第19話:呪と…
セインが部屋を出ていくと静かな空間となり暇になる。そういえば俺がよ呼び出してしまったあのルーンキャットはどうなったのだろうか。手元には居ないようだし、自然と消えられるものなのか、それとも処分されてしまっただろうか。処分と考えたところで不安が襲う。もし俺が身勝手に呼び出してしまったことで殺されるなどあったとしたら。
そう考えたらぞっとした。あとでリューイのところに行かなくてはならないなと思った。
「そういえば呪術のこと聞き忘れたな」
呪術。まあ、字の如く人を呪うための術なんだろうが。ただ、この世界の呪術が俺の知る呪術と一致するかは怪しいのだ。理由は俺に付き纏うモヤのような存在。あれが呪術の結果だとしたら明らかに俺の知るものではない。
「考え事はその辺にして休んだほうがいいんじゃない?」
「…!?」
いきなり掛けられた声に驚きからひゅ、と息が詰まった。
「リュー!?え、なんでここに…てか、ドア…」
「鍵はかかってなかったよ」
「そういうことじゃなくて普通ノックするだろ…」
「したよ?でも反応なかったからね」
いや反応がないなら開けるなよ。入ってくるな。びっくりするわ…本当にこいつは…。
「で、なに…?」
「それが何か教えてあげようと思って」
「それ?」
リューイが指で示す先を見るとそこには先程考えていた黒いモヤがいた。お前もか…。頼むからういきなり現れるなよ。いや、こいつはいつだっていきなりだったけど。それにしては大人しい。何かをする気はないようだ。
「知りたかったんでしょ?」
「なぁ…人の心読むのやめてくれない?」
「読んでないよ。君は顔に出過ぎる」
くすくすと笑いながら俺の頬を摘んでくるこの男をどうしてやろうかと考えてると、リューは一冊の本を俺に差し出してきた。またぶなんて分厚いものを…。この世界は本を何冊かに分けるという発想がないんだろうな。資源削減云々以前にいくらなんだこれ。今更だが紙があるのかと思ってしまった。
「呪術魔法陣覧?」
なんて物騒なものがあるんだ。当たり前のように人を呪い歩くのか?油断出来る時間なんてないんじゃないか。
「さっき、呪術の講義ができなかったからね。今特別にしてあげる」
「それよりも休ませるって選択肢は…」
「ほら、さっさと186ページ目開いて」
あ、ないのね。はい。
大人しくぱらぱらと捲り186ページ目を開いた。
そこには複雑とも言える魔法陣が描かれており、俺はやはりこれを見たことがあった。ということは過去に一度全部目を通しているのだろう。とはいえ書けと言われたら今の俺では無理だしそもそもすぐには思い浮かべられる気がしない。
「君はなんでこんな恐ろしいものがこの世にあって、簡単に行えてしまうのか知ってる?」
首を左右に振る。俺も考えていたことだ。なぜこんなものがあるのか。
「呪術はね、本来人に対しては使えないんだ」
「え…」
「これは、亜種や魔種を屠るために編み出された魔術で、殺める力を持つことから呪術とされているってのは覚えてる?」
「それは覚えてる」
魔術も殺める力がある。なのに呪術とされない理由は呪術魂底から殺める術で、魔術はある意味で物理的に殺めるというものだ。つまりは魂に作用するのか、体に作用するのかという違いがあるということらしい。
小難しい…。ぱっと聞けば同じでしかないが、外傷なく中から蝕むもので、昔は亜種、魔種は呪われたものとして扱われていたため、祓うための術で呪術と呼ばれていたそうだ。ただそれは人のには向けられなかったっていうだけの話で、使ええない、とは理論が違うのではないかと思う。しかし今リューイは使えないと言った。
…そこまで考えて俺は気が付いた。
「ふふ。そんな怖い顔しないでよ、僕が言いたいのは君が何者かじゃない」
まさか。そんなこと、あるのか。カインは、この身体は…。リューイを見れば全てを知っているかのような表情をしていた。俺は昼間の話を思い出す。きっとロデアールもこのことを知っているのだろう。
黒に染まりかけたオセロがほとんど白にひっくり返された時みたいな気分だった。
「本題に進ませてもらうけど、その呪術は今君の魂に根付いている。それは自覚ある?」
その言葉に頷くことは出来なかった。リューイの顔がとても怖かったのだ。笑顔なのに、とても冷ややかで恐怖しかない。
「リュー…?」
「それの正体は呪術ではない」
「!?」
どういうことだろうか。この存在が、呪いではない。こいつ自身が呪いだと言っていたはずだ。それなのに呪術ではないというのは。
「これは確かに呪いだよ。でも呪術で生まれた呪いじゃないんだ」
リューイが俺の手元を示していたので視線を落とす。そこには先程目にしていた魔法陣。しかしその下には悪魔召喚術と書いてあった。
「これって…」
「君はどこでこんなのと契約したんだろうね」
どうしても主人公は少しおバカにしたい方向に走ってしまう。




