始まり
「…はい、これで転職完了です。」
「ありがとう、リリィ。」
俺は旅の仲間のリリィに礼を言う。リリィは私の魔王討伐の旅についてきてくれた僧侶だ。
転職は本来聖都でしか行えないが、魔王討伐を成し遂げた彼女のレベルならすでに不可能なことではなかった。
「しっかし、本当にいいのかよ、勇者様?」
「あぁ、これがいいんです。名誉を得るにはあまりに多くを殺しすぎてしまいました。」
戦士のバロンにそう返す。
彼は、私の剣の師であり、王国の傭兵団の団長だ。剣の腕だけなら私よりも上だろう。
「魔物にそんな風に考えるなんて、勇者様も変な人ね。」
「…昔の私もそう思うだろうね。」
彼女はダリア、森にすむ魔女だった彼女は私の魔法の師。
魔法の制御がうまい彼女をバロンがスカウトした。
彼の見る目は確かだ。心の底からそう思う。
「ここまで頑張ってきたのに、それを捨てるなんて俺にゃ考えらんねぇですよ。ダリアさん。」
「まぁ、彼が初めて望みらしい望みを言ったんだし叶えてあげるのが私たちのできることじゃないかしら。」
「そりゃそうですけどね…。」
「えぇ、ダリアさんの言うとおりです。」
リリィは俺から目を離しそう言う。
「あなたに神の導きがあらんことを。ご同行できないのは残念ですが」
「…あぁ、ありがとう。リリィ。」
「はぁ、お熱いわね。」
茶化すダリアに笑いながら私は仲間に背を向ける。
「…じゃあな、げんきでやれよ。ゆう…あー…。」
「セナ、それが私の名前です。」
「あ、あぁ、じゃあな、セナ」
バロンからの別れの言葉を背に歩き出した。
ここからは勇者の私ではなくセナとしての人生が始まる。
正しさを知るための旅を始めよう。