七話 とある後輩の作戦会議
思うところがあって、今回からタイトルを変えさせていただきました。前のタイトルのままだと、さすがに取っ付きにくいかなとか色々斗考えちゃいまして。「でもほとんど変わらなくね?」とか真っ当なツッコミを入れてはいけない。いいね?
そんなこんなで、これからもよろしくお願いいたします。
なんやかんやで、空気椅子をさせられる羽目になってしまった俺。なんやかんやはなんやかんやだ。どうしても詳細が気になる方は、今すぐ前話を読み返すのだ!
「で、俺は具体的に何をすればいいんだ?」
開始五分ですでに足をプルプルさせながら、制服を着直し終えたねず子にそう訊ねる。あれ? 空気椅子ってこんな辛いもんだったっけ? 一時間も足が持つかしらん、と疑問が鎌首をもたげたが、今さらやめるわけにもいかない。男同士の約束だしな! なんて、ねず子にそのまま言ったらまた殴られそうな冗談を内心で呟いてどうにか平静を保つ。
どちらにせよ、男が一度了承したものを途中で投げ出すのはカッコ悪いもんな。諦めたらそこで試合終了だし、兎にも角にも今は堪えるしかない。
「ケンケンと恋仲になりたいんだよな? じゃあ手っ取り早く俺がお前の気持ちをケンケンに伝えに行ってやろうか?」
「いえ、それには及びません。さすがに告白だけは自分ですべきだと思うので」
それに、とねず子は近くにあった椅子を引いて座ったあと、話を紡いだ。
「私としては、ちゃんと段階を踏みたいと考えているんです」
「段階?」
「はい。まずは先輩と後輩という関係から脱却して、それからだんだんと異性として認識してもらえるようになってから告白した方がいいかと思いまして」
「成歩堂、もといなるほど。エロゲーで例えるところの好感度稼ぎという事か。確かにフラグすら立てずに告白したところで、子作りエンドには辿り着けないもんな」
「……なんでわざわざエロゲーで例えますかね、この人は」
呆れたように嘆息を吐くねず子。エロゲーはすべての恋愛に通ずるバイブルだからね。例えに使うのは当然だよね。
「ひとまず段階を踏むのはわかったが、だったら最初の一歩はどうするつもりなんだ?」
「そこなんですが、トラ先輩にはまず、剣斗先輩の連絡先を教えてもらえるよう、私と協力してほしいんです」
「ケンケンの連絡先ぃ?」
思わず「あんたバカぁ?」みたいな声音で言葉を返しつつ、先を続ける。
「んなもん、いちいちケンケンから教えてもらわなくても、俺が教えてやんよ。ほら、スマホ出せスマホ」
「だからそういう事じゃないんですってば。トラ先輩に教えてもらうんじゃなくて、剣斗先輩から直接教えてもらえるのに意味があるんですっ」
がんばるぞい! みたいなポーズで握り拳を上げて語気を強めるねず子。負けじと俺もアヘ顔ダブルピースで対抗しようと思ったが、そんな体力も気力もないのでやめておいた。くっ! ガッツが足りない!
「だいたい私からいきなり連絡なんてしたら、ちょっと不気味じゃないですか。いくら部活の後輩とは言っても」
「俺的には、未だにケンケンの連絡先を知らなかった方が不思議でならないけどな」
単なる部活の先輩後輩の関係とは言え、けっこう仲は良い方なんだし。
「……だって、いざとなると緊張するんですもん。そんな簡単に連絡先を交換できたら苦労しませんよ」
だから俺に胸を揉ませてまで協力を得ようとしたのか。なんでそこまで出来ておいて、連絡先を交換するくらいのことに苦労するのかと疑問でならないところではあるが。
「それで? 俺は結局どうすればいいんだ?」
「このあと剣斗先輩が部室に来た時に、自然な感じで連絡先を交換できるよう話を合わせてほしいんです」
「話を合わせるって?」
「今後夏休みも控えている事ですし、その際の部活動で連絡先をみんなで交換したらどうかと提案する予定です。実際、夏休みに入ったら急な用事とかで部活に行けない日もあるでしょうし」
「なるほど」
確かに、それだと違和感はない。きっとスムーズに話が進む事だろう。
とはいえ。
「お前は本当にそれでいいのか?」
「え? 何か問題でもありました?」
「問題もなにも、それだと俺の連絡先までお前と交換する事になってしまうぞ? いくらなんでもそれは嫌だろ? お前、俺の事苦手っぽいし」
さすがに憎まれまではしていないと思うが、それでも好意までは持たれていないはずだ。それは俺自身よくわかっている。今日なんておっぱいまで揉んじゃったしな! だが私は謝らない(ティクビの件で謝りはしたが)。
「……本当に嫌いだったら、胸なんて揉ませたりしませんよ」
「ん? なんか言ったか?」
「なんでもありません〜。トラ先輩の連絡先が増えるくらい、別に気にしませんから。ちょっとスマホの画面にちらちらと広告が纏わり付いてくる程度の迷惑でしかありませんし」
あれ? それってかなり嫌がられてね? 特に動画広告なんて強制的に見せてくるやつがあったりするから、すげえ目障りだったりするんだよなあ。せめて俺は任意で消せるタイプの広告でありたい。俺、消されちゃうのん?
「わかった。そういう事なら、俺も出来るだけ夏休みの話題を出すよう努める」
「ええ。その方向でお願いします」
「で、話も一区切りついたところでちょっと提案があるんだが……」
「はい。なんでしょう?」
「そろそろ、空気椅子をやめ「ダメです」
鉤括弧に食い込むほどの即答だと!?
「あと三十分近くも時間があるじゃないですか。ちゃんと約束を守ってくださいよ」
「そうは言われても、もうすでに限界を超えているんだが。限界突破中なのだが。ほら見ろよ、この足のガクガクっぷりを」
「そうですね。見ているだけでザマミロ&スカッと爽やかな笑いが出てきてしょうがありません」
くぷぷー、と半分白黒なクマみたいな失笑を零すねず子。
おのれねず子。こうなったら俺も、奥の手を出すまでだ!
「言っておくけどな、ねず子。ケンケンが今の俺を見たら、絶対怪訝に思うぞ? その時、猜疑の目がお前に向いていいのか!?」
「大丈夫です。もしも本当にそうなったら、トラ先輩に胸を揉まれたって正直に明かします」
「バカめ! 胸を揉んだのは事実だが、どこにそんな証拠があるというのだね!?」
「実は少し前から、スマホで先ほどまでの会話を録音していました」
「さーて、もうあと三十分頑張っちゃおうかなー!」
思いもよらなかった反撃に、俺は空元気で声を張り上げた。
それはアカン。それだけはアカン。いくらねず子から持ち出した話とはいえ、そんなの絶対俺が叱られるパティーンじゃないですかヤダぁ〜。
「剣斗先輩が来る前に、罰が終わったらいいですね〜(ニヤニヤ)」
「ソウデスネー」
心持ち白目になりながら、勝ち誇ったようにほくそ笑みねず子に棒読みで答える俺なのであった。
まあこのあと、十分もしない内にケンケンが部室にやって来るわけなのだが。現実は非情である。