答えは1つじゃない
「ゆうしゃはすごいつよいんでしょ?」
「もう勇者じゃないけどね。」
「ちがうの?」
と首をかしげる。
「うん、魔王も倒したし、少し考えたいことがあってね。勇者はもうやめたんだ。」
「じゃあゆうしゃじゃない?」
「あぁ、だから私のことはセナと呼んでくれ。」
「せな!ぼくのことはサツキてよんで。」
とサツキはにこやかにいう。
「ねぇねぇ!せな!
せなってヒトでしょ?
どうやっておうさまをたおすくらいつよくなったの?」
人族というのはこの世界にいる生物の中では強い方とは言えない。
オサのような鬼人族などと比べれば身体能力においてずっと劣った生物とされる。
「ぼくもっとつよくなりたいんだ!
つよくなってさとおさにいたずらしたい!
いっつもきづかれちゃってできないんだ…。」
とサツキはこっちをみつめる。
「まだ子供だからそんなものだとおもうけど…。
そうだな。ちょっと私とゲームをしようか。」
「げーむ!」
サツキは目を輝かせる。私は足元の石を拾い上げる。
「わたしのいたところだと石蹴りと呼ばれる遊びだ。
私が少し離れたところからこの石を狙う。
この石を蹴られたら君のまけ。私を見つけられたら君の勝ちだ。
この石が下に落ちるまで目を閉じてて。いくよ。」
と言って石を真上に放る。
石が落ちるとサツキは目を開けその石を守るようにきょろきょろとあたりを見まわす。
あたりは木が少なく開けており隠れられるような場所は見当たらなかった。
「はい、私の勝ちだ。」
「あれ!?」
目を丸くして振り返るサツキ。
どうやってここまで来たのか、どこに隠れていたのか全く分からなかったみたいだ。
「不思議だろう?物陰に隠れるというのは視界から外れる方法の一つでしかないんだ。
わざわざ隠れなくとも相手の視界に映ってなければ姿は見られないだろう?
あとはそれをいかに気づかれないようにするかだ。
こういう技が私を強くしてくれた。」
「すごい!」
「そして、逆に言えば見ることだけが見つける方法ではないだろう?
私は見なくても君の投げたものに気づけたし、それはオサだっておなじだ。
見られないようにする以外のことにも注意を払ってみるといいんじゃないか?」
「わかった!」
そういって手をあげる。相手が魔物だということも忘れて普通にアドバイスをしてしまった。
思えば勇者になってからあまり子供というものに接することがなくなっていた気がする。
種族に関わらず、子供というのはかわいらしいものだと思いながら、サツキの頭をなでた。