第一話
いつまでもこの幸せが続くなら、ずっと彼女に騙されたままでよかった・・・
世界のことなんか何一つ分からないままで・・・
彼女はいつも海に潜っていた。何を探しているのかは全く分からなかった。
「ヨルダ、何か見つかった?」
(ぶんぶん!)
「何してたの?」
(かきかき)
(ほじほじ・)
(うめうめ・・)
「貝殻でも埋めていたの?」
(ぶんぶん!)
「うーんよく分からないや。お腹すいたでしょ?」
(こくこく)
「サールアームが取れたから丸焼きにしよう!」
(ぶんぶん!)
「ええいらないの?すごく美味しいのに」
(そんなイナゴみたいなもの食べれるの・・・)
「あれっ今何か言った?」
(ぶんぶん!)
「今ヨルダから黒いものが見えた気がしたんだけど・・・まあいいか」
ヨルダがこの島に流れ着いてから1週間が経った。
僕がスキルなしの烙印を押されてこの島に流れてからちょうど1年後のことだった。大切な幼馴染と同じ名を持って、どこか彼女の面影を感じさせる少女だった。
「スキルなしだと!!」
「この子はもううちの子じゃないわ!!」
父と母に見捨てられ、家から追い出されて当てもなくさ迷っていたころ、唯一心配してくれたのが幼馴染のヨルダだった。周りの目を盗んで食べ物を持ってきてくれたり、話し相手になってくれたり。
「もうっ何でリュウのこと誰も見ようとしないのよ。リュウは優しいし賢いし努力家なのに!」
「しょうがないよ。この世界はスキルが全てなんだから」
「リュウはスキルがなくても、魔物を倒せるし、作物だって育てられるし、魔道道具だって作れるじゃない!」
「人って自分より下の人を見て安心したい生き物なんじゃないかな」
「そんな悟ったようなこといってもどうしようもないじゃない・・・」
「ヨルダのいうように僕は自分一人でも生きていけるから、同じような境遇の人を見つけて、何とかその人たちと助け合って生きていくよ」
「そんな、強力なスキルを持った嫌がらせをする人たちに会ったら下手すると殺されるわよ」
「その辺はうまくやるさ」
「私もついていくよ」
「ヨルダは付与魔術師のスキル持ちでしょ。そんなわざわざ苦労する道に進まなくても・・・」
「だってほっておけないし、スキル持ちが一緒にいれば、風当りも少しはましになるでしょ」
嬉しくないといえば噓になるが、こんな茨の道にヨルダを巻き込んでいいのかという想いは割った。でもやっぱり親や村のみんなに見放され、寂しさを隠し切れない状況で、ヨルダの申し出をつっぱねることが僕にはできなかった。
「さあそうと決まれば出発するわよ。とりあえず西のオワルンバルクに行けばスキルなしでも生きていける方法が見つかるわよ」
こうして幼馴染のヨルダと当てのない旅が始まった。