妹がYouTuberだと姉に知られていたんだが
それから俺は百音から簡単な動画編集の仕方を教えて貰い、実際に萌音が撮影してある動画を早速編集していた。
目の前に広がる大きなデスクに視線を向け、テンポよくカットや字幕、BGM等をよく考えてから入れる。
テンポよく編集さえすれば百音の視聴者は大概最後まで見てくれるらしい。
......まぁ、殆どが顔目当てで来ているだろうから当たり前っちゃ当たり前ではあるのだが。
百音は俺の隣に座り、横から俺へ時折編集のアドバイスを送る。
そうして俺は時間も忘れ、編集に没頭するようになった。
「......やっと終わったか」
思わずそんな気抜けた声を漏らしてしまい、自分でもあまりの集中具合に驚いてしまう。
時刻を確認すると深夜三時を回っており、気がつけば横にいた百音は寝てしまっている。
「......ちょっと休憩してから戻るか」
俺も集中で身体と頭双方に疲労が蓄積していて、ここ離れから自室に戻る長い廊下を歩く余力はない。
そのため少しだけ休憩してから自室に戻る事にした。
俺は小さな寝息をたてて眠る百音を横目に、デスクの上に腕枕を敷き休憩するのだった。
「......お兄ちゃんここ私の部屋だって。起きてよ」
聞き覚えのある声が脳内に響き渡り、俺は眠りから解放された。
目を覚ますと俺は百音の部屋にいて、時計を確認すると午前は終了寸前。
まぁ昨日は編集で夜遅くまで起きていたため、仕方がないと言えばそうだろう。
だが自室に戻るまでなく百音の部屋で寝てしまったのは大きな誤算だ。
俺の計画ならば少しの休憩の後、部屋に移動する予定だったのだが。
少し俺の見立てが甘かったらしい。
「......あぁ、すまん。力尽きて寝てしまった」
俺は顔を上げ困惑の表情を浮かべる百音を前に、そんな寝起き早々謝罪する。
百音は『まぁでも』と一泊を置いてから、再び口を動かす。
「さっき確認したけど編集力が物凄いね。量も質も私の基準を遥かに高いレベルで越してる」
モニターに映る編集画面をマウスを操作しながらそう言う百音。
初めての編集を褒められた俺は少しだけ顔が熱くなるのを感じた。
「......タイピングと、集中力は俺の得意分野だからな」
「それじゃあ動画編集者に打って付けじゃん。......ねぇ」
百音は突然俺の方へ向き、呼び掛ける言葉を放つ。
俺も百音から外していた視線を、彼女に向け直す。
「今バイトしてるでしょ? それ辞めて、私に雇われる気はある?」
「......条件次第だな」
単純に今俺がやっているバイトよりも条件が良いならやる。
所詮バイトには思入れも何もなく、ただ金を稼ぐためにしていた事であり、辞めることに関しては何の躊躇いもない。
「今お兄ちゃんのバイト先って最低賃金だよね? 私はそれの十倍の時給を保証します」
「是非俺を雇ってくれ」
「幾ら何でも即決過ぎない??」
当たり前だろう。
今俺が貰っている賃金の十倍を保証してくれる神条件が目の前にあるのに、噛み付かない馬鹿がどこにいるのか。
「バイトは今日で辞める。だから今日から俺はお前の雇われ人だ」
「雇われるからにはきちんと仕事して貰うよ? そうだなーじゃあ今日は動画編集をして貰うとして......。慣れてきたら私と一緒に動画撮影もしない?」
「俺もyoutuberになれって事か?」
「そういう事にはなるのかな? まぁでも私が考えてるのはそれは随分先の事だから。後々考えて嫌だったらそれでいいよ」
「......わかった。それじゃあ今日は動画編集だけする」
「じゃあ初仕事よろしくね」
「任せてくれ」
こうして俺は妹に雇われる事になった。
その日の夜、百音から借りたノートパソコンを自室に持ち込み、俺は動画編集をしていたのだが。
昨日の就寝時間があまりにも遅く、睡眠時間が足りなかったせいか途中で寝てしまっていた。
「......起きてください。恒例の時間ですよ」
そんな頼り甲斐のある声が俺の耳には入り、覚醒する。
机に突っ伏して寝ていた俺は頭を上げ、すぐ隣に雪が立っている事を確認した。
「すまん、気付いたら寝てしまった」
「別に問題ないですよ。それよりも私は康太を起こしてしまった事に少しだけ罪悪感を感じています」
「それに関しては気にしないでくれ。俺は充分寝た。それよりも、ミーティングだな」
俺と雪は毎日この部屋で色々な情報交換をしている。
勿論毎日と話していれば交換する情報も尽きて来る訳だが、そういう時は他愛のない笑い話をしていた。
俺と雪がこの部屋で話すようになってどれくらいの日が経ったか。
時と言うのは非情で、流れは速い。
「そうです、ミーティングの時間です。......ところで康太くん、その画面について説明して頂けませんか?」
俺は背筋が凍りついたのを感じた。
俺は動画編集中に寝落ちしてしまったせいで、動画編集中の画面がそのまま点灯している。
勿論それを雪は見た訳で、今こうして疑問を俺にぶつけている。
「えーとこれはだな......」
俺がしどろもどろになりながら何とか言葉を紡いでいる中、雪は空かさず言葉を投げかける。
「昨日夜中百音の部屋にいましたよね。何をしていたんですか?」
「何でそれを知ってるんだ?」
「それは後から説明します。まずは答えて頂けませんか?」
俺は鋭い雪の視線に口が動きそうになってしまうが、百音がYoutubeをしている事は秘密だ。
それを今俺が雪に暴露してしまえば百音からの信頼は全て崩れ去る。
拳は手汗で気持ち悪く、背中は嫌な汗が滴るのを感じた。
雪は相変わらず鋭い目線を俺に送り続けていた......のだが。
突如として深い溜め息を吐いてから、肩を竦め、ゆっくりと話始めるのだった。
「......百音が有名YouTuberだってこと、気付かない訳がないじゃないですか」
と。




