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HEAVEN!へヴン!HEAVEN!4  作者: coconeko
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「きゃあ!可愛いわ!」

「うん。いいね」

 ホテルに入るなり、女性二人はあちらこちらをチェックして忙しない。

「こういうの、女性って好きだよね」

 セインも、きょろきょろと見渡しながら、心なしか嬉しそうだ。

「お前さんまで喜んでるって言うのはどういう事だ」

「だって、綺麗じゃない?」

 つやつやの木製の壁には、所々木組み細工が施され、正面にあるフロントに続く階段は緩やかな螺旋で手摺も丸く、先の部分には可愛らしい天使の彫刻がラッパを吹いている。床も木製で、木の種類をいくつか変えて、こちらも壁と同様、木組み細工で飾られていた。

「へえー」

 ギャンガルドとタカも、改めてホテルの内部を見回した。

「天井からシャンデリアがぶら下がってら」

 入り口から入って、左側。丸いアンティークなテーブルが、これまたアンティークな椅子とともに並び、奥にはカウンター席がある。夜にはバーテンが立っているのが、とても似合いそうなカウンターだ。

昼間は普通にカフェテリアになっているのだろう。ウェイトレスらしいエプロン姿の少女が、こちらをうかがっている。

 奥のテーブルにカップルと、数人の客が座って、楽しそうに話をしていた。

 そして、中央にシャンデリア。螺旋の階段と相まって、舞踏会でも開かれそうな雰囲気である。

「部屋もきっと可愛いわ」

「キャルちゃんとあたし、一緒に寝ようか?」

「それも楽しそうね!」

 ジャムリムもキャルも、階段を上ってはしゃいでいる。

彼女たちの先にある階段の踊り場には、大きなステンドグラスが、壮大な神話を物語って輝いている。

「本当に、こんな立派なホテルが格安なの?心配になって来た」

タカに肩を借り、松葉杖で歩きながら、セインは口元を引きつらせた。

「フロントで聞いて来ましたけど、あの値段で大丈夫ですぜ。心配しなさんな旦那」

「そうそう。心配しすぎは怪我の元だぜ?」

ギャンガルドもタカも、肝が据わっているのか、大雑把なだけなのか。

「両方だろうな」

ぽつりとつぶやいたセインだった。

 

「預けた馬の納屋はあっち?」

フロントに着くなり、セインはクレイの所在を確かめる。

「ええ。お預かりしましたお馬なら、飼葉と水を差し上げております。いつでもお会いできますよ」

「ありがとう」

「いいえ。お部屋は三つでよろしいですね?では、書類にサインを。・・・こちらが、お客様の鍵となっております。係の者がご案内致しますので、ごゆっくりどうぞ」

 フロントボーイが言うなり、別のボーイが、セインの様子から気を使ったのだろう、車椅子を引いて来る。

「こちらへどうぞ」

「へえ。こういうのも準備してあるんだ」

「足の不自由な方も、お出でになりますので常備させていただいております」

 セインが車椅子に座ると、ボーイはそのセインの座った車椅子を押しながら、全員を用意された客室へと案内した。

 途中で乗ったエレベーターも、木製でデザインが古く、階を表示する案内板が半円になっており、針で示すタイプのものだった。これも、可愛いと女性陣に好評だった。

 部屋の説明を受け、鍵をボーイから受け取り、チップを渡して帰らせると、キャルとジャムリムは部屋割もそこそこにして、買い物に出かけてしまった。

「よっぽど楽しみにしていたんだねえ」

 荷物を任されて、男三人取り残された。

「部屋割なんだけど、僕とキャルはいつも通り二人で一部屋もらうよ。ダブルの部屋を三つ取ったんでしょ?残りの二部屋はそっちに任せるよ」

 セインがボーイから貰った鍵を二つ、タカに渡す。

「まてまて。賢者ひとりにさせられるか。何かあったらお嬢に換金されちまう」

 言いながら、ギャンガルドは、セインが入ろうとした部屋の扉を閉めてしまった。

「ちょっと。何するのさ」

 ムッとして睨みつけるが、ギャンガルドはニカリと笑って、

「こっちの部屋で、男三人、親交でも深めようや?」

 などと言う

「悪いけど、僕、君との親交は充分に深めているから遠慮するよ」

「えー。カードするにしたって、タカと二人じゃつまらねえ」

「・・・ポーカーで僕からお金巻き上げようって腹でしょ?言っとくけど、僕強いよ」

 にっこりとセインが笑う。

「・・・カードゲームなんざ知らないと思ったのに」

「お生憎さま。タカ、悪いんだけど、荷物、持ってきてくれる?」

 言うなり、器用に車椅子のまま扉をあけて、中に入ってしまった。

「ああ、ポーカーがしたいなら、さっきのホテルの下のラウンジにでも行けばいいよ。きっと暇な旅行客が相手してくれるんじゃない?」

 タカからキャルの鞄を受け取りながら、セインは室内を見渡している。どうしても付き合ってくれそうにない。

「じゃあ、ごゆっくり」

 最後にまた拒絶の笑顔を残して、部屋の扉を閉めてしまった。

「キャプテン。旦那に付き合ってもらいたかったら、たぶんお嬢と一緒でないと」

「やめとくよ。賢者にボロ負けすんのがオチだろ。あー。つまんねえ」

 つまらないと言いながら、顔は嬉しそうだ。

 これはまた、何か企んでいるのかもしれない。

 諦めの悪いギャンガルドの、ギャンガルドらしい一面だ。周りは迷惑なのだが。

「つまんねえから、荷物置いたら、さっさと町に出るぞ」

「姐さん待たないんですか?」

「待ってたら日が暮れるだろうが。出先でつかまえりゃ良い」

 セインのことは別にして、ギャンガルドもこの町には大いに興味があるらしい。

 さっさと部屋に荷物を放り込むと、部屋のチェックもそこそこに、さっさとタカを連れて町へと繰り出した。

 ホテルに一人、残されたセインは、ギャンガルドたちが出かけたことは気配で分かったので、安心して部屋でのんびりすることに決め込んだ。

 開け放った窓からは、家々の屋根が連なり、その向こうに、やはりレンガの壁が見える。

 入り込む風は緩やかで気持ちがいい。

「さて、うるさいのもいなくなったことだし、キャルが帰ってくるまで、いくらか足を治しておかないとね」

 セインは動かせない足をさすると、車椅子をベッドへと寄せた。

 セインロズドの姿を取れば、早めに完治できるだろう。

 セインは伝説の聖剣、大賢者セインロズドの本体であり、鞘でもある。剣の姿を取ることができ、その姿なら、人の姿でいるよりも、ずっと早く怪我を治すことができる。

 構造は、本人にも分かっていない。

 車椅子に座ったまま、セインロズドになることもできないので、ベッドに横になろうと両腕に力を込めた時だった。

 誰かが、部屋の扉をノックした。

「・・・誰だろう?」

 知っている誰かの気配のどれでもない。

「ホテルの人かな?」

 降りようとした車椅子の車輪の向きを変え、扉に向かう。

「はい?」

 返事をすれば、聞いたことのある声がした。

「突然失礼致します。私、駅馬車でお世話になった者ですが」

 扉を挟んで、少しこもって聞こえる声は、駅馬車で知り合った、初老の男性のものだった。

「ああ。どうしました?」

 どうやってか、ホテルの場所を探して会いに来たらしい。

 他の乗客を、強盗団から守ろうと背中に庇っていた姿を思い出す。あの勇敢な男性が、わざわざホテルを探して尋ねてくるなど、どうしたことだろうか。

 セインは快く扉を開けて、男性を迎え入れた。


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