妹がyoutuberだったんだが
あれから俺は無事に退院し、学校に再び通えるようになった。
久しぶりの学校で少し緊張していたが、皆俺の事を歓迎してくれ、俺は安心して過ごす事が出来た。
美咲とは家で会っても敵対心を向けること無く、普通に過ごすようになった。
何となくそんな状態に違和感を感じつつも俺は特に態度を変えることなく生活し続ける。
雪とはこれまでもこれからも毎日ミーティングをし続ける予定であり、特に話す事がない時は他愛のない話を繰り広げている。
日々思うのだが雪は美咲や百音とは違い元気で活発な子でとても頼りがいがあり、毎日お世話になっている。
朝飯も夕飯も雪が担当しており、申し訳ないとは思いつつも甘えてしまう。
これから少しずつでも雪に対しては援助していこうとは思っている。
そして俺に話を戻すが、学校生活では新しいメンバーがクラスに加わろうとしていた。
──それが今現在教卓の前に悠々と立ち、俺らを見渡す転校生。
ショートのウェービーヘアーで上品に手を前に束ね、醸し出す雰囲気に思わず『お嬢様』と言ってしまいそうだ。
担任が一通り転校生について説明をした後、彼女は俺らに目を向けたままゆっくりと口を開き始めた。
「私の名前は赤江愛と言います。これからよろしくお願いします」
ごくごくありふれた無難な自己紹介だったと思う。
その後担任から席を指定され、俺らの後ろ、美咲と隣の席に座らせられる事になる。
正直俺の班転校生が多すぎるとは思うが、これもまぁ運命と言う奴か。
俺の隣に座る麻美以外の班員は全員転校生になってしまった。
俺らのクラスは転校生が来るとその後の一時間は自由に班になり話すというのが前例だった。
その為クラスからそれを求める声があがり、先生も渋々それを了承し自由に喋る班活動が開始される事となる。
四人半に席を適当に作ってから席に身を委ね、俺の目の前に相対する形で座ったお上品なお嬢様系転校生──赤江愛と目を合わす。
「私達のクラス転校生多すぎるよねーー。まーそっちの方が新鮮だから良いんだけどさ」
班になって早々麻美がそんな事を言い出し始める。
愛は視線を横にやり、隣に座る美咲に対して鋭い目線を向けた。
「......貴方も転校生なのかしら?」
口元だけは笑っており、言っていることも正しく、少し気味悪く感じてしまう。
「そうだけど。何でわかったの?」
美咲は怪訝な表情を浮かべてそんな質問を愛にぶつける。
恐らく誰もが思う至極真っ当な疑問だっただろう。
「私洞察力は伊達じゃないの。貴方のことを観察しているとそのコミニュケーションの割には少ない交友関係......。色々な事を吟味した結果、貴方を私と同じく転校生だと考察したの」
「何だか聞いてて気分悪い。そうやって色んな人も観察してるの?」
「そんなの当たり前だわ。情報収集は何事においても最も重要な事。このクラスという狭い世界において情報を持っておく事にマイナスになる事はないわ」
確かに愛の言っている事は理解は出来る。
だが誰かからそんな目で観察されているというよは理論云々よりもただ単に気持ちが悪い。
「愛ちゃんってよく人の事見るんだねー。あ、話変わるけど得意な事とかってある?」
そんな麻美の質問に対して『そうですね、』と前置きをおいて愛は続ける。
「......動画編集、とでも言っておこうかしらね」
「えすごーい。何かYouTubeとかでもやってるの?」
「それはノーコメント。私はあまりプライベートな事は人に言わないの」
少し冷たく言い放ったその言葉で場の雰囲気が悪くなってしまうのを俺は肌で感じた。
ここで話始めるのも気が引けるのに加え、特に聞くこともない。
それよりもどうして転校生が来る時は重苦しい雰囲気にならないといけないのか。
美咲が転校してきた時も男性恐怖症の影響で俺に冷たく接し、場の空気が悪くなった。
今回はそもそもの性格がお嬢様のよつな冷たく人を見下すような感じの悪い奴だ。
いきなりこっちも相手の態度が悪いからと言って悪く接す事は出来ない。
俺は溜め息を吐き、心中で呟くのだった。
「転校生って癖があるやつしか来ないのかよ」
と。
その日俺はバイトの後友達と遊びに行っており、帰宅したのは日をまたごうとしている時間帯だった。
家のドアノブを捻るとしっかりと施錠してあり、運悪く家の鍵を忘れてしまった俺は玄関から家に入ることは出来ない。
美咲と雪はこの時間になると大概寝ており、ここで電話をかけて起こすのは何だか気が引けてしまう。
他に窓なんか開いてないかと家の周囲を周り始めた俺は一つ窓が開いている部屋を見つけた。
そこは離れにある窓であり、百音が普段生活しているであろう部屋。
カーテンこそ閉めているが、隙間から光が漏れ出しており、まだ起きている事が窺える。
そこから家に入るのもあまり気は進まないが雪や美咲を起こしてしまうよりかはマシだ。
俺はその窓に入ろうと近づいて行っている時、気付いた事があった。
窓に近づけば近づくほど何なら百音の話し声が耳に入って来るのだ。
「通話でもしてるのか?」
そんな事を思わせるような声で、時折笑い声をあげたり大きな声も出したりしてかなり盛り上がっている。
普段の百音からは想像もつかない楽しそうな声だった。
俺はそんな事実に驚きながらも、窓に足を乗せ登ってみせカーテンを開いた。
部屋に入るとゲーミングチェアにゆったりと身を委ね、近くにエナジードリンクを多く置き、マイクに向かって楽しそうに話す百音の姿がある。
俺が呆然と立ち尽くしながら百音を見つめていると俺の視線に気付いたのかこちらへ顔を向けた刹那。
「きゃああああああ!!!!!」
とそんな叫び声をあげ、驚いた表情をする百音。
あまりにも大きな声に俺も思わず目を丸くしてしまう。
「落ち着け百音。俺だよ俺」
「本当に何なの!? 急に入ってこられたら泥棒だって思うじゃんね! てか今配信中なんだけど!!!」
「配信中って何だよ?」
「あーもうウザイなー。私の秘密見たんだし、責任は取ってくれるよね」
百音はマウスを少し弄ったあと、再び言葉を紡ぎ出す。
「──私、youtuberなんだよね」
と。




