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四話 最近、後輩の様子がちょっとおかしいんだが




「貧乳に興味はない。以上」

「冒頭から否定!?」



 にべもなく言った俺に、信じられないとばかりに驚愕するねず子。

「ちょっとは悩みましょうよ! もう少し地の文で、『突然わけのわからない事を言い出したねず子に、俺は少なからず面食らってしまった。可愛くて素直で魅力的な後輩から自分の胸に興味はないかと煽情的に訊ねられたのだから。正直心を動かされなかったと言えば嘘になる提案だった──』くらいの描写はしましょうよ!?」

「その地の文、ちょっと盛り過ぎじゃね?」

 ていうか、何そのメタ発言。俺は俺で「メメタァ」とでも突っ込めばいいの? 突っ込むのはおっぱいだけでいいんだよなあ。

「一度でいいから美女のブルンブルンの綺麗で大きいおっぱいに頭からダイブしたい」

「は!? いきなり何を言い出してるんですか!?」

「俺の願望だよ?」

「そういうのは心に思っても口に出すのはやめましょうよ! しかもそんな具体的に!」

「バカめ! ウーロンみたく安易に『ギャルのパンティーおくれ──っ!!』なんて言ってみろ! もしかしたらギャルはギャルでも汚ギャルのパンティーが送られてくるかもしれねぇじゃねぇか!」

「どんな意地悪な神龍シェンロンなんですか! それはもう願い事を叶えるというより、単なる嫌がらせですよ!」

「……つーか、さっきから何の話してんの?」

「それはこっちのセリフです!」

 何でか怒られた。せっかく人が脱線した話を戻そうとしたのに……。

「それより私の胸の話ですよ! いくらなんでもちょっとくらいは興味を持ってくださいよ! それと、私は貧乳ではありませんから!」

「しょうちした。きさまはきる」

「だからそれは私のセリフですってば! いや、貧乳だって認めるわけじゃないですけども!」

 ツッコミに余念のないねず子だった。

 こいつ生意気だけど、ツッコミだけは本当に小気味いいわ〜。打てば響くっていうか、ボケ甲斐がありますわ〜。

「そもそも、どうして私が自分の胸の話をしたのかをまず訊きましょうよ!」

「じゃあ、どうしてねず子は胸の話なんて持ち出してきたんだ?」

「それはもちろん、私の願い事を聞いてもらうためですよ!」

 だろうね。その未来は見えていた。むしろそれ以外に何があるのかって話だ。

「で、その願い事の内容まで訊いていいのか?」

「はい。実はトラ先輩に、私の恋の手伝いをしてもらいたくて……」

 恥ずかしそうに両手の指をつんつん合わせながら言ったねず子に、俺は「こい〜?」と眉をしかめた。

 恋。恋か。英語で言うと「Koi」だな。あ、それは『ごちうさ』の方か。

「なるほど。ラヴか……」

「ええ、ラブです。ん? 何か今のニュアンスがおかしくありませんでした? なんだかSAN値が減る方の……」

 気のせいじゃないカナ? カナ?

「それで、俺にお前とケンケンとの仲を取り持てって言いたいのか?」

「その通りです──ってよくわかりましたね!? 私まだ何も言ってないのに……」

 わからいでか。日頃あれだけケンケンに色目を使っていれば、女心に詳しくない俺でもわかるわ。

「まあ、話が早くて助かりますけどね」

 言いながら、ねず子はブラウスのリボンを解いて、挑発するように胸のボタンを一つ外した。

「それで再び私の胸の話に戻りますけれど、どうですかトラ先輩。私と剣斗先輩が付き合えるように協力してくれるなら、その見返りに私の胸を──」

「だが断る」

「──って、話を最後まで聞いてくださいよ!?」

 話を途中で遮った俺に、ねず子は机の上に乗り出す形で声を荒げた。

「貧乳には興味はないって言っただろ。仮にお前のおっぱいを見せてくれるのだとしても、俺にしてみれば何の魅力も感じんわ」

 まな板なんぞ見せられてもしょうがないしな。そういうセリフは谷間が出来てから言ってほしいものだ。具体的にはおっぱいに子供を挟めるくらいに。

「だから貧乳じゃないですってば! 何度言わせるんですか、もう。それに胸を見せるだけではダメとか、どんだけ上から目線なんですか……」

「当たり前だろ。俺は交渉されている側なんだから。対価に似合わない労働はしたくない」

「ぐっ……。いちいちもっともな事を……」

 悔しそうに歯噛みするねず子。

 おお、ねず子のこんな顔、初めて見た。それだけケンケンへの想いが強いというわけか。

 が、俺には関係のない事だし、そもそも親友であるケンケンに内緒でそういう真似をするのは正直好かない。好きなら好きで正面からぶつかればいいのだ。下手な小細工は無しでな。

「もうお終いか? じゃあ、この話はなかった事に──」



「だ、だったら、私の胸を揉むというのは!?」

「全力で協力しよう」



 すまない親友。おっぱいの前では、だれも抗う事はできないのだ……!

「あ、やっぱりここまでだったら要求も素直に通るんですね……」

「見るだけだったら記憶に残るだけだが、揉むとなったらその感触を味わう事もできるしな」

「清々しいほどのスケベですね……。ていうか、貧乳には興味がなかったはずじゃないんですか?」

「確かに貧乳には興味はない。だが揉むとなったら話は別だ。女子の胸を合意の上で揉めるからな!」

「清々しいほどのスケベですね……。将来、一体どんな大人になるのやら……」

「おっパブの店長だよ?」

「別に言わなくていいですからそんなの! ていうかトラ先輩らしい将来の夢ですね!」

 おっぱい大好き人間だからな。

「そんな事より、さっさとおっぱいを揉ませろ。今さらやめるとか無しだぞ?」

「わかってますよ。じゃあちょっと待ってください」

 やばい。めちゃくちゃワクワクしちゃう。ついでにムスコもムクムクしちゃう!

 と、そんな風に胸を踊らせる俺に対し、なぜかねず子は自分の鞄を開けて、ミニタオルを取り出した。

 そうしておもむろにミニタオルを折り畳んだあと、それを自分の胸に当てて両脇に挟んだ。

 ……………………。んん?

「はい、どうぞ」

「どうぞって……え? どゆこと???」

「どうもこうも、見ての通りですよ」

「え? そのタオルの上から揉めって事か……?」

「そうですよ? あ、もしかしてトラ先輩──」

 言って、ねず子は可笑しそうにニヤァと口角を吊り上げた。

「このまま私の胸が揉めるとでも思っていたんですか? 残念でしたね。いくらなんでも、このまま胸を揉ませるわけないじゃないですか。私、ブラの上にブラウスを着ているとはいえ、薄着なのには変わりないんですから☆」



「てめぇは俺を怒らせたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 俺は激昂した。それはもう、怒髪天を衝く勢いで。

 今の俺は、さながら16号を目の前で破壊された悟飯のようだった。怒りが限界のその先を超えてしまったぜえええええ!

「初めてですよ、ワタシをここまで怒らせたおバカさんは……!」

「え! そんな血涙が出るほどに!?」

「あったりまえだ! 男の純情をもてあそびやがって! シャミ子が悪いんだぞ!?」

「急にだれですかシャミ子さん!? いや、さすがに私も悪い気がしてきたと言いますか、まさかここまで怒るとは思ってなかったので……」

「今さら謝ったところでもう知らん! お前なんて、豆腐の角に頭をぶつけたあと、別府温泉でゆっくり汚れを取って癒されてろっ!」

「あれ!? 優しい!? そんな軽いお仕置きで本当にいいんですか……!?」

 いかんいかん。頭に血が昇るあまり、自分でも何を言っているのかわからなくなってきた。ムスコに血が昇ってきたら勃起だとわかるんだけどな。本当になんの話だったっけ?

「とにかく、お前は絶対許さないからな! ぷんすかぷんぷん! ぷんぷんぷん!」

「ぷんぷんって、実際に口で言う人、初めて見ましたよ……」

 俺も初めて言ったからな。つまりねず子は、俺にとって初めての人というわけだ。俺もついにぷんぷん童貞卒業か……。

「わかりましたよ……。素直に謝ります。私も大人気おとなげない真似をしてしまいましたし……」

「パイ◯ンかこのヤロー!?」

「そっちの毛の話じゃないですから! ていうか、怒りながら何を訊いているんですか!?」

 だって気になったんだもん。あと剃毛なのか天然なのかも気になります。そんな俺は天然派。

「何にせよ、確かに私のやり方が卑怯だったのは認めますよ……。ほ、ほら、今ならタオル無しで揉ませてあげますから……!」

「ヤダね! このエターナル胸ぺったん女が! 今さらそれくらいで俺の心が動くもんか!」

「な!? 人がせっかく羞恥に耐えながら胸を差し出したというのに……! ていうか、だれが将来性無しですか! まだまだ私は成長期です〜!」

「知らん知らん! この話はもう終了だ! 閉店ガラガラまた来世〜!」

 そう大声で言い捨てて、俺はねず子から背を向けて耳を塞いだ。

 男の純情を弄んだ罪は大きいのだ。その罪の深さ、とくと思い知るがいい。

「〜っ! ああもう! わかりました! わかりましたよ!」

 と。

 徹底抗戦の姿勢を曲げない俺に対し、ねず子はやけになったようにあらん限りの声で叫んだ。



「だったらもう、生で私のおっぱいを揉んでいいですから!」




次回、おっぱい回!

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