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3人の義理の妹が全員闇持ちで毎日大変なんだが  作者: ʕ•̫͡•ʔ
【第一章】ぎこちない関係
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妹と四人で暮らす事になるそうなんだが

そんな不安に思う俺とは裏腹に、親父はいつもと変わらない謎に元気な様子で声を発した。


「俺は佐藤弘也。この家の大黒柱になる男だ。これからよろしくな!」


勢いだけで言葉を言い終え、適当に俺らは拍手を送る。

いつもに増して威勢のいい親父に少し背筋に寒気が走ってしまうが、それも親父の個性と見るべきか。


「私は神楽佐由美って言うわ。これから色々あると思うけど、みんなで乗り越えていきましょう」


これも親父と同じく皆一斉に拍手を送っておく。

順番は親父、母親と来たので次は俺ら四人の子供らとなる訳だが。



みんな顔をキョロキョロと回すだけで誰一人としてスタートを切ろうとしなかった。

それを見かねた親父が俺に視線を送り、顎で指示をしてくる。

俺は少し溜め息を吐き、咳払いをしてから口を開いた。


「俺の名前は佐藤康太。これからよろしくお願いします」


と、ごくごく普通だと思われる言葉を選んだ筈だったのだが。

拍手をしてくれているのは親父と母親、そして三人の妹のツインテールの少女だけだ。



何で俺はこうも嫌われているんだろうか。

しかも俺の事を嫌っている奴が美咲だけではなく、もう一人いたというのも中々精神的に来る現実だ。



何だ......? 俺の一体何が原因だと言うのだろうか。

二人のあからさまな歓迎しない雰囲気により、俺らの部屋に重苦しい空気が漂う。



流石の親父も予想しなかった事態に、視線が泳いでおり、母親も例外ではない。

俺は精神的に来るものがあり、額から嫌な汗と共に、鼓動が普段に増して速くなっている。



そんな絶望的な雰囲気の中、一人の少女が明るく、透き通った声を放った。


「私の名前は神楽雪でーす。康太くんも弘也さんとも仲良くしたいです。いっぱい笑おーね!」


思わず俺は大きな拍手を送ってしまう。

ツインテールの少女は明るく、血縁関係のない俺や親父にも優しく対応してくれる様だ。



まさしく俺からすれば女神と何ら変わりはない。

だがこの子以外から嫌われているという現実は、未だに俺の背中にずっひりと重くのしかかっている。



その明るい雪は言い終えると、隣に座る転校生だった美咲を横腹をつつき、美咲は少ししてから口を動かす。


「......名前は美咲っていいます。......よろしく」


お世辞にも明るいとは言えない挨拶。

性格的に暗い感じではなく、ただ単に調子が悪そうな感じではある。



俺は軽く拍手を送り、そちら側へ目線は一切向けなかった。

相手がそう出るならば、こちらもそう出るまでだ。


「......名前は、百音です。よろしく」


こちらは声量も小さく、何だか二人とは違って生気と言うんだろうか、覇気が感じられない。

少し俯き加減で、恐らくだが性格の問題だと思ってしまう。



俺に嫌悪感を抱いているのも、もしかしてこの暗い性格のせいだとするなら、まだ許しがいがある。

俺は天井を見上げ、そう思うのだった。







「私達二人からいきなりなんだけど......言わなくちゃいけない事があってね。聞いてくれる?」


あれから数時間が経ち、家に用意してある材料で母親が手料理作ってくれ、それらを楽しみ、それからお菓子を頬張っていた時だった。

唐突に母親が深刻な声色でそう話すもので、パッと反射的に視線を向けた。



見れば親父も何やら深刻そうな、眉間に皺を寄せている。

俺は固唾を飲み込み、放たれるであろう事に備える。


「......実はもう来週には私達二人仕事上の都合で海外に行かないといかないの。......だから、四人でしばらく頑張ってね?」


「期間は恐らくそうだな......。一年はかかるだろうな......」


思わず心中で嘘だろ、と呟いてしまった。

昨日に続き今日も衝撃的な事を耳にし、俺の精神的な疲労は過去最高に蓄積していたのに。



トンネルの外から差し込む日光が、遠い向こうに離れていった気分だ。


「......流石に、冗談でしょ? そんなこと耐えられないに決まってる」


いち早く親父と母親に反応したのは美咲だった。

そりゃそうだろう。恐らく嫌いだろう俺と暮らすことになりそこから、心の拠り所である母親が居なくなるんだから。



不安に思う事は当然だとは思うが、俺からしてみれば不快。

これ以上でもこれ以下でもない。


「お姉ちゃん、いつもみたいに私が何とかするからさ! きっと大丈夫だよ。康太君もきっと悪い人じゃないよ?」


「そんな問題じゃない。生理的に無理」


「......でもそんなこと言ってても仕方ないよ。別に康太君から危害でも加えられた訳じゃないし、友好な関係さえ築ければよくない?」


「......もう、やめてくれ。俺の事をどう言おうが思っていようが何でもいいが、そうやって争うのはやめてくれ。お前らまでもが仲悪くなる。それだけは避けて欲しいんだ」


俺からの、悲痛な叫び。

だが思っている事は大体言葉にして吐き出す事が出来た。



悲しみで涙も感情も何も出てこないが、これ以上の事態の悪化は何としてでも回避したい。

俺が急に喋り出すとは予想外だったのか、少し険悪ムードだった二人は驚いたのか目を丸くして俺を見ていた。



俺も視線を向けると美咲は慌てて視線を他に飛ばした。


「......その、本当に申し訳ないな。こう言うのは本来親がサポートしていかなくちゃいけない問題だろうが、生憎と仕事でな......。康太、後は頼むぞ」


「......康太君、応援してるよ。何か困ったら電話して」


そう言って母親から紙切れを手渡して貰った俺はポケットに大切に入れておく。

......まぁ恐らく電話なんて掛けないししないだろうが。

外に目を向けてみると綺麗なオレンジ色の夕陽が差し込み、フローリングを照らしている。

それとは裏腹に、俺の心に太陽は灯っていなかった。







その日の夜、俺は一人自室にイヤホンを付け爆音で音楽に入り浸っていた。

悲しむ心を落ち着かせる為にも、今日の出来事を忘れるためにも。



あの後各部屋に荷物を運び、新しい家族になる四人分の部屋が決定した。

まぁ、母親の分の部屋はもうすぐまた空き部屋になる訳だが。



俺の隣の部屋には雪が、その隣に美咲の部屋となっている。

百音は離れに自室を持つ事になっており、離れには誰一人として部屋を持っていない。



そのため周囲に人がいない事になるが、百音が強く望んでいたためそこになった。

あまり人が好きではないんだろうか。



と、そんな事を思っている時だった。

俺の肩にポンポンと軽い力が加わり、反射的に視線を急いで向ける。

そこにはツインテールの美少女......雪が立っていた。


「何だ雪か。急にくるから驚いた。何か用があるのか?」


俺はイヤホンを外し、身体の向きも雪に向けてから、言う。

雪は俺のベットに腰を下ろして、大きく屈伸をする。

......無防備というか、なんと言うか。

取り敢えずリラックスをしていたみたいだ。


「......まぁ単刀直入に言うと連絡先の交換がしたくて。やっぱり連絡先がわからないと不便ですよね。はいこれ」


そう言ってスマホの画面を俺に見せつける。

その画面にはQRコードが表示されており、意図を理解した俺は自分のスマホでそれを読み取る。

そこから連絡先を登録すると、雪は立ち上がって俺に笑顔を浮かべた。


「何か困ったら連絡してくださいね!」


「おう。そうする事にする」


「それじゃあ失礼しますね。おやすみなさい」


そう言いながら俺の部屋をゆっくりと雪は閉めていった。

部屋には雪の仄かな花の香りが漂っていて、じんわりと胸に染み渡るものがある。

この一件で今日俺頑張ってよかったと、思える事が出来るのだった。

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