第10話:優しさ
食欲をそそる匂いが部屋に漂う。いつに間にか力が入っていたのか、その匂いに誘われて肩から力が抜けた。
気になることは山程あるし、正直ここに来てから疑問と意味不明なことの連続で混乱しているが、今は一旦食事にしようと思った。
「カイン、食事を持ってきたから食べよう」
声を掛けられ素直に頷くとベッドから降りてテーブルのそばへと行く。セインが持ってきたのは雑炊のような見た目で、湯気が立ち上り美味しそうだった。この世界でもあるのかと思ったが、よくよく見ると入っている具材は緑の葉系が多い。香りも出汁の香りが強いためわかりにくいがどこか漢方にも似た香りがするのに気付いた。
雑炊というより、薬膳粥っぽいな…
正直なところ、漢方はとても苦手だ。そのため薬膳粥はもちろんのこと、薬膳カレーなども苦手だったりする。とはいえ出されたら好き嫌いせず食べるのが俺のモットーのため頑張って食べるが。
「あまり食べてないだろうから消化に良さそうなものにしたんだが…無理に食べる必要はない」
そう言われてしまえば嫌なんて言えるはずがない。顔がいいのはずるい、と言いたかったがそれは関係ないな。大丈夫、と答えると俺はスプーンを手に取った。
一口分掬って息を吹きかけよく冷ますが、近くにあることでより漢方のような匂いを感じてしまい眉間に皺がよりそうになるのを堪える。俺はなるべく匂いを嗅がないようにしながら一口食べた。しかし思っていたよりは遥かに苦くて我慢は一瞬で砕けた。
「苦…、え、苦…っ」
あまりの苦さに語彙力がなくなる。本当に苦い。味としては美味しい気はする。しかし美味しさを感じるのも束の間ですぐに苦味に襲われる。もはや渋いに近い。
「体内に毒が残ってたらと思ったからな。薬草とクロンの実と葉を入れた」
「クロン?」
「ああ。クロンには毒消しの効果があるって言われてるから」
なるほど?毒消しの効果があるのはわかった。わかったが、クロンってなんだ。日本にはないだろう名前に俺は小さな一人前用の土鍋のような器の中を覗いた。しかしどの葉も小さくちぎられていて分からない。唯一わかるのオレンジ色の角切りされたものが実と言われているものっぽいというのだけだ。結局どれが何かわからなくて俺はただそれを完食することだけに集中し手を進めることにした。
うん…、苦い…。
苦味と戦いながらどうにか完食するとスプーンを置く。食べ終わる頃にはあんなに熱かったのものがすっかり冷めていた。冷めることによって苦味が余計増したのでもっと早く完食すべきだったと思う。しかし進まないものは進まないのだ。仕方ない。
「なんですか…?」
スプーンを置いた後も俺をじっと見つめるばかりで動こうとしないセインに俺は首を傾げる。話があるようなのに、中々開かれない口はどこかもどかしい。落ち着かないので話があるならさっさと言って欲しい。こちらを見ては視線を少し彷徨わせる。
「いつからか聞きたいんですか?」
セインの肩がぴくり揺れる。どうやら当たりだったようだ。しかしいつから、は俺もわからない。記憶にないとかではなく、きっとこの身体が耐性を持つほどならば結構昔なのではないだろうか。2、3年でこんなに強くなれるのか怪しいところだ。思案する俺の目の前にセインは小瓶を置いた。
「これは?」
「さっきのクロンの実から絞ったものだ」
「ということは解毒剤みたいなものですか?」
「ああ」
クロン。先程の苦味が舌に残っていた俺は無意識に顔が歪む。それを見たセインは笑っていた。
「そんなに苦かったのか」
「苦いってものじゃないです、かなり苦かったです」
「そうか。次からはもう少し量を抑えるようだな」
その口ぶりに先程のはセインが作ったのだとわかった。料理下手か…?!と言いたくなったが黙っておく。彼の優しさが俺の力を抜いてくれたから。




