第14話:魔種と亜種②
なるほど。今でこそ亜種の人もあまり見た目に差がないのはそういう背景からなのだろう。魔種がいないならそれこそ亜種同士か、人間との道しかない。亜種同士が一番いいのだろうが、そうもいかなかったってことだ。人間というのは本当に排他的な生き物だなとつくづく思う。人のことは言えないし、皆がそうとは限らないのもわかっているが。
「ですが亜種はやはり人にはなれないものです。擬態したとしても何らかの拍子に解りますし、今は聖医院が増えたことで血液の鑑定結果から亜種とわかるなんてこともよくあります」
そもそも力の差が歴然なのではないだろうか。人としての血が濃くなろうともそれでも力はずっと亜種の方が強かった。簡単には消えないだろう。
「それでも今は亜種の方が差別されることは減りましたし、奴隷になんてこともなくなりました。亜種の力は立派なものだと認められ貴重な労働力とされていますからね」
「そうなんですね」
「ええ。なので、今ではお互いに共存の道をとっています」
奴隷にされることがなくなったのは良かったとは思うが、それでもかなり人に歩み寄って漸く認められた存在というのがなんだか悲しく思えてしまう。何故人は力があるものを恐れて排除したがるのか。
…そういえば俺は身体が弱いのを言い訳にいつも弟に嫌なことを押し付けていた。母も俺を甘やかすから、俺の方が好かれているとか思っていたことがあった。そういうわけではないことなんて気が付いていたが。そう思うと俺は良い人だったわけではなく、良い人をしていたということに今になって気が付いた。
「見返りを求めた優しさなんて人からしたら良い迷惑だよな」
「何か言いましたか?」
「いいえ…」
思わず口に出ていたらしく誤魔化す様に笑って首を振った。
「亜種は今も亜種同士ではなく人間との縁を選んでるんですか?」
亜種でも差別されないとわかったのに亜種と人となれば、それはいずれ本当に亜種の血は絶えてしまうのではないか。根絶やしになりたくないととった行動で絶滅してしまったのでは話にならない。
「いいえ。今は種族関係なく一緒になることが増えましたね。ですがやはりセイン様やカイン様のように地位を持つ家の生まれの者は政略結婚が多いので、異種との婚姻は比較的認められないことが多いようです」
「亜種は爵位は得られないってことですか?」
ロデアールは黙って頷いた。
それは立派な差別ではないのか。先程ロデアールは差別する人は少なくなったと言っていたが、それでは矛盾である。たとえどれだけの功績を残そうと、人に好かれようと、亜種というだけで上には立てないと言われているようなものだ。相応の褒美が与えられていない。爵位を得ることが褒美とは限らないし、貴族だって皆が皆金持ちなわけではない。複雑な家ももちろんあるし、それどころか政略だなんだと縛りも多いので決して自由ではない。そう考えれば別にならなくていいとは思うかもしれないが…
「それって差別ですよね?」
「そうですね…。貴族というものは古くから続く家系、どうしても新しい見聞を取り入れるには時間がかかるようです」
「少なくなったも何も、権力を持つ人たちが差別していたら何も変わらないのでは?」
「そういうことです。なので私は教育の一環としてこのような話をさせていただくことで少しでもその隔たりをなくせればいいと思っています」
まるで何かに想いを馳せているようなその表情は少し悲しそうにも見えて、俺は黙ってその表情を見ていた。
人はどの世界でも変わらないのだなと思う。自分と違うものは差別する。少しずつ緩和とはいうが、根底では法律的にはこうだから。というものがなくては守られることがないのだ。そんなものがなくても受け入れるというのは到底難しい話なのだろう。そんなことを考えていたせいか無意識にため息が出た。
「では、続きですが…」
少し気分も落ちて話を聞くなんて雰囲気ではなかったがロデアールにはそんなこと露ほども関係ない。気にかけることもなく話は続けられた。
今の国の現状。貧富の差により起きていること。貴族としての役割。いずれは身にのしかかるとは分かっていても理解するには中々に骨が折れる。というより理解が出来ない話ばかりだ。
俺は弟と違って地頭が良くないのだ。そんなに怒涛に詰め込まれても正直今すぐにでも忘れてしまいそうだ。
「そろそろ時間ですね。では、本日はここまでにしましょうか」
段々と小難しい話に疲れ果て意識が散漫となり始めた頃に漸く話は終わり、安堵したのも束の間、
「明日は各家系においての重要人物と主要都市の動きについてお話ししますので、今日話した内容を忘れないように復習しておいてください」
とロデアールは俺に死刑宣告をして去っていった。以前から宿題はとても嫌いだし、勉強だってなくていいと思っていた。人に教えられるようにと必死に勉強はしていたが。
ロデアールの脳味噌はどうなっているのか。あんな大量な情報を記憶しているとは人間とは思えないと思ってしまう。教育係を請け負っているぐらいだ。頭はいいというか、そういうところにも長けているのかもしれないが貴族の階級やら主要人物やらまで頭に入っているなんてどういう勉強法をしてきたのだろう。地頭の問題なのか?
そういえば寝込んでいた時によく読んでいたネット小説の世界で貴族令嬢の話を見かけたこともあったが、そういうのでは大半がパーティーやらで必ず貴族の主要人物の顔と名前を覚えていた。
今思えばかなりの超人並みの記憶力では?と思ってしまう。令嬢の嗜みとはいうが、そんな訳ないだろ。そんな話をしたこともない相手のことなど俺なら覚えられる気がしない。本音をいえば人になんて興味がないため尚更だ。そこまで考えてまた自分自身にため息が出てしまった。




