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第18話:渦巻く思考と矛先

 目の前で静かに眠るカインを見つめる。とても健康とは言えないカインはこの数日で二度も倒れている。

 ゆっくりと開かれる瞼に気が付いて思わず身を乗り出した。


「カイン、起きたのか?」


 声は上擦っていないだろうか。とても聡いこの弟は俺の動揺をすぐに悟る。それが何を意味するのかなんて俺は知っている。この子はきっと知っているのだ。俺との間に血縁関係がないということを。下手したら家族の誰とも繋がっていないことを悟っている気がする。


「何があった?」

「何も。少し嫌なことを思い出しただけです」

「嫌なこと?」


 少しだけ張り詰めた声が出てしまった自覚はある。そのせいかカインは一瞬身を固くした。そしてすぐになんでもないと返ってくる。そう言われてはこれ以上の深追いは出来ない。

 なので俺もそうか、としか返せない。


「カイン」


 呼んでもすぐには反応がなかった。どうやらまたぼんやりしているようだ。ここ二日程カインは度々ぼんやりしてる。その表情は考えが読めない。その後もまるで聞こえていないようなので俺は立ち上がった。そこで漸く気がついたようで顔を上げたカインの頭を一度だけ撫でて部屋を出た。




(大丈夫だ。カインは、大丈夫。またすぐに忘れる)



「セイン様」

「ナンシー…」

「こちらにいらしたんですね」

「ああ、すまない。何か用があったか?」


 このメイドはカインの専属侍女の筈だがある日からカインの世話をあまりしなくなった。それどころか時折カインに強い視線を向けている。そして今は何故かやたらと俺の世話の方へと回されている用だった。

 彼女がここにいるのはおかしくはないが、俺を探していたのはおかしな話なのだ。


「旦那様が今夜は戻られるそうです。友に食事を、と」

「カインは」

「セイン様だけをお呼びです」


 またか。父上はカインが6歳になった頃から一緒に食事をしなくなった。食事をしないだけならまだしも、カインを部屋に閉じ込めたがる。まるで居ないもののように扱うのだ。

 毒もひょっとしたら、なんて疑ってしまうぐらいに。


「わかった。カインには昨日と同じ食事を用意している。他の者から出される物は全て廃棄してくれ」

「承知しました」


 ある程度の会話を済ませればあとは用はないだろうとその場を離れようとするが彼女の視線に気付いて見返す。


「どうした」

「セイン様は、カイン様が大事なんですか?」

「当たり前のことを聞く」

「本当の兄弟でもないのに当たり前なんて不思議なことを言いますね」


 何故この女が知っている。まさか、カインに話したのは…。


「別に、カイン様には話していません。言わずとも知っているようでしたし。旦那様の様子を見れば皆わかることです」


 思わず舌打ちが出る。それもそうだ。ここまで邪険にされる子など中々居ないだろう。だからと軽々口に出すものでもないと思うが。何よりこの女はただのメイドなはずだ。許されるはずがない。それに貴族の間では養子というのは良くある話だ。長男が居ない場合は、の話だが。


「そんなに睨まずとも何もしません。追い出されてしまては目的も果たせませんし」

「目的?」


 意味深な笑みを残すとメイドは笑みだけを浮かべ去っていった。彼女の笑顔の真意が俺には読めなかった。


 まるでいつかの物語を辿るようなこの家が酷く苦手だ。例え血が繋がらずともカインは俺の弟で愛しい存在に変わりはない。カインがいなければ俺はこの世界で救われることはなかったのだから。カインだけが俺を生かした。


「父上が戻るまでに着替えておかないとな」



カインはなんでかウサギのイメージになりつつあります。

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