28:変化の兆し
散々海を堪能し、そろそろ帰るか、となった。
堪能したと言ったが、海には入っていない。入ろうとしたところで止められた。流石にダメらしい。仕方ないので砂浜を歩き、時折落ちている貝殻を見つけてはそれを観察してみたり、…知らない形の貝殻ってついつい見てしまう。まあ、そんなこんなで1時間弱、海を満喫した。セインは早々に砂浜からさえも避難していたが、リューイは一緒になって俺と海沿いを歩いていた。
階段を上がり、靴の中に入っていた砂を抜いて靴下の汚れも軽く払う。それを見た二人が驚き気味に見ていて、こういったこともしないのかと知って俺の方が驚いた。
セインではなくリューイに手を引かれて馬車に乗る。ガタガタと揺れるのを感じながら、魔法のことを考えた。
さっきのところならば人も来なさそうだし使えたのかもしれない。試してみればよかった、と思う。
「リュー」
「なんですか?」
「僕は、リューは僕に魔術を教えてくれていたけど、本当はリューも使ってたのは魔法なんじゃないの?」
なんでそんなことを聞いたのか。自分でもわからない。けれど、何故か引っかかってしまったのだ。本当になんとなく。
それにリューイは黙っていた。それが答えなのか、と思ったが、それを遮ったのはセインだった。
「リューイは魔法は使えない」
「見えないからですか?」
魔力が。
頷くセインを見て、リューイを見る。リューイの表情からは何も読み取れず、少し困惑する。触れてはいけないものに触れてしまったかのような、そんな感覚だ。彼はいつも飄々としているが、今は悲しそうにも見えた。
「変なことを聞いてすみません…」
自分だけがおかしいのだと思いたくなかったのだろうか。普通だと思いたかったのだろうか。
そこからはただ沈黙だけがその場を支配していた。
暫くして馬車が停まる。帰ってきたようだ。
リューイに変装の魔術を解いてもらう。最早意味などなくなっていた気はするが、それでもずっと見た目を変えていたのは、カインとしての自分と俺を分けたかったのかもしれない。戻ったことがわかると伸し掛かる重圧を感じてしまった。
「一人で部屋に戻れるか?」
二人で話があるのだろう。馬車を降りて門を抜けた先の玄関と庭へと続く分かれ道になっている辺りで声を掛けられた。俺は黙ってそれに頷くと庭の方へと抜ける。実は本邸とは別に住む俺は庭の方を回る方が近いと知った。出かけ間際に訓練場に向かう時に見た通りを歩いたからだ。であれば、そちらの入り口を使う方が早いのだ。マナーが悪いとか気にしない。二人も止めはしなかったし、いつもそうだったのかもしれない。
通路沿いの先、中へと入れる入り口を見つけてそこから室内へと入った。そこはそこで繋がってはいるが別邸とされており、入り口には小さなホールがある。誰かが出迎えてくれるなんてことはない。だから汚れていようと堂々と部屋に帰れる…のだが。
「カイン様、夕食はどうされますか」
びっくりした…。
部屋に向かう廊下の途中、後ろからナタリエに声を掛けられた。一瞬身体に灯った熱は名残なのか、一度使ったことで身体が中々記憶を捨て切れないのか、熱がめぐるのを感じる。驚いたりすると良くないようだ。
「…食べる」
「承知しました」
そう言って踵を返す彼女の後ろ姿にゆっくりと息を吐き出した。
「いつも話しかけてなんて来ないだろ…なんで今日に限って…」
崩れ落ちそうになる感覚に慌てて急足で部屋に戻ると椅子に座ってテーブルに突っ伏した。あの女は本気で心臓に悪い…。
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