二話 俺がモテないのはどう考えてもお前らが悪い
そうしてついに、後輩の生のおっぱいを揉む瞬間がやってきた!
と、さくさく事を進めたいところではあるのだが、その前にしなければならない話が色々とあったりするわけで──
「美女のおっぱい揉みたい」
「うん。それ、自習中の教室で言うセリフじゃないよね?」
二年D組の教室──本来なら三時限目にやる予定だった英語の授業が担当教師の体調不良とかで急遽自習になった時の事だった。
席は自由でいいという話だったので、渡された英語のプリント(別の英語担当教師が用意した物)をさっさと終わらすべく、親友のケンケンの元へとやってきた俺は、走らせていたシャーペンを止めて願望を漏らした。
「しょうがないだろ! 揉みたいものは揉みたいんだから! 俺のおっぱいへの熱情は、いつなんどきも途切れる事はないのだ!」
「その熱情を少しでも勉強に向けたら、ちょっとは成績も良くなるはずなのにねぇ」
呆れ気味に苦笑するケンケン。それができたら、とっくにやっておりますがな。
「まーた榊が滝沢くんのそばでアホな事を言ってるわよ? さすがは『おっぱい魔神』ね」
「ほんと、どうしようもない奴かも〜。どうして滝沢くんもあんなのと仲良くしているのか、心底わからないかも〜」
「それな」
と。
俺とケンケンが話していた中、隣にいた女子グループ(三人共ギャル系。つまりケバい)に、思いっきり失礼な言葉を投げかけられた。
失礼っていうか、うん。完全に侮辱ですな。
まあ毎度の事なので、今さらどうこうする気もさらさらないが。こいつら、クラス内で俺がなにかしら発言するたびに噛み付いてくるのである。
その時は俺も言い返したりしていたのだが、今となっては相手にするのもバカらしくなってきて、常にスルー状態だ。
ほら、俺ってクール&ナイスガイを形にしたような男だし。これくらいの事で怒り心頭になるほど小さい人間ではないのだ。ちっちゃくないよ!
「なんで榊ってああも下品なのかしらね。口を開けばスケベな事しか言わないし。クラス中の女子に嫌われているって自覚がないのかしら?」
「ここまで来ると、榊虎介という名前自体が卑猥に聞こえるわよね〜。見た目も中身も褒める点がないとか、最悪の部類よね〜」
「マジでそれな」
「てめぇら、いい加減にせぇよゴルァ!!」
堪忍袋の緒が切れた。海より広い俺の心も、ここらが我慢の限界だ!
クール&ナイスガイ? なにそれ? 俺はいつだって純情派より情熱派なんだよ!
「黙っておとなしく聞いてりゃ言いたい放題言いやがって! しまいには母乳吸い付くしたるぞワレぇ!」
「「「まだ母乳なんて出ねぇよ」」」
え? まだ出ないの? 三人共、それなりにパイオツカイデーなのに? やっぱり母乳は赤ちゃんを産んでからでないと出ないものなのかしらん。
まあ仮に母乳が本当に出たとしても、実際に吸いたいとまでは思わんけどな。見た目よりもおっぱい重視派な俺とはいえ、全然考慮しないわけではないし。やっぱ巨乳清楚少女や爆乳お色気お姉様の方が断然良いですわー。想像しただけでむしゃぶり付きたいですわー。
「ごめんね、うるさくしちゃって」
と、俺とギャルどもが言い合っていた中、ケンケンがいつものイケメンスマイルで間に入ってきた。
「今後はなるべく静かにするから、今回は大目に見てもくれないかな?」
「ああん! 滝沢くんカッコいい! 何でも全然許しちゃう〜!」
「いっそ危険日でも生で許しちゃうかも〜!」
「それなそれな!」
こいつら、俺の時とは違って露骨に態度を変えやがって!
「よろしい、ならば戦争だ。ここから先は、俺の戦争だ!」
「まあまあ、落ち着いてトラ。せっかく平和的に解決できたんだから、ここは穏便に行こうよ」
ちっ。ここはケンケンの顔に免じて折れておいてやるか。ありがたく思いっきりやがれ。
「ところでトラ。今度の夏休みに送る読書感想文の題材は決まったの?」
「いんや、まだ」
椅子に深く座り直しながら、俺は首を振った。
「ていうか、夏休みの間も部活するなんてマジか? 運動部やメジャーな文化部でもないのに」
「部員が三人しかいない部活だし、それなりにちゃんと活動しておかないとすぐに廃部扱いにされかねないからね。部室を欲しがっている部活はいくらでもあるし」
そういう意味では──と持っていたシャーペンを一旦机の上に置いて、ケンケンは微笑みながら言った。
「これでもトラには感謝しているんだよ。去年までは僕しか一年生がいなくて、元から二年生はいなかったし、三年生の先輩方は卒業しちゃうわで廃部の危機だった文芸部をトラが救ってくれたんだから」
「ケンケンには色々と借りがあるからな。部活なんて興味なかったが、部員が二人以上いれば部活が存続できるなら、文芸部に入部するくらい安いもんだ」
そもそも、親友が目の前で困っているんだ。助けない理由なんてあるわけない。
恥ずかしいから、絶対口にはしないけどな!
「それに、今年はねず子も入ってきたし、もうあと一年はひとまず大丈夫だろ」
「そうだね。でも、できたら実績を作って新入生──特に根津さんと同じ一年生を入部させておきたいんだよね」
「だから読書感想文ってか? こんなので実績なんて作れるのか? 入賞するかもどうかもわからないってのに」
「とりあえずは文芸部として活動しているという大義名分は必要だからね。さっきも言ったけれど、ちゃんと活動している証拠を提示しないと、廃部にされかねないから。それに入賞自体は僕もそこまで当てにしているわけじゃないよ。数打ちゃ当たるっていうか、読書感想文以外にも色々考えてはいるし」
「うげ。マジかよ……」
夏休みくらい、ゆっくり過ごしたいんだけどなあ。まだ六月に入ったばかりだし、夏休みが来るまでだいぶ先だけど、宿題が増えると思うと憂鬱になる。
そもそも文芸なんて、元から興味があった分野でもないしなあ。官能小説だったら興味津々、ムスコビンビンだけどね! ドキがムネムネしちゃう!
「まあ何にしても、文芸部を未来に残すためにも、やれる事は何でもしておきたいのさ。先輩たちにも託された大切さな部活だしね」
「ほぉーん。部長ともなると大変だな〜」
他人事のように言う俺。そんな俺も副部長だったりするが、元が二人しかいない部活だったし、なし崩し的に決まったようなもんだ。
「兎にも角にも、ちゃんと読書感想文の題材を決めておいてくれる? 協力できる事があったら、なんでもするからさ」
親友からの頼みとあっては無碍にはできない。
そんなこんなで内心げんなりしつつも「はいはい。わかったよ」とおざなりに了承する俺なのであった。
おっぱいを揉む話はまだぞよ。もうちっとばかし、おっぱいを揉む前の話が続くのじゃ。
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