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第3話:目が覚めて

「…っ、」

「カイン…?」


 カイン。知らぬ名だ、とどこか他人事のように聞いていたが、不思議と何故か自分が呼ばれているような気がして目を覚ます。息を飲む音とガタリと何かが動く音が響いたと思ったら俺を覗き込む爽やかそうな整った顔立ちの男性。俺はこの男性を知っている。知っている…?どうして…。


「カイン、カイン、良かった…」


 今にも泣きそうなその男に俺は無意識に手を伸ばして、その手を握っていた。大きくて温かいその掌はとても安心した。男の方もその手を握り返してくれた。 

「セイン兄様…。泣きそうですよ」


 そこで俺は驚いたようにして男を見た。セイン…。そうだ、この光の加減次第では薄い紫にも見える灰色の髪、空色の瞳…。この男の名は、セインだ。そして俺の、カインの5歳離れた兄だ。17歳だったか。てことはカインは12歳か。…カイン?

 そこまで考えて先程までの少年とのやりとりを思い出した。そして勢いよく起き上がる。室内を見渡して、俺としては全く知らないが知っている景色に鼓動が速くなる。ずきりと頭が痛んだ。あれは、夢じゃない。


「カイン、いきなり起き上がるな」


 セインが心配げに俺を見ては背へと掌を添えて軽く上下に摩ってくれる。お陰で身体の痛みはあるものの少しだけ楽になったような気がした。頭痛は健在だが。恐らく処理をしようと脳がフル回転してるんだろうな、とどこかぼんやりと考えていた。落ち着きを取り戻した俺を見てセインは背に添えていた手を離して近くの椅子に座り直す。音がしたのはその椅子だったようだ。


「ずっとそばに?」

「倒れたと聞いた時は焦った」


 俺の問いには答えずにそういって眉を下げて笑う姿は少し悲痛にも見えた。それが答えだとわかると俺もつられて眉を下げて笑った。そうすると安堵した表情へと変わった。でも今の俺は内心では一人になりたくて仕方ない。夢ではないとわかったこの現状を整理するためにもこのイケメンすぎる兄にはご退室いただきたいのだ。


「カイン?」

「あ…ええと。その、喉が渇いたので水が欲しくて…」

「ああ、そういえばずっと寝ていたしな。ちょっと待ってろ」


 そう言えば水を取りに席を外してくれるだろうと思ったのだが、俺の考えは甘かった。と言うよりは、この世界に対しての知識がなさ過ぎた。


 チリン!

 セインがベッドの近くにあったベルを手に取って鳴らした。その音色は意外に響いて、未だ残る頭痛を悪化させてくれる。咄嗟に耳を塞いでしまったのは許して欲しい。ノックの音がしてからドアが開き、メイド服を着た女性が部屋へと入ってきた。


「メイド…?」

「どうした?」

「あ…なんでもないです、」


 危なかった。どうやら口に出ていたようだ。メイド服の女性は見た目は20代前半ぐらいだろうか。黒髪に深い茶色の瞳で、細身。俺は彼女を思い出そうとじっと見る。一瞬目があった気がしたがすぐに逸らされた。


「ナンシー、すまない、カインに水を」

「承知しました、すぐに」


 短いやりとりをしてナンシーと呼ばれた女性は退がっていった。その手があったか、と俺は内心で項垂れる。そんな俺を見てセインは額へと掌を当ててきた。びくりとしてしまうと瞬時に唇を引き結ぶ。この姿になっても京の癖はあるようだ。


「まだ少し熱があるか…」

「大丈夫です、少し頭痛がしているだけなので」

「そうか。それで、何があった?」

「え?」

「さっき。とても驚いたように見ていただろう」

「あ、ああ、いえ、嫌な夢を見ていたようで」 


 誤魔化すように笑顔を貼り付けて答える俺を訝しげに見つめてくるセインに冷や汗が出る。頼むから何も言わないでくれ。そして踏み込んでこないでくれ。と願う。今踏み込まれても何も答えられる気がしないのだ。その願いが通じたのか、セインは俺の頭を撫でるだけで特に何も言ってこなかった。


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