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HEAVEN!へヴン!HEAVEN!4  作者: coconeko
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少しだけ休憩しよう

「こうゆうのを、お役所仕事って言うのよね」

 腕組みしながら、城へ向かって馬を跳ばす役人たちの背中を見送るキャルに、セインは小さく肩を落とした。

「いや、彼らは行動早いと思うよ?」

「そうかしら?だいたい、町のルールがおかしくなった時点で、王都にでも連絡入れておけばこんな事態にならなかったのよ。そう思わない?」

 言われてみればその通りで。

「彼ら役人は、国の規律を優先されますから、この領地の規則は彼らには採用されないのです。ですから、感覚に多少のズレがあるのでしょう」

 ラルが城を見つめながら呟くように説明するので、キャルは余計に鼻息も荒く、眉もつり上がり。

「そこで暮らす人々の暮らしを支えてこその役所ってもんだわ!やっぱり、お役所仕事って事よっ!」

 今は役所の外に出ているとはいえ、正面入り口のすぐ手前である。こそこそと様子を見に出て来ていた役人たちが、キャルの一言で一斉に姿を消してしまった。

「じゃー、まあ、本元に会ったら、しっかり伝えなきゃね」

「そうね!」

 ひとしきり城を睨みつけていたキャルだったが、飽きたのか疲れたのか、くるりとラルに向き直ると、にっこりと笑って見せた。

「これで、明日にはあの変態執事、ヘッド・ハントの対象になっている筈よ」

 それだけの確証がある。ここにいるセインとラルと、他にも生きている証拠が沢山の証言をしてくれるだろう。

 ようやく、一同は今晩のねぐらとなる宿屋へと足を向ける。

 今日は一日よく動いたせいか、キャルはあくびを零してはうつらうつらとし始めるものだから、セインが途中でおんぶして、先日宿泊したホテルとは違い、コテージ風の小さな宿屋に案内された。

「今日は、ここでお休みになって下さい。ホテルと違い、小さな建物の方が、ごまかしがきかない分安全でしょうから」

「ありがとう。正直、あのホテルは何だか泊まり辛くてね」

 セインが困ったように眉を下げるものだから、くすくすと笑うラルに連れられて、コテージの扉を開ける。

「お帰りなさいませ!」

 扉を開ければ、思わぬ人物が両手を広げて待っていた。

 質素なドレスは相変わらずだ。ちょっと見なかっただけなのに、ずいぶん久しぶりに会うような気がする。

「パムル!」

 駆け寄る彼女を、全員笑顔で迎えた。

「ああ、皆さんご無事で!」

「それはこちらのセリフだよ!」

 ジャムリムが、パムルの額をこつんと小突く。

「途中でいきなり城に引き返しちまうんだから」

「すみません」

 ちいさく、首をすくめたパムルに横から小さな影が飛びついた。

「お嬢様!」

「ラル?!」

 抱きついたまま、ボロボロと泣き出したラルの頭を、パムルが優しく撫でる。

「お前にも、心配をかけさせました。カールは無事ですよ」

「本当ですか?」

「ええ」

 頷くパムルに、さらに涙がこぼれるようで、ラルは顔をあわててハンカチでぬぐった。

「よかった!」

 そのくしゃくしゃになった顔を、パムルも自分のハンカチを取り出してぬぐってやる。

「本当に、ごめんなさい」

「お嬢様が、謝ることではありません」

「でも、お前の兄を、危険な目に合わせてしまったわ」

「あれは、カールが勝手にした事です。それに、あの時、お嬢様を追わなければ、私が兄の尻を蹴りつけていましたわ!」

「まあ!」

 大胆なメイドの告白に、二人でくすくすと笑った。

「私たち、お互いをそんなに知らなかったというのに、ずいぶんと近しい間柄に思えるのは何故かしら」

「不思議ですね」

「そうね」

 傍から見れば、姉妹の様でもある二人は、本当に中睦まじく見える。

 ラルが落ち着くのを見計らい、パムルが一同へ向き直った。

「ご無事で何よりです。何とお礼を述べて良いものか。本当に感謝いたします」

 深々と頭を下げる。

「良いのよ別に。頭を上げてよ。そんな大したことしてないわ」

 キャルがぺん、と、目の前のパムルの頭を叩いた。

「でも」

「でもも何もへったくれもない!まだ、あの変態執事、掴まってないのでしょ?」

 顔を上げて、眉をハの字にするパムルに向かって、キャルは両手を腰に当ててふんぞり返って見上げる。

 ふわふわの金髪が、ポン、と揺れた。

「まだまだ解決したとは言い難いわ!これからが勝負時よ。私たちにかまけている暇があるなら、お城に戻ってあの変態をふん縛ってしまえばいいわ!協力は惜しまないわよ!」

 びし!っとパムルを指差して、鼻息も荒いキャルに、セインが慌てて止めに入った。

「待って待って!今日はもう夜遅いし、お腹空かないの?眠くいないの?」

「そうだなあ。腹減ったぜ。俺は」

「君に聞いてないっ!」

 割って入ったギャンガルドを睨みつけ、セインはキャルの瞳を覗き込む。


 ぐううううぅぅぅぅ~


 大きな音が、コテージ内に響き渡った。

「あーあー、しょうがねえなーもう。お嬢はそこに座っとけ。おれっちが飯作ってやるから」

 タカの言葉に、キャルの顔がぼん、と真っ赤になった。

「いひゃーっ!」

「セインが変な事言うから思い出してお腹鳴っちゃったじゃない!」

「ほえほくおへい?」

 顔を見るために屈んでいたセインは、両頬をキャルに引っ張られた。

「食料はあるのかい?」

「あ、はい。キッチンはこちらに」

 そんなやり取りにも慣れたもので、タカはラルを案内に、全員の腹を満たすべく出て行ってしまった。

「あの…」

 ぎゅうぎゅうと頬を引っ張り、引っ張られる二人に、おずおずとパムルが進み出る。

「今日は、お母様のご兄妹がおりますから、大丈夫です。カントも、今は自身の部屋へ謹慎中の身。あとは、何とかなります。皆さまにこれ以上のご迷惑をおかけするわけには」

 屈んで、キャルに微笑んだ。

「はえ?」

「キャ、キャル!?」

「いひゃーい!」

 微笑んだ瞬間に、パムルは両頬を引っ張られて涙が出た。

「そういう事を言う口はこの口か!」

「キャル、そこは口じゃなくてほっぺただよ、やめなよ」

「ひゃーあ!はらひへくははひ!」

「悪いことしたあとは何ていうの?」

「パムルは悪いことしてないよ。キャルってば!」

「ごへんひゃひゃひ!」

 セインが引き止めたからか、謝ったからか、ようやく手を離してもらえて、パムルは尻もちを付きながら赤くなった頬を押さえた。

「きゃーるー?」

「あいたたた!」

 これにはさすがにセインも怒ったらしくキャルの両こめかみを、げんこつでグリグリと締め付けている。

「何よ!セインのくせに生意気よ!」

「うっわ、そういう事言うの?」

「だって、パムルが悪いんだもん!」

「え?」

 何故頬を引っ張られたのか分からなかったパムルは、きょとんとする。

 セインが深く溜め息を吐き、キャルの頭を優しく撫でた。

「君の言いたい事も分かるけどね。ちゃんと言ってあげないと、パムルは分からないみたいだけど?」

 セインの言葉に、キャルがパムルを睨んだ。

 思わず、びくりと身をすくませるパムルの頬を、今度はがっちりと掴んで、キャルが吠えた。

「ここまで関わってんだから、最後まで関わらせなさいよ!」

 その大声に、パムルはきんきんする耳をおさえて、ぱちくりと眼を瞬かせた。

「分かった?」

「は、はいっ」

 ほとんど、条件反射的に頷いたものの、目の前の小さな女の子は満足したようで、ヒマワリみたいに笑って、パムルの頬を解放してくれた。

「よし!」

 満足げに両手を腰に当て、胸を張る。

 その様が、いかにもおかしくて、パムルは思わずくすくすと笑いだす。

「大丈夫かい?」

 そっと、ジャムリムにハンカチを渡されて、こくりと頷いた。

 笑いながら、涙がこぼれて止まらない。


 この人たちは、なんて。


「ふふ。ありがとうございます。私、失礼な事を致しましたわ。最後まで、どうぞ関わって下さいまし。よろしくお願い致しますわ」

 スカートをふわりと広げて、礼をとる。

 優しい人たちに巡り合えた幸運。

 それは、今までの彼女の中にあったわだかまりを、全て溶かしてくれるようだった。

「では、食事が終わり次第、もう一仕事だわね」

「そうだな。善は急げってな」

「ギャンギャンが言うと、何だか違うモノに聞こえるね」

「これから城へ取って返して、奴の息の根止めてやるのかい?」

「はいはい、まずは腹拵えッスよ!出来たのから運んで下せぇ」

「あ!手伝うー!」

 急に活き活きとし始めたのは、やはり全員腹が減っていたのだろう。

 タカが作る、手早くも美味い料理に全員で感心し、早々に胃袋に収めていくのだった。


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