第11話:形
「セイン兄様は、…」
聞いていいのだろうか。という気持ちから二の句がつげなくなる。先程とは真逆だ。そんな俺を見るセインの瞳はどこか優しい。急かすこともなく待ってくれる。そんな彼の優しさに甘え、俺は一度ゆっくりと呼吸をしてから切り出す。
「セイン兄様は、ナンシーについてどれ位知っていますか?」
あえて覚えているかとの質問はしない。セインがあの女性がナンシーでないことを知っているかはわからない。曖昧だけど探るには十分だ。しかしセインは一瞬顔を曇らせる。それを見逃さなかった俺は口を開き掛けたがすぐに閉じた。セインがすぐに表情を取り繕ったからだ。
「それはどういう意味で聞いてるんだ?」
「どう、って、」
「カインは小さい時からナンシーのことが好きだったからな。俺が彼女を好きだと思ってるのかと思ってるのかと」
「そういうわけじゃなく…あ、いえ、好きでも構わないんですが」
「冗談だ。ナンシーはとても賢くてしっかりしていて仕事が早い」
「他には」
「他か…」
「彼女の家族とか」
「…さぁ?ナンシーはあまり家族のことを話したがらないからな」
少しの間の後で眉を下げて笑うセインの表情は何かを知っていそうなのにこれ以上は踏み込めない何かがあった。ひょっとしたら彼も知っているのではないだろうか。ナンシーが亡くなっていることを。彼女がナンシーではないことを。だとしたら何故、ナンシーと呼ぶのか。考えてもキリがないことなど分かっていても考えてしまう。しかし考え込みすぎていたのか、お腹が満たされたのも手伝い睡魔に襲われる。まだ寝るわけにはいかないと分かってはいても、まだ少年とも言えるカインの体は言うことを聞いてくれない。うとうとと次第に舟を漕ぎ始める。
「眠そうだな…少し寝るか?」
「そうさせてもらいます…」
眠すぎて立ち上がる気力さえなくなっていた俺の腕を掴んで少し強引に立たせてはベッドの方へと誘導される。抗うこともなく俺はベッドに着くなりそのまま投げ出すようにして横になった。布団の重みが心地いい。セインがかけてくれたようだ。俺はそのまま身を委ね意識を手放した。
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「…カイン」
寝息をたて始めた顔を眺めてはそっと髪を撫でる。
大事な、弟。正確には弟ではない。けれど、俺にとっては長年一緒に暮らしてきた大事な弟で、唯一の家族だ。そして、俺の家族を壊した存在。それでも俺はカインを憎めはしないし、可愛いと思う。どちらを選べと言われたら俺は間違いなくカインを選ぶ。後から知った今更過ぎる家族なんて俺にとってはどうでもいい。
本当は気付いていた。毒のことも、それ以外のことも。それでも今の俺ではまだ力がないからどうにもしてやれない。知らないことがまだまだありすぎる。
眠るカインの穏やかな寝顔は俺を安心させる。そして同時に決意を鈍らせもする。この穏やかな寝顔を守りたい。この子が俺を必要とするならば、いくらでも手を貸したい。今更兄の立場を譲るなんて出来はしないのだ。譲る気もないが。
「まだ、知らなくていい。思い出さなくていい」
俺が力をつけるその日まで。今はまだ、この手のなかでゆっくりと休んでいて欲しい。
「おやすみ、カイン」
久し振りの更新で読み返して誤字に気付いたので直しました。まだまだありそう。




