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最高の女性

作者: 冗談・ピール

 海外出張は気が重い。

 とくに、この新型コロナウィルス、Covid-19 の世界的大流行、パンデミックにより海外出張するだけで諸々の手配が必要になった。面倒な手続きや検査、待期期間と制約が多すぎる。実際、本来であれば、今回の出張も、私とアシスタントがともに飛行機に乗るはずだったのだが、アシスタントの手続きが手間という、上役の一言で私一人の海外出張である。

 ビジネスクラスというのも、気が重い。もちろん、会社の金であるので、ファーストクラスなどというぜいたくは許されないのだが、経費削減というのもあるのだろうが、役職の付いた私でこの扱いならば、役職のない社員がどう扱われているか、考えたくもなかった。


「お客様、何か飲み物は?」


 スッチーが、客室乗務員がカートを押しながら現れた。

 かなり美しい女性だ。妻と、私の娘と、私の母の三人には負けるが、優雅で気品のある立ち居振る舞いをする。

 世の男性がうらやむ最高の女性が、こちらへと歩いてくる。


「コーヒーをもらおうかな。熱いのを」

「かしこまりました」


 熱いコーヒーを受け取りながら、私は窓の外へと目をやる。

 それとほぼ同時に、機内アナウンスが流れ始めた。機長の簡単な挨拶とともに、目的地を告げる。


『それと、ただいま、およそ高度一万メートル、最高高度に達しております』


 ふっと、笑みがこぼれる。

 つまり、先ほどの客室乗務員は、最高高度にいる最高の女性という事になりそうだ。

 今度の旅行は、海外にしよう。きっとその頃には、パンデミックも収まり、簡単に海外旅行にも行けるくらいにはなっているだろう。

 そう考えたときだった。


 窓の外、地面から何かが物凄い勢いで飛んでくるのが見えた。

 それは、飛行機の翼に激突し、その衝撃で大きく機体が傾く。


『シートベルトをお付けください!』


 と、機長が話す前には、私はシートベルトを慌てた手つきでつけ始めていた。

 手に持っていたコーヒーが膝にかかるが、そんな事よりも、窓の外が気になって仕方ない。

 先ほど何かが下から、地面から激突した翼。何が激突したのか。見間違いか。

 見ていると、翼の縁から何かが見えた。

 手だ。

 白く細い、手。

 よくよく見ようと、目を凝らすと、それは現れた。

 女だ。

 辛うじて翼の縁に体が引っかかっている女。


「あっ!」


 女と目が合った。

 大きく口を開けて、何かを叫んだ。

 別に、読唇術を学んでいるわけではなかった私だが、女が何を言っているのか見えた。


「私が最高の女よおおおお」


 そう叫んだのは間違いない。

 と思うと、女は飛行機の翼の縁から、空高く、落ちていった。

 ある地表ポイントにおいて、反重力作用のある土地がある。

 そこに足を踏み入れると、空へと飛びあがることが報告されている。

 なお、当該女性は七回の反墜落を実施している。

 八回目の反墜落実験の際、行方不明となった。

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