俺の平和な生活は戻って来る気がしないんだが
そんな重苦しい事を言われ、俺と美咲二人きりの病室は息苦しい空気に包まれた。
美咲は俯き加減で、そんな彼女に何か話しかけようとするが何を話せばいいのか分からず口が思うように動かない。
「......だから俺の事をあんなに敵対視してたのか?」
今までずっと疑問に思っていた事を俺はぶつける事にした。
今この雰囲気で言うべき事じゃないかも知れないが、俺は意を決したのだ。
「......そう。私は男性に対して強い恐怖心がある。普段の学校での男子はある程度慣れていたけど、再婚して家の中に男性、康太がいる事は私にとって更にストレスだった」
同じ屋根の下に男がいると言うのは美咲が虐待されていた数年ぶりと言うことだったのか。
学校に男子がいるのは慣れて来ていたが、流石に家族に男がいる状況は受け入れられなかったと。
「正直俺の事今でも怖いか」
「......うん。でも、前よりかは全然怖くない。──寧ろ、少しだけ頼りにしてしまいそうになる」
美咲はそんな言葉を俺に視線を合わせ、言う。
少しだけ笑みを浮かべて、俺に向かって微笑んだ。
そんな俺は少し恥ずかしくなり、美咲から目線を外し適当に窓の外に広がる闇に焦点を合わせる。
「──私の命の恩人、本当にありがとうね」
後ろからそんな声が聞こえ、俺はそのまま美咲からそっぽを向きながら答える。
「......お、おう。今後とも、よろしく」
「何それ。とりあえずナースコール押しとくね」
これで美咲が俺に見せていた敵対心の理由がわかり、少し俺に対する嫌悪感も改善された。
──これで、やっと普通の生活が俺に戻って来るのだろうか。
俺はそうなる事を静かに願いながら外に広がる夜景に目を向けていた。
医師から聞いた話を要約して話すとするなら、こうだ。
俺は奇跡的に岸へ打ち上げられており、普通ならそんな事は有り得ないらしい。
川の中で溺れれば川底へと水流の影響で押し流され、浮上する事無く命が途絶えるのが普通と言う。
だが俺は何故かわからないが、岸に打ち上げられているのが発見され無事にこうして生きている。
俺が目を覚ました時には一日が経過しており、月曜の未明だった。
その為学校に行けるはずもなく、一週間ほど検査入院する事になる。
その間雪と美咲が毎日見舞いに来てくれ、入院生活の寂しさを和らげる事が出来た。
俺の友達も事故を知り、見舞いにも来てくれ本当に心の支えだ。
俺が試験中に抜け出し美咲へと誤解を解こうと試みたあの前代未聞の事件は結構好評らしい。
男子からは面白がられ勇気を称えられ、女子からは愛を叫ぶようでロマンチックだったと。
これで俺は安心してまた学校に通う事が出来る。
美咲も態度は大幅に軟化し、笑いなんかも見せてくれるようになった。
まだ作り笑顔感が満載だが、恐怖症なのだから仕方のない面もあるだろう。
ゆっくりと俺の事を信頼してくれ、思いがままに笑ってくれる日が来ると信じている。
そんな事を思いながら天井を眺めていた時だった。
唐突に病室の扉が乱暴に開かれ、視線を向けるとそこには麻美が息を荒らげながら立っている。
「どうしたんだよ麻美?」
「どうしたって......。何で私に相談してくれなかったの?」
そんな事を語気を荒らげながら喋り出し、俺に距離を詰めていく。
「ちょっと待ってくれ。相談しなかったってなんの事だ?」
「......全部美咲ちゃんから聞いた。もういい! ──でもまぁ康太が生きててくれてよかった」
「感情の起伏が激しいな。それよりも最近学校はどうだ?」
「私こう見てもイライラしてるんだけど! まぁいいけどさ。......学校はねそうだなーあ、修学旅行の準備が始まったくらい?」
修学旅行。俺は高校二年生で修学旅行を今年控えている。
最近は忙しすぎてそんな事すら忘れていたが、そう言えば気が付けばもう迫っていた。
「班決めとかもうあった感じか?」
「いやまだ。多分これからあるんじゃない? あ、あとね!」
ふっと今話題を思い出したのか少し声が高まる麻美。
俺は何となく固唾を飲み込んだ。
「また転校生が来るんだって!」
「──まじかよ」
やはり俺の嫌な予感は間違っていなかったみたいだ。
またこれからも波乱の予感がしてしまうのは気のせいだろうか。
......いや、気のせいであって欲しいな。
これにて第二章は終了となります。
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