崖で見つめる人
時は大正時代。とある○○県の目の前に大きな海が広がる不幸明媚な断崖絶壁の崖があった。そこには都会から電車を乗り継いでまで自殺しに来る人が居るほどの自殺の名所だった。
そして、今日も人生を終えようとする女が、その崖へ飛び降りにやってきた。女は無言で海の地平線をつぶさに見ている。時には崖の下の岩や打ち寄せる波を見てた。なかなか決心が決まらないようだ。
そして、女は飛び降りるのをやめようとするのか海を背にして数歩、歩き始めた。
「おい、お前帰るんか?」
女は、目を大きくしてびくついた。
確か、周りには誰もいないはずだった。しかしよく周りを見渡すと、木が生えた大きな高い岩に人が座っていた。
「あんた、誰です?」
「俺かぁ」
その人の名前は東房伸一。
東房は続けて大声で言った。
「俺はなぁ、崖から死ぬ人間を観察してんだよ、お前は死なないんか?」
女はそれを聞いて、やかんが沸騰してお湯が溢れるように怒りの感情が湧いた。
「お前、悪趣味だなぁ!死ね」
すると東房は
「俺は死ぬ気はねぇよ、死ぬ気だったのはお前の方じゃねぇか」
女は憎悪に満ちた目で「お前、ちょっと来い」と男を呼んだ。
すると、東房は言った。
「あんたさんも一応死ぬ勇気を決めてこの崖へ来た人だ。死ぬ気で殺しに来るかもしれないから行かね。」
「この根性なし」
「はいはい、俺は死ぬ勇気がない男ですよ」
すると、女は「死ぬのはやめた。とりあえずお前が見ている前では死なない!」
「そうか、そうか」
そして、女は崖から去って行った。
「なんだ見たかったのに、はぁーあ今日は帰るか」
東房はその日は帰って行った。
そして別の日、東房は、昼前に昼飯を食ってから崖へ来た。そして1時間後くらいに下を向いた幸薄そうな男がやってきた。
「今日も死のうとするやつが来てるな」
東房は木の陰から見張っていた。
「いつ飛び込むんだろうか?」
幸薄そうな男は、3・4時間たっても飛び降りず崖の先に座って海を眺めていた。
「はやく死ぬんだったら死ねよ、俺もうそろそろかえろうかな?」
そして、東房は飛び降りそうな幸薄そうな男に向けて叫び始めた。
「おーい、お前死なないのか?」
「あ、あんたは誰だ?どこにいる」
飛び降りようとする幸薄そうな男はビクッと一瞬しながら、どもった声で大きく叫んだ
「ここ、ここ」
飛び降りそうな幸薄そうな男は、東房を男を見つけた。
「あんた、なに?」
「俺?俺は崖に来る人を人間観察しているものだ」
「そ、そうですか、」
しばらく、無言状態が続き重たい空気が流れていた。
幸薄そうな男は戸惑いながらも自分がここへ来た意味を思い出した。
「一瞬忘れてましたお、おれ死ににきたんでしたっけ」
「飛び降りることを忘れてました。ありがとう」
それは一瞬だった。いきなり幸薄そうな男は崖下へ飛び降りて行った。
東房は飛び降り死体を見ようと崖下を覗いたが暗くて見えなかった。
「し、死んじゃったか、ずっと覗いてきたが、俺が声を掛けて死んだのはあの男が最初だな」
東房を口を開けながら崖の下を見つめていた。
「あ、アホなやつだぜ、バーカ、バーカ、バーカ!!!死んでしまうなんて」
東房は喉が枯れそうになるまで吠えた。東房はハァー!ハァーと強く息を吐いた。、東房は、動揺が収まらなかったが、なぜか高揚感に満たされていた。
それは、東房は死を選ばずに今日も生き残ったいったという優越感からだろうか?
また別の日、崖から飛び降りる人間を観察しに東房は岩の上で座っていた。
すると、体つきのいい若そうな男がやってきた。
(お、きたきた待ちたくないから早く飛び込めよ)
東房は息をひそめて、その男を観察した。
だが、体つきのいい男もなかなか飛び込まないのである。
(躊躇しやがって)
「おーい!」男は体つきのいい男に声を掛ける。
「だ、誰ですか?」
体つきのいい男はビクッとびっくりして声のする東房の方へ振り向いた。
「あんたは誰です。」
「俺はこの崖から(自殺者を)見つめる人だ」
「あっ!あーそうですか?」
体つきのいい男は、それ効いたとたん一瞬顔をゆがめたが、東房はそれを見てなかった。
「もう1回言うけど、お前死なないの?」
すると、体つきのいい男は万円の笑みを浮かべて
「死ぬの、やめました」
「そうか、やめるんかい」
すると、飛び降りる予定だった体つきのいい男は言った。
「あの、すいませんタバコ吸いたいんですけど1本くれませんか?」
「ん、うんやるよ」
体つきのいい男の笑みに東房の警戒感は薄れていた。
そして、体つきのいい男は岩から降りて東房のそばへやってきた。
「じゃあ、1本やるよ」
東房が1本タバコを差し出した瞬間。
飛び降りそうだった体つきのいい男は手を強く握った。
「なんなんだ、お前!何する」
すると、飛び込もうとした体つきのいい男は言った。
「俺は、お前を殺してから崖へ飛び込む」
「なんで、俺を殺そうとするんだ!お前だけ死ねばいいだろっ!」
すると、飛び降りそうだった体つきのいい男はまた造り笑みを作って話し始めた。
「今まで、生きてて腹立つやつは山ほどいた。だが俺は一人も復習することなく死のうとしていた。これから飛び込む前に人生最後の俺に腹を立てさせた人間がいる。それはお前だ!」
体つきのいい。力のある男に押さえつけられて、本当に殺されそうな東房。
「やめろ」
東房は、思い切って火事場のバカ力で大きく体つきのいい男を突き飛ばした。
そして、崖ぎりぎりに倒れた男を東房は、最後の力を振り絞って崖の下へ突き落した。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
男の断末魔が周り一面に響き渡り、男は崖の下へ落ちてぐちゃぐちゃになった。
「はぁ、はぁ」
東房は殺されずに済んだが、自らの手で殺してしまった。
「もう、やめよう」
東房は、それ以来崖へ来るのをやめてしまった。
それから東房は都会へ仕事を探しに行った。
だが、人間トラブルに巻き込まれ傷心状態で失業し、都会からあの崖のある故郷へ戻っていった。
「死のうかな」
東房は希死念慮に襲われた。
そして、あの崖へ向かった。
「まさか、俺が今度は崖へ来る立場になるなんてな」
だが、東房は飛び込む勇気がなく数時間、崖に居た。
(やめようか・・・)
「おーい飛び込むなら飛び込めよ」
「誰だ」
東房はびっくりした。
声がした。前に東房自身が居座ってた場所を見るが誰もいない。
すこし、見渡すと東房が居座っていた別の場所に知らない男がいるではないか?
「お前、人が崖から飛び降りて死ぬのを見て楽しんでいるのか」
「そうだ」
「フ、ハハハ」
東房は笑った。
(まさか、そんな小説見たいなことが死ぬ前に起きるなんてな、今が俺が死ぬ時だ、これが因果応報か・・)
そして、東房は崖から飛び降りて死んだ。