇だな、俺もだ。色々と雪に話したい事が山程ある。だが......美咲は一人でいいのか?」
視線を再び俺らの机の方に向かわせると、美咲はスマホを片手に肉を口に運んでいる。
さっきまで雪と笑い合いながら会話をしていたばっかりに、今の状況は少し寂しそうにも見えた。
俺はずっと一人だったため、なんて事はないが急に一人になった美咲は寂しいに違いない。
「美咲とは昔からこれからも何時でも話せます。......だけど、今は康太くんと話す方が優先順位としては高いです」
ずっと火の近くにいたからだろうか、頬が熱く痛く感じて来る。
それのせいなのか、身体も少しばかり火照っている気がした。
「そうか。じゃあ質問なんだが──」
と、俺が言葉を紡ぐのを遮る形で聞き覚えのある声が俺らの方へと向けられた。
「雪ーちょっとこっち来てー」
俺も彼奴もお互い嫌いな声、美咲が雪を呼んだ。
雪は俺の顔を見ながら両手で手を合わせ、申し訳なさそうに口を動かす。
「呼ばれてるので......また後で話しかけますね」
「ああ、そうしよう」
......横から目線を感じたため振り返って見ると、美咲が俺を睨んでいた。
俺はそこから視線を外すと、空高く浮かぶ満月に目をやり、呟くのだった。
「こりゃ相当嫌われてるな」
と。
バーベキューは親父と母親が二人とも楽しそうに話していて、それだけでも俺は心が暖まる。
雪も美咲も楽しそうに会話をしていたため、それも相まって俺の心はじんわりと優しい気持ちになれた。
ただ、俺自身は雪と話したかったが雪が美咲とずっと話していたため中々会話が出来ずにいた。
そして百音は母親が料理を持って行ってくれていたようで、俺が行く場面ではなかったみたいだ。
片付けは親父と母親、俺と雪で手分けして順調に終わらせ後は各自自室で自分のしたい事をしていた深夜に差し掛かかろうとしていた時間帯。
俺の部屋の扉が、トントンと軽くノックされた。
俺は机の上で勉強をしていたため、ペンを置いてからいいぞと扉に向かって言葉を放つ。
ゆっくりとそれは開かれ、外からは見覚えのある雪が、ゆっくりと部屋に入って来る。
俺は椅子の向きを回転させ、座ったまま雪の方へ目をやった。
「こんな時間にどうしたんだ?」
俺の問いかけに対してベッドに腰を下ろした雪はリラックスした体制で天井を見上げながら。
「今日あんまり康太くんと話せなかったじゃないですか。だからこうして話そうと思って」
「なるほどな。俺も話したいとは思っていた。バーベキューの時は中々機会がなかったもんな」
「ですよねー。......突然なんですけど、明日からこうして定期的に康太くんの部屋でミーティングをしませんか? ほら、まだ私達って情報共有があんまり出来てないじゃないですか」
「......確かにそうだな。そうした方が俺としても安心だ。......なぁ、美咲って昔から誰かを嫌うような性格だったのか?」
俺の言葉に雪は少し目を丸くしたような気がした。
「昔......ですか? 昔の美咲は今よりもずっと......いえ、やっぱりこう言うのは本人から聞くのが一番だと思いますよ?」
何だかたった二日間程しか雪を見てはいないが、今までよりも歯切れの悪い答え方だった。
美咲の過去。何かあったのだろうか。
「本人に聞くって中々難易度高いな。......聞くならまずは俺に対する嫌悪感を解消させないといけないだろうな」
「私、めちゃくちゃ良いの持ってますよ。今ポケットに入ってあるんですけど......」
そう言って雪はポケットに手を入れ、何かチケットような物を取り出す。
それを俺に見せつけ、良く目を凝らして見てみると、旅行の割引券だった。
「これが今三枚私持ってます。百音は百パーセント行かないと思うので私と美咲、そして康太くんで旅行なんてどうでしょうか」
「......それガチで言ってるのか? まだあんまり話してすらいないんだぞ俺は」
「そうですけど行動しないと何も変わらないですよ? 行くなら多分来週位になると思いますが......どうするんですか?」
俺と雪、そして美咲と三人で旅行。
確かに雪の言うように何か行動を起こさなければ何も変わらないだろう。
だがいきなり旅行と言うのは......難易度が高すぎやしないだろうか。
それに、美咲もほぼ確実に俺が居るからと、旅行に行くのを断絶するだろう。
「俺は別にいいんだが......美咲が確実に行かないだろうな。それだとあんまり意味がないと思うんだ」
「美咲は行きたいって言ってました。......ですが康太くんが来るとは言ってませんけどね」
「それだと俺が来ると知られたらドタキャンする可能性はないか? それが一番困ると思うのだが」
「確かに可能性もあります。ですが自分で言うのも何ですが美咲は私に対する信頼度は驚くほど高いです。だから私が何とか説得すれば、大丈夫かも知れません」
気がつくと俺と美咲は目を合わせ、互いに真剣な表情で会話を繰り広げていた。
俺は美咲からの好感度を上げるために、雪は家族の平和を実現するために。
「俺は雪を信じてみる。結果がわかったらまた俺に教えてくれ」
「わかりました。......それじゃあ夜も遅い事ですし私はもう寝ますね。おやすみなさい」
「ああ、また明日な」
そうして雪は昨日の様にゆっくりと扉を閉めて行くのだった。