第十三話 馬鹿物語
『は、はあ!? 急に何言うんですか!?』
「だってお前、ケンケンに気に入られたいんだろ? だったらケンケンのために弁当を作ってやったら、好感度も上がるだろ」
『でも、剣斗先輩の迷惑になるんじゃ……』
「それは問題ない。ケンケンはいつもパンだし、弁当を作ってやったら喜ぶと思うぞ?」
『そ、そうでしょうか……?』
「おう。それともお前、メシマズな料理作んの?」
『つ、作りませんよ! これでも友達から「まあまあ美味い』って褒められた事もあるんですからね!』
まあまあ美味いっていうのが、妙にリアリティがあるなあ。
「じゃあ問題ないな。明日はちゃんとケンケンの分も作るんだぞ?」
『わ、わかりましたよ。そこまで言われたら私も作らないわけにはいきませんし。けど、そんなに大したお弁当は作れませんよ?』
「大丈夫だって。別にケンケン、グルメってわけでもないし。それに……」
『? それに、なんですか?』
焦らす形で一旦間を置いたあと、俺はニヤリと口角を吊り上げながら言った。
「俺に良い考えがある」
☆★☆★
以上、回想終了。
「いやそれ、結局マスクをしている説明になってませんよね!?」
「(ビクっ)急にどうしたの根津さん? 突然大声を上げて……」
「あ、すみません。どうしても突っ込まずにはいられない気になっちゃって……」
さすがねず子。まさか回想にまでツッコミを入れてくるとは!
「けど、トラもすごいよね。いつの間に屋上の鍵なんて持ってたの?」
【それは禁則事項だ】
スマホで返事を書く俺。あんまり吹聴していい話でもないしな。ねず子には思いっきり話しちゃったけどね! でも俺は悪くねぇ。
ちなみに俺がマスクをしているのは、少しでもケンケンとねず子の会話を増やすためなのだが、わかんねぇだろうなあ。俺のこのすんばらしい心配り、わかんねぇだろうなあ。
まあ何であれ、俺のベン・トー作戦も上手くいったみたいだし、ケンケンのねず子に対する好感度も上がった事だろう。エンディングが見えた!
「ところで、ねず子。今後の昼食についてだが──」
「ていうか、結局喋るんじゃないですか! そのマスクの意味は!?」
「だって、喋れないわけじゃないし。あとスマホで会話すんのが、ぶっちゃけめんどい。つーか飽きた」
「本末転倒!」
「転んでもただでは起きないがな。要望が通るまではガキンチョみたく床でジタバタ暴れるのが、この俺だぜ!」
「クズですね!」
「クズだねえ」
二人揃ってクズ呼ばわりされた。やっだ、泣いていいかしらん?
「うっせえ! こまけぇこたぁいいんだよ! それよかねず子!」
ぐわしっ! ──じゃないや。これはまこちゃんだな。
ともあれズビシとねず子を指差したあと、俺は言った。
「お前、これからもケンケンに弁当を作ってやれ」




