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第23−2話:街

「何故君がいる?」

「本日の護衛を依頼されましたので」


 嫌そうな顔をするセインとは逆に気持ち悪いほどの笑顔を貼り付けたリューイ。それを見てセインが舌打ちするのを俺はしっかりと聞いた。この二人仲が悪いのか…。そういえばナタリエが言ってたな。リューイが近付くのを気にしてるって。やっぱセインのことか。


「別の者は」

「本日は皆駆り出されているので。それに、カイン様のお出掛けですからね」


「余計なことは言うな。…仕方ない。お前で構わない。行こう、カイン」


 再び腕を引かれて歩き出す。リューイが玄関を開けてくれたのでそのまま外に出た。とても眩しい。部屋にいても眩しく思ったが、こうしていざ外に出ると余計に眩しかった。部屋で見えた花壇はなく、煉瓦の道が続いている。きらきらと光って見えるのは、久し振りに外に出るからだと思いたい。

 煉瓦の道を抜けた先には馬車が停まっていた。歩くわけではないのかとちょっと残念だったが、馬車に乗るのは初めてだ。これはこれでワクワクする。


「なんだか楽しそうですね、カイト様」


 カイト。お忍び用の名前、ということだろうか。リューイに目をやると小さく頷いていた。どうやらあっていたらしい。となると、


「セイン兄様のことはなんと呼べばいいのでしょうか」

「俺は普段は街ではセノアと名乗っている」

「セノア様?」

「様は要らない。それから、話し方もだ」

「セノア兄さん。リューは?」

「リューだよ、カイト」


 いきなりな上に呼び捨て。しかもかなり馴れ馴れしい。護衛と悟られないためなのだろうか。それにしては違和感があまりにもなかった。


 そんなやりとりをしながら暫くと馬車に揺られていると段々と賑やかな声が聞こえはじめてきた。どうやら着いたらしい。

 きぃ、と小さな車輪の音が響くとともに停車した。降りようとドアに手をかけたがセインに止められる。何か思うとセインがリューイへと目配せをしていた。


「カイト、失礼するよ」


 目の前にリューイの掌が翳されて、黄色い光が包む。コハクを呼んだ時とは違う感覚だが温かいのは変わらなかった。


「もう目を開けていいですよ」

「その色なら目立たないな。よし、行こうか」


 セインの言葉に見た目を変える系の魔術を使われたのだとわかる。セインの髪色は茶色になっており、瞳も同じ色になっていた。

 馬車の扉が御者の手によって開かれたためそれ以上は何も観察は出来なかった。自分の、見た目はどうなっているのか。先に降りたセインの背を追って同じように馬車を降りた。

 馬車を降りると目の前にはデパート程まではいかないがそれでもかなり大きな建物があった。その入り口に自分の姿が映っているのに気付く。身だしなみを気にするふりして髪色などを確認するとセインと同じ色合いになっていた。普段の色白な肌からしたらこの色は浮くのではと思ったが、どうやら肌色も少し変わっているようだ。ここまで変えられるなんて凄いと純粋に感心した。



「カイト、リューが待ってる」


 そう言われて顔をあげるとリューイがドアを開けて待っているのに気付いて歩き出すが、またしてもすぐにセインに手を繋がれてしまった。とても歩きづらい。年齢的にも迷子になんてならないんだけどな。多分。

 店内は様々な種類の衣服が並んでいて、布特有の香りが凄かった。統一感のないところを見るに古着屋なのかと思ってしまうがどれを見ても新しい服のようだ。こんなにバラバラでは見辛くないか。せめて系統は分けたほうが売れるのに。


「上に行こう」


 貴族と言えば店員が大手を振って出迎える気がしてたがそういうのは見受けられなかった。お忍びだから良いのか。慣れたように歩くセイン。何度か通っているのだろうか。初めてのようには見えない。階段を上がるとそこには先程とは打って変わってジャンルごとにアクセサリーがところ狭しと並んでいた。しかし並んでいるのは男性ものばかりのようだ。女性が身につけるようなアクセサリーはない。階段はまだ続いているようだし階が分かれているのだろう。


「今日は何を?」

「懐中時計にしようかなって。この間動かなくなったって言ってたんだ。ここで買ったものだから似たようなのあるかと思ってさ」


 なるほど。よく見ている。それにしてもここで買った懐中時計って。明らかにあの家の人間からしたら安もの…。いや、裕福だろうと安いものだって身につける人も勿論いるし、お金がなくてもブランドでガチガチに固める人もいるから別にいいのだろうが、この世界でもそうとは思えなかった。それなのにここのを身に付けていたって、絶対に何かあるだろ。愛人からの貰い物とか…。どう見ても身分にあってない。いいのか、セイン。


「あの、」


 くい、と軽くセインの服の袖を掴み引っ張ると少しだけ背伸びがちに耳元へと口を寄せる。情けないと思うがカインは背が低いんだ、仕方ない…。


「父様がここのをつけてたって本当?」

「つけてたのは見てないんだ。買ったのは確かなんだけど」


 つけてたのは見てない?それって誰かに贈ったとかなのではないか?いや、それともつけずに持ってる?わからない。ただ、何か理由があるのは明確だ。それならば別の店の方がいいのでは、と思ったが、セインは一つの懐中時計を手に取った。


「これどうかな」


 セインが選んだのはやや小さめのもので、ドラゴンのようなモチーフが男性らしいとは思うが、俺はなんとなくしっくりこずに他に並ぶ懐中時計を見る。そもそも年齢的にどうなんだとちょっと思う。なんていうか、厨二病くさい、と思ってしまったのだ。


「これ…」


 恐らく同じドラゴンではあるが、ゴールドの中に数粒ばかり薄い青の石が埋め込まれていて、まるでドラゴンが涙を流しているように見えた。


「気になるのか?」

「あ…や、綺麗だなって思っただけ。父様にはこれはどうですか?」


 商品を戻してからその隣にあったものを示す。一本の剣を軸にして縁をかくように馬が月を追う。中は中央にだけ小さな機械仕掛けの歯車。一見ゴテゴテとしたように見えるのだが物自体はそこまで小さくないためバランスが良くシンプル目に見える。どちらかというと騎士の人が持ちそうな雰囲気ではあるが。


「厳格と忠誠な父様には良いかもな。これにしよう」


 俺が選んだものを手にとるとセインは会計へと向かった。良いのか?そんな簡単に決めて。それに俺が決めたものを父様が身につけるとは到底思わないんだが。むしろ店はここでも更に上階に実はお高いのがあるとかそういうオチだったりしないか。など色々と考えを巡らせながら商品を物色していると奥でこちらを見ながらひそひそとしてる人達に気付いた。

 …なんだ?

 目が合うなりその人達は視線を逸らして足早に別の階へと移動していった。とても感じが悪い。俺が何をしたと言うのか。

 リューイの方を横目にちらりと見るとリューイも先程去っていった連中を見ていた。


「リュー?」

「何か?」


 にこりと浮かべられたその笑顔が酷く冷たくとても怖くて何も言えなくなってしまった。


「大丈夫だよ」


 不意に掛けられた言葉に少しだけ戸惑う。何が大丈夫なのかも分からないし、何より人の視線が突き刺さる。まるで俺が外に出ることは良くないのだと教えられている気がしてくる。

 だとして、理由は俺には分からなかった。きっとカインならば分かったのかもしれないが。早くセインに戻って来てほしくて仕方ない。そう思っているとカウンターの方から揉めるような声が聞こえてきた。


「売ったんだからさっさと帰ってくれ!それとあのガキが触った商品は買い取ってくれよ!売り物にならないから」


 その声が聞こえると同時に店主と目が合った。するとすぐに声が聞こえなくなる。

 リューイの方を向くとただ先程と同じ笑みを浮かべていて、リューイが遮断系の魔術を使ったのだと分かった。


「リュー、大丈夫だよ」


 なんでか咄嗟にその言葉が出た。きっと、カインは慣れてる。悲しいという感情なんてなくて、ただこうされることに慣れてるような感覚だけが心を支配していく。履き慣れていない靴は、そういうことだったんだろう。

 髪色を変えてる意味ってなんだったんだとちょっと思ってしまったのは内緒だ。

 程なくしてセインが戻ってきて俺の手を取った。


「遅くなって悪い、ちょっと誰かと勘違いされてたみたいで」


 だいぶ苦しい言い訳だぞセイン…。別にいいのに。なんでもないことのように俺は笑って見せた。すると安堵したようにセインも笑顔になる。これが、カインにとっては日常茶飯事というもの。それならば俺も気にしないに限る。

 セインはリューイに目配せをした後俺の手を再度引いて店を出た。

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