第12話:家庭教師
あのまま朝まで寝ていたようで布団を引き剥がされる感覚と肌寒さに目を覚ました。
そこには無言で俺を見つめるナタリエが居て、気まずいような空気に視線をすぐに逸らしてしまう。何故彼女が。
「あー、えっと、おはよう…」
ナタリエは挨拶をする俺を一瞥してすぐにベッドから離れてカーテンを開けた。やはり無言なのか。そもそも最初からカーテン開ければよかったんじゃ?布団を引き剥がす必要なんてなかったと思うのだが、その考えは彼女にはなかったのだろうか。それ以前に今まで彼女が俺を起こすことはなかった筈で、何故今日に鍵って起こしに来たのかさえ疑問だった。
カーテンが開かれたことで明るくなる室内。そういえば寝る時は真っ暗にしたことってなかったな、と気が付く。二つの常夜灯をつけているため比較的明るい。日中ほどではないのでこの広い部屋ではその位が丁度いいと思えた。
「挨拶ぐらいはして欲しいんだけどな」
そう言った俺を睨みつけてくるナタリエ。しかし何かを言ってくることはなく一枚の紙を俺に渡して部屋を去っていった。朝食の用意は、とテーブルを見たが特にはないようだ。つまり出す気はないってことな。子供の意地悪か?と思いながら手渡された紙を見た。そこには時間と共に座学、魔術、呪術(座学)、剣技とスケジュールが記載されていた。
「え、ちょっと待った、今何時」
慌てて壁にかけられた時計を見る。時刻はすでに9時を少しすぎており座学には9時〜と表記がある。ということはすでに時間を過ぎている訳で。ナタリエが俺を起こした理由も食事がない理由もそこで気が付いた。嫌がらせではなかった、と何故か安堵していた。いや、朝食がないことには変わりないが。それより早く支度をしなくては。既に遅刻しているのにこれ以上待たせるのはまずい。急いでベッドを降りようとしたところでノックの音が響く。俺はそれにしまった、とより焦りを感じた。しかし無視は出来ない。着替えも済んではいないが返事をした。
「おはようございます、カイン様」
「おはようございます、えっと…」
入ってきたのはアーモンドのような茶髪を後ろに流し、髪よりは少し薄い色をした茶色をした瞳で、目元にはクールさをより引き立たせるスタイリッシュでシンプルな銀縁のメガネをした男性が入ってきた。年齢は30を超えたぐらいだろうか。確か名前は…『ロデアール』さんだ。この家の執事でもあり、俺の座学の講師でもある。
「ご加減はいかがですか」
「ご心配をおかけしてすみません、もう大丈夫です。本日は遅れてしまい申し訳ありません、それにまだこのような格好で…今急いで着替えを済ませますのでお待ちいただけますか」
「ああ、大丈夫ですよ。セイン様から昨夜も倒れたと伺っていますから」
兄に伝書鳩のようなことをさせて申し訳ないと思う。同時に流石だなとも思った。気遣いや根回しがいいというのだろうか。しかしこの格好で、というのは流石に不味くないかと思うのだが、あまり気には止められていなかった。まあ、俺の寝着は比較的私服に近いし、とはいえ、私服までいかないラフな感じのため人前にこれで、というのは少し気が引ける。
「あの、着替えだけでも、」
「時間が惜しいので、そのままで構いません。また休まれることになったら面倒でしょう」
遠回しに遅刻したことに文句を言われている気がする。それも仕方ないこととは思う。執事の仕事もこなした上で俺のために時間を作ってくれているんだ。惜しいに決まっている。そう考えると着替えは後回しの方が良さそうだと感じた。
「本日は歴史について学んでいただこうかと思います」
俺に一冊の本を手渡す。本というよりこれはもう辞典だなと思えた。とても分厚くて重いそれは小さくなった俺の手にはまあまあ大きい。ぱらぱらと簡単にページを捲るとその手を止められ、ロデアールさんの方を見るとにこやかに笑う彼と目があった。
「さて、それではまずは先日のおさらいをしましょう。この世界の過去の乱戦についてお話ししたと思いますが、覚えていますか?」
いきなり。そして手を止められたのはちょっとしたテストをするためだった、てことか。覚えているかと聞かれたら…覚えている。割とカインは記憶力がいい方のようだ。




