アルヴァは約束するようです
アルヴァはドラゴン部隊の隊長に近づきながら、レイと話していた。
(レイ、久しぶりに魔法の創造頼める?)
(待ってました待ってました! この日をめっちゃ待ってた! アルヴァってば全然あたしに頼ってくれなくて寂しかったんだからね! それでなになに? 何を創ってほしいの?)
いつも通りテンションの高いレイに苦笑しながら、アルヴァは自分の要望を伝える。
(この人を傷つけるわけにはいかないから、ステータスとかレベルとかを永遠に下げる魔法創れないかな?)
(なるほどなるほど。でもただ下げるだけじゃもったいないから、経験値貰っちゃう?)
(経験値を貰う? そんなこと可能なの?)
レイの言葉を理解できなかったアルヴァは問いかけた。そもそも経験値は奪えるようなものではないとアルヴァは知っていたからだ。
(前にも言ったけど、あたしは【魔法創造】だよ? どんなものでも好き勝手に作れるのです!)
アルヴァはそういえばそんなことを言っていたなと思いだしながら同時に、どこまで好き勝手に作れるのかが今更ながらに気になったが、今は関係ないと頭を切り替える。
(じゃあ、経験値を奪う魔法の作製をお願い)
(りょーかい! 演出は?)
気を使ったような、我慢できないと言いたげな問いかけにアルヴァは苦笑した。
(派手にどうぞ)
(やった! じゃあ、気合入れていくよ!)
その瞬間に展開された魔法陣にアルヴァは目を奪われた。
(なんだこの魔法陣は!? 大きさの違う球体を二つ重ねて、その隙間に形が変わってる魔法文字が刻まれてる? こんなものに何の意味があるんだ? まさか、見る方向によって読み取れる意味が変わってる!?)
アルヴァがその信じられない魔法陣を何とか理解しようと格闘するさまを嘲笑うように、その魔方陣を展開したレイはいつものように淡々と魔法を創造する。
(プログラム作成――――――完了
デバック―――――――――完了
アップロード―――――――完了
魔法名【経験奪取】作成完了しました)
その瞬間、レイが展開した魔法陣は消え、代わりにアルヴァがたった今、この世界に作り出された魔法を発動させるために魔法陣を展開する。そして右手の平を騎士団長に向けた。レイの魔法陣が消える瞬間にアルヴァが魔法陣を間髪入れずに展開したため、周りには魔法陣が変形したようにしか見えなかっただろう。
展開された魔方陣は二つの円が交差するように展開され、それがゆっくりと回転し始めた。
「【経験奪取】」
魔法を発動させた瞬間、騎士団長の体が浮かび上がり、回転する魔方陣の中心に収まる。
(うわぁ…… 普通にきつい…… 流石に【隕石】とか【隧道】とか魔力を消費しすぎたかな。あ、そういえば腕も治したんだった。これって魔力足りる?)
魔法で消費される魔力に少し危機感を覚えながらも、アルヴァは平然と振舞う。対照的にドラゴン部隊の隊長は、魔法を発動した瞬間から痙攣したように体が跳ね続けていた。それでも意識が戻ることはなく、声もなくびくびくと動いていた。
(レイ、これって本当に大丈夫なの? 死なない?)
(大丈夫大丈夫! あたしを信じなさい! そもそも体に馴染んだ経験値を無理やり引っぺがしてるんだから、この体の反応は反射みたいなものだよ?)
(そうなのかなぁ……)
しかし、アルヴァの懸念は現実に起こることはなく、静かに魔法の発動は終わり、ドラゴン部隊の隊長は床に投げ出された。
「これで僕の用は済んだから失礼するよ」
アルヴァは【解析】で隊長のレベルが1になったことを確認すると、一方的に宣言し、その場を歩いて後にした。本当なら【隧道】で去るべきなのだろうが、これ以上魔力を失うと何かあったときに動けなくなりそうだったため、やむを得ず徒歩での移動を選択していた。
(レイ、さっきの魔法って経験値を奪う魔法だったよね?)
徒歩で移動するものの、道がわかるわけもなく、いざとなったら【隧道】で移動しようと心に決めながら、アルヴァはレイに心の中で問いかけた。
(そうだよ~)
(その奪った経験値ってどこ行ったんだ?)
(もちろん、アルヴァのものになってるよ?)
(やっぱりそうだよね。でも、僕のレベルが変わった気がしないんだけど……)
(あんなちょっとの経験値で変わるわけないじゃ~ん)
なんとなくそんな気がしていたアルヴァはレイの歯に衣着せぬ物言いに苦笑した。
「待て」
そんな会話をして歩いている間に、少し速足で追いかけてきていたラディリアスが、アルヴァに声をかけた。
「ラディリアス、王様との話はもういいの?」
「あんな状態で話が続けられると思いますか?」
アルヴァの問いかけにラディリアスは非難めいた視線を向けてきた。
「ごめんなさい」
今のは自分が悪かったとアルヴァは素直に謝罪する。
「……先ほどの態度を考えれば、同一人物かどうか疑いたくなる素直さですね」
そう言ってラディリアスはため息をついた。
「それはさておき、先ほどはあれに何をしたのか聞いていいかい? これからの行動の指針にするから」
「あぁ、あれは経験値を奪ってレベル1にしたんです」
アルヴァの言葉にラディリアスは一瞬ぽかんとしたが、すぐに頭を振って、気持ちを切り替えているようだった。
「わかった。それ自体は確認すればわかることだから問題なさそうだね。約束は守ってくれてるようだし、この程度ならなんとかなるだろう」
ラディリアスは今後の事後処理の目途が立ったのか安堵したような声で言った。
「そのことなんだけど……」
アルヴァは言いにくそうに言葉を濁した。
「何かあるのか? いい予感がしないのだが……」
アルヴァとしては言わずに誤魔化していても良かったが、ここまで真摯に対応されるとアルヴァとしては同じように対応する以外の選択肢はなかった。
「さっきの【隕石】の魔法を使った時なんですけど……」
「【隕石】とは先ほどの凄まじい威力の魔法のことか? まさか近隣の町を巻き込んだのか!?」
「いや、そこはちゃんと避けたので、音によって耳を傷めた人以外は何も被害はないはずです」
「じゃあ、どうしたというんだ?」
「実は【隕石】に巻き込んだ魔物が一匹だけいて……」
「あれだけの被害で一匹だけか。それがどうかしたのか?」
ラディリアスは要領を得ないアルヴァの言葉に不思議そうに首を傾げた。
「話は変わるんだけど、ドラゴン部隊を動かすのってそれなりにお金がかかることですよね?」
「そうだね。当初の予定ではグリーンドラゴンを討伐し、その素材を売った資金を充てることになっていた。隊長としてはアルヴァを殺害したのち、グリーンドラゴンを討伐する予定だったんだろうね」
そこまで言葉にしてラディリアスは何かに気が付いたようにアルヴァに視線を向けた。
「もしかして、巻き込んだのは……」
「確証はないけど、一匹だけ魔力が突出していたので、グリーンドラゴンだと思います」
アルヴァは後ろめたいからか、言葉遣いがだんだん丁寧になっていく。
「……死体が残っている可能性は?」
「ほぼ直撃なので、跡形もないと思います……」
「……そうか」
おそらく先ほど考えていた予定が狂ったのか、ラディリアスは難しい顔をする。
「ただ、代わりと言っては何なんだけど、あの隊長が持っていた剣の作成方法を教えるから、それで今回の件と相殺ってことでどうでしょうか?」
「あいつの剣?」
ラディリアスの顔を見てアルヴァは言葉足らずだったと付け足す。
「あの男が持ってた代々受け継がれてる古代の魔法具とか自慢してたやつです。もちろん、効率をよくして万人でも使えるように改良もしますので」
「まさか…… それは、あれの腰にあった剣のことか?」
ラディリアスは隊長が腰に下げていた剣を思い出したのか、驚いた表情で問いかけた。
「多分その魔法具です。今思いついてるのもありますけど、時間があれば改良も可能だと思います」
「……お前は自分が何を言ってるのか理解できているのか?」
「まぁ、少し行き過ぎた技術だと思うけど、今回のお詫びということで…… ただ、何人にも教えるのは面倒だから、技術や知識に自信がある人に託して、その人が広めてくれるようにしてくれると嬉しいです」
「いや、その技術は決して少しでは―――」
『そこにいたかーーー!』
ラディリアスの声を遮るように大きな声が響き渡った。いや、ラディリアスの耳には「モモキューーー!」という鳴き声にしか聞こえなかったが。
「ラビィ?」
アルヴァがその声に振り向くと、ラビィがとんでもない速さでこちらに向かって走ってきていた。
近づいてきたと思った瞬間、ラビィは地面を蹴り、天井まで跳び上がった。そして天井に達すると更に強く天井を蹴り、アルヴァに迫る。
『ふんっ!』
ラビィはその勢いのまま、アルヴァの頭を蹴りつけ、地面に叩きつける。蹴った瞬間にドゴンッとあり得ない音を発し、アルヴァは仰向けに倒れこんだ。更にアルヴァは少し地面にめり込んでいた。
『お前は! 俺が! 一体! どれだけ! 心配したと! 思ってるんだ!』
そして追い打ちをかけるようにアルヴァの胸の上に着地し、ドンドンと言葉を区切りながら容赦なく連続で踏みしめる。
「いっ! ま、待って! 魔力なくて今はやばいから!」
『ふん…… 反省したか?』
ラビィは気が済んだのか、そう言うとアルヴァの上から降りる。
「いてて…… 本当に死ぬかと思った」
アルヴァはそう言いながら起き上がる。
『その程度でお前が死ぬわけないだろう』
「こういうのは気持ちの問題だよ」
ラディリアスはラビィが何を言っているのか理解できないが、アルヴァの言葉を興味深そうに聞いていた。
「この床の修理費も合わせて今回の魔法具作成方法で相殺しよう」
会話についていけない代わりにラディリアスはそう言った。
『む? 思ったより脆い床だな』
ラビィの言葉に苦笑しながら、アルヴァはラビィの言葉に反応せず、ラディリアスに応じる。
「お手数おかけします」
それからラビィを追いかけてきたイーステリアとマリナが現れるまで、二人は今後の簡単な打ち合わせを済ませるのだった。




