深夜、少女は渦巻く川の中へと落ちていく
俺達は雨でずぶ濡れになりがらも、何とか旅館に着く事が出来た。
俺らは各部屋に戻ると濡れた身体をタオルで拭き、持参していた予備の服に着替え、あと半日を旅館で過ごす事となる。
そこで雪が提案したのは残り半日を一つの部屋に集まり、何かしながら一日を過ごすと言うものだ。
他にこれといった案も出なかったので俺と美咲もそれを承諾、決定した。
そういう訳でその日は雪の部屋に集まってはカードゲームやスマホゲーム、他愛のない話などで盛り上がりを見せた。
気が付けば時刻は夕方を示しており、部屋には豪勢な料理が運び込まれ、俺らはそれらを美味しく頬張った。
お腹が満たされた後は旅館にある温泉に入りに行き、温泉街自慢のお湯を堪能した後はコーヒー牛乳をがぶ飲みする。
それからは少し肌寒い風呂上がりの夜空の下を三人で歩き、近くのコンビニで今夜繰り広げれるであろうゲームに備えて、お菓子等を購入した。
旅館に戻ると早速ゲームの対戦が始まり、それらは実に素晴らしい盛り上がりを見せた。
それなら何時間も雑談をしながら負けたり勝ったり、何回俺は笑ったのかわからない。
ただ眠気は必ず人間には来るもので、恐らく深夜二時を過ぎた辺りから段々会話は途絶え初めた。
やがて俺らは部屋の灯りをつけたまま、寝入ってしまっていた。
......あれは何時くらいだっただろうか。
俺はその時は睡魔の影響で詳しい時刻は覚えていない。
ゴソゴソと言う物音で目が覚めた俺は灯りが消され、真っ暗になった部屋を動く人影を認めた。
窓の方に視線をやると、大粒の雨が激しく降り注いでおり、よく耳を傾ければ遠方から雷鳴も響いている。
そんな中、その人影はゆっくりと扉を開き、廊下の方へと姿を消す。
俺はバッと勢いよく立ち上がり、部屋の照明をつける。
瞬時に部屋は白色に照らされ、仰向けになって力尽きた雪しか俺以外にこの部屋にはいない。
......つまり、あのゴソゴソと動いていた人物は美咲だ。
トイレならば部屋にも付いているし、何をしに部屋の外へと出たのか。
もしかしたら目が覚めて元々寝る予定だった自分の部屋で寝に行っただけなのかも知れない。
......だが、俺の胸騒ぎはそれだけで腑に落ちる事はなかった。
俺は力尽きた雪の肩をさすり、彼女を起こす。
重い瞼を擦りながら起きた雪に俺は事情を一通り説明する。
「ただ自分の部屋に戻って行っただけですよー。それか、廊下の自販機とか〜?」
「それだけならいいんだが......。心配だから美咲を追ってみる事にする」
「はーい。私は寝てますね〜」
そう言ってから雪は畳に倒れ込み、再び寝息を吐き始める。
俺はそんな雪を横目に、部屋から勢いよく飛び出すのだった。
廊下に出ると遅い足取りで廊下を歩く美咲の背中を俺はみつけ、ゆっくりと気付かれない様に後をつける。
美咲はそのまま一階へと降りていき、そして豪雨の外へ靴を履いて歩き出した。
俺も靴を履き、美咲との距離を詰めて声が十分に届く範囲に入ってから、口を開いた。
「おい美咲。こんな時間にどこに行く気だ?」
俺のそんな鋭い一声に、美咲は肩をビクッと震わせ、後ろに顔をやり俺を確認する。
「......付いて、来ないで」
そんな言葉を吐き捨ててから、美咲はいきなり大雨で、霧濃ゆい夜の道を走り出す。
俺も慌てて美咲の後を追うが、美咲は妙に足が早く中々距離が縮む事はない。
そのまま俺とレースを繰り広げ、やがて遠方から轟々と響く滝の音が耳に入り始める。
霧が濃く、雨足も強く景色は良くはないが、今日来たばかりの滝へと俺と美咲は着いていた。
美咲は橋の真ん中まで走り抜けると、真ん中でいきなり体育座りをし出す。
俺はゆっくりと美咲へと近付き、彼女の目の前に立つ。
「美咲、これは一体どう言う真似だ」
俺が問いかける質問に、美咲は顔を下げたまま答える気はない。
荒れた天候の中吹き荒れる暴風が時折橋全体を揺らしている。
「はやく戻るぞ。このままじゃ風邪引いて家に帰る事になる」
俺が放った声は、雷鳴と雨で邪魔をされ、美咲には届いただろうが彼女は口を開く事はない。
ほんの数時間前まで普通だったのに、いきなり外に飛び出して一体何があったのか。
「何か、悩み事でもあるのか?」
「──逆に、無いわけないと思ってるの!? いい加減、そうやって構うのやめてくれる! 康太は所詮、他人よ!!」
俺が投げかけた声に、物凄い剣幕で美咲は遂に応答する。
聞いた事もない、美咲の感情的な声だった。
いきなり、突然に豹変する美咲に対して俺は思わず狼狽えてしまう。
「いきなり何だよ......。しかも所詮は他人とか、何なんだよ」
「そっちこそ何なの? 私最初っから康太の事嫌いって示してた! なのに、康太は私にずっと構って! 学校生活も、私生活も、全部全部環境がまるっきり変わって! 私は、私は──全てが、ストレスだった!!」
俺は今まで抱え込んで来ていたであろう感情を解き放つ美咲を前に、ただただ立ち尽くす事しか出来ない。
優しい一声を掛けるのも、今この状況下ではマイナスにしかならず、それに加えて俺にそんな事をする気力は残っていなかった。
美咲から吐き出される言葉はすべて、嘘偽りはない真実なのだろうから。
俺の心は少し、傷が入ってしまう。
「康太と一緒にいたせいで! あんな事実無根な噂を広げられた! お母さんももう近くにはいない、お父さんも離婚、雪も康太のせいで私と話す事も少なくなった!! 康太さえいなくなれば私は──」
そんな荒らげた声を放つ美咲を遮る形で、今までにない暴風が俺ら二人に吹き荒れる。
その風は近くの気さえもバキバキと嫌な音をたてながらなぎ倒し、そしてこの吊り橋にも直撃した。
こんな暴風に耐えられる訳もなく橋はワイヤーがパチンと切れ、そのまま橋は大きく傾斜する。
美咲はそのまま俺の瞳を見つめながら、背中から川へと落下していく。
俺も美咲と視線が合いながら、そのまま川の方へと落ちていく。
そしてそのまま俺は大きな水飛沫を上げ、深夜、荒れに荒れる川の中へと俺と美咲は落ちて行った。
毎日投稿開始予定日は5月3日からです。




