第1話:死んだよね?
目を覚ますと俺は真っ白な空間にいた。見渡す限りの白。見あたるものは何もなく、そこはあまりにも静かでとても寂しい世界だった。
ああ…、俺、死んだのかな…。
日頃の行いはとても良かった筈だ。優しい、善人過ぎると常に色んな人から声を掛けられた。たとえそれが煽てるためだけの嘘だとしても構わなかった。
利用しようとする人も勿論いたがそんなのは気にしない。時には偽善だと言われたし、自己満足のお節介野郎と言われたこともあったが、それでも俺は手を差し伸べるのをやめなかった。
そうやって徳を積み続けていた筈の俺なのに何がいけなかったのか。俺は呆気なく死んだ…多分。
俺、こと睦乃木 京は身体が弱かった。驚くほど弱く、ほんの数時間冷たい風に当たるだけで風邪を引き高熱を出したりしていた。高熱を出すだけなら良いが時には肺炎にまで悪化する時もあり、度々入院するなんてこともあった。お陰で高校にはあまり行けておらず、出席日数不足で留年だってした。だから出来るだけ風邪をひかないように毎日気を付けていたのだが…。
ある台風の日、俺は母親に頼まれて買い物に行く羽目になった。理由は単純。普段は弟の譲が買いに出てくれるのだが、珍しく嫌がったのだ。台風なのだし誰だって外には出たくないに決まっている。それでもどうしても必要だからと頼み込まれ、結果、俺に回ってきた。父親に頼むという選択肢は我が家にはない。なにせ父はとうの昔に亡くなっている。となれば頼られるのは俺か譲しかいないのだ。自分で行けなんてことも思ったが母も女性だ。流石にそんな嵐の中行かせるわけにはいかず、俺が買い出しに出た。
しかし季節は秋の終わり。残暑が終わり寒くなり始めているところにこの嵐だ。当然俺は風邪を引いた。
風邪を引くだけなら良かったのだが、残念なことにそれは肺炎にまで悪化してしまった。そしてそれば治るどころか重症化してしまったらしく、俺はそこで意識を手放した。
いや風邪が死因かよ!と言われそうだが、風邪だからと侮るなかれ。本気で言う。風邪を甘く見てはいけない。頼むから風邪を引いたら薬を飲んでしっかり寝てくれ。放置ダメ絶対。とまあそんなこんなで俺は死んだと思ったんだけど…。
「…どこだ、ここ」
ふわふわとした意識の中、目を覚ますと真っ白で静かな空間に俺は居た。ぽつりと呟いた声は辺りに響くでもなく、ただその空間に飲み込まれて消えていく。見渡せどただただ真っ白な空間が広がり続けるそこは不安と孤独感を煽り、なんとなく怖くさえあった。
「えーと…?俺、死んだんだよな?」
状況が飲み込めず、せめて何かないかと手を伸ばしてみると何かに触れた。それはとても手触りが良く、つい撫でてしまいたくなる触り心地だで何度か軽く摩る。すると不意にその手は振り払われて手の甲に痛みが走り、ジンジンとしたものが広がっていった。
「気持ち悪い撫で方しないでくれる?」
痛みから手を軽くさすっていると聞こえた声に一瞬びくりとしてしまい、恐る恐る顔をあげて前を見たが特には何も視界には入ってこずに混乱してしまう。再度手を伸ばしたらまたしても手を払い除けられた。なんなんだ。
「だから変な触り方してこないでくれる?」
「いや誰…。ていうかどこにいんの」
声はするのに姿がない。でも、手は確実に何かに触れた。ということは幽霊か何かなのだろうか。それでいくと俺は生きてる?いや、同じ幽霊同志ということもあるのか…。
「…ねぇ、ねぇってば!!」
「あ、はい!」
怒ったように呼ばれて慌てて返事をしたせいで変な声になった。ぼんやりとしすぎて相手が呼んでいることに全然気付けていなかったようだ。危ない。
「いつまで見えないフリしてんの?」
そうは言われても、と思ったが段々と空間に目が慣れてきたのか、なんとなく形が見えてきた気がした。一度目を閉じてゆっくりと目を開き、変わらぬ真っ白な景色の中目を凝らして見てみればそれは次第に形を帯びてはっきりとしていく。




