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二度目の転生は上手く生きていきたい  作者: 江藤乱世
第三章 ~学園~
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アルヴァを観戦するようです 後編

前編からの続きです

 エリーゼは目の前で繰り広げられている光景を未だに受け入れられずにいた。

 右腕を失い倒れこむアルヴァ。それを見て勝ち誇る隊長の男。まるで昨日見た夢を鮮明に思い出すように、エリーゼには現実感がなかった。


(なんでアルヴァが斬られて、倒れてるの? 前にナイフ刺さらなかったのに。魔法も効かないようなやつが剣で斬られるなんて何の冗談?)


 エリーゼは考えるが、何も知らないエリーゼには何も考えつかなかった。ただ目の前の映像がアルヴァが斬られているという現実を突き付けてくるだけだ。


『この剣は我が家に代々受け継がれる古代の魔法具だ。未だに再現は出来ないが、効果は何物も切断する。もっとも、一度使うとかなりの大きさの魔石を消費するのだがな』


 そう言って隊長は剣の(つか)の部分から石を三つ取り出し、その場に落とした。そしてアルヴァに近づくと、容赦なく頭を踏みつけた。それを目撃したイーステリアとマリナ、エリーゼは悲鳴を上げる。しかしルナだけは静かにじっと画面を見続けていた。


「な……何とかならないのですか!?」


 マリナは慌てて映像を映し出している魔法具に触れる。しかし、どう使えば転移できるのか皆目見当も出来なかった。


『俺がこれだけの屈辱を受けたのだ。お前を殺すだけでは足りん。あの薄汚い魔物はもちろん、母親も惨たらしく殺してやる!』


「これとかどう?!」


 エリーゼもマリナと共に焦ったように魔法具をいじる。


『お前にも散々馬鹿にしてくれた礼をしたいところだが、いつ部下たちが戻ってくるかもわからん。その時に別に部隊を引き連れてきては計画が水泡に帰す。事故に見せかけるためには早急に止めを刺さねばならん』


 そう言って隊長は魔石のなくなった剣を両手で構える。


「ノーレスはまだですか!?」


 イーステリアが悲痛な叫びにも似た声を上げるが、先ほど出て行ったノーレスがいかに速かろうと到着できるはずもない。


『この鬱憤(うっぷん)は他の者で晴らすとしよう』


 隊長は誰も聞いているはずもないのに独り言を続け、剣先をアルヴァの背中に向け、構える。


「悪趣味……」


 ルナはいつもの表情で呆れたような声で言った。エリーゼはその声を聞いて、ふと気が付いた。


(あれ? 血が出てない?)


『死ね!』


 エリーゼが疑問に思ったのと隊長が剣を振り下ろしたのはほぼ同時だった。外面から視線を逸らすイーステリアとマリナ。だが、ルナとエリーゼだけは今から起こることを見逃さないようにと画面を見続けていた。

 振り下ろされた剣。しかしそれはアルヴァに突き刺さることなく止まった。


『な……なぜ刺さらん! ―――ぐっ!』


 隊長が刺さらない事実に驚いた瞬間、何かをぶつけられて吹き飛んだ。なんとか踏みとどまろうとしたようだが、完全に不意を突かれた一撃に隊長は立っていられず、膝をついた。


『な……何が……』


 自分を殴りつけたものを確認した隊長はその存在に言葉を失った。そこには浮遊しているアルヴァの右腕があったのだ。


『正直、拍子抜けでした』


 その言葉とともにアルヴァなゆっくりと立ち上がる。その姿を見て、イーステリアは喜んだような声で「アルヴァ様!」と名前を呼んだ。マリナもその姿を見て、安堵したように息を吐いた。

 アルヴァは浮かび上がった右腕を(つか)み取ると、そのまま傷口を合わせ魔法を発動させる。そして右腕の調子を確かめるかのように動かした。流石にその光景は理解できなかったのか、隊長は驚愕の表情のまま、固まった。


『僕の右腕を斬り落としたのは本当に予想外だったので、まだ切り札があるのかと様子を見ましたが、何もないとは思いませんでした。普通予備で魔石を準備しませんか?』


 アルヴァは軽々と言っているが、剣の魔法具に使う魔石は加工が必須であり、宝石のように元より小さくなるのだ。故に用意しなければならない魔石はかなりの大きさであり、簡単に用意できないうえに、できたとしても貴族とはいえ、気軽に持ち歩くには高価すぎるものだった。


『まぁ、本当にもう何もないようなので、終わりにしましょうか』


『ま……待て! 魔法具の力とはいえ、それだけのことが出来るならば俺の部隊に入れてやる! どうだ! 光栄だろう!』


(あの人馬鹿なのかな?)


 画面を見ていた何もわからないエリーゼにさえ、その隊長の言葉がおかしいことは理解できた。この期に及んで自分の方が上だと考えている隊長の態度にイーステリアとマリナは呆れていた。


『……僕にはあなたの言葉は難解のようです。もう何も喋らないでください』


 アルヴァは理解することを諦めたのか、そう言って落としていた【黒剣】を拾い上げ、もう一つの手で落としていた魔法具の剣を拾い上げた。


『さ……触るな! それは我が家に代々受け継がれる由緒正しいもので―――!』


 叫ぶように何か言い続ける隊長の言葉を完全に無視し、じっとその剣を眺める。


『なるほど、切れ味が上がるだけの魔法具かぁ。大した造りでもないし、今度ラディリアスに提供する魔法具はこれにしようかな? でも、もう少し効率良くしないと使い物にならないかな?』


「なんかアルヴァ様、とんでもないことを言ってませんか?」


 マリナはぶつぶつ呟くアルヴァの呟きを拾って引き()った表情を浮かべる。


「わたくしの杖もアルヴァ様のお手製ですし、作れても不思議はありませんね」


「元々わたしも(あるじ)(さく)


 ルナの言葉にエリーゼは首を傾げる。ただ、その場の誰も疑問に思っていない様子を見て、口に出すことは出来なかった。画面の中のアルヴァはぶつぶつと材料をどうするのかや構造をどう改善すべきかと呟いている。


『無視するな!』


 耐えかねたのか、隊長は捨て身で殴り掛かる。しかし、その突進はアルヴァが展開した障壁に阻まれた。


『うるさいです。静かにしててください』


 アルヴァは(わずら)わしそうにそう言うと、動けなくするためか、隊長の足と地面を凍らせた。


『返せ!』


『これですか? そんなに欲しいなら返しますよ』


 そう言ってアルヴァは剣を隊長の足元に投げた。


『何をする!』


『返せと言ったのはそちらでしょう。まぁ、構造は大体わかったのでそれは必要ありません』


 見るものはすべて見たのか、アルヴァは興味なさげに言った。


『貴様!』


(わめ)く暇があったら、足元の氷を魔法で溶かしたらどうですか?』


『そんなことをすれば足がどうなるかわからないではないか!』


 その言葉にアルヴァは首を傾げる。


『当然でしょう? 僕を殺したいならがむしゃらになりふり構わず行動すべきでは?』


『ふざけるな! 命を懸けるのは部下の役目だ! 俺が死ねばこの国の大きな損失になるではないか!』


 本気でそう思っているとしか思えないその言葉に、アルヴァは汚いものを見るかのような視線を向けた。


『……もう話すだけでも面倒です。それに、先ほどの話を聞いた以上、あなたを生かす選択肢はない』


 アルヴァはそう言って魔法の準備を始めた。


『な……何をする気だ!』


『あなたのような人はこの場で屈服したとしても、後で手の平を返してくるのは目に見えてます。ラディリアスには悪いですが、先ほども言ったように本当に生かす気はないです。幸い、魔物のせいに出来そうですし』


 名目上はグリーンドラゴンの討伐なのだ。隊長の死体が見つからなければ魔物のせいに出来るだろう。逃げ出した者たちが、平民に怯えて逃げたなどと吹聴するはずもなかった。それを理解できたのか、隊長の顔がみるみる青くなっていく。


『や……やめろ! 俺が死ねばお前の家族がどうなるか―――っ!』


 隊長の言葉はその先を発することはなかった。突然青かった顔は白くなり、全てを忘れてしまったかのように恐怖の表情のまま固まった。エリーゼにもそれは何かが理解できた。


(あれはたぶん【威圧】ってやつよね? 相手を(ひる)ませるっていう)


 ただ、その効果がわかるだけでなぜそんなに(おび)えるのかは理解できなかったが。


『一度ならず二度までもそれを口にするとは、そんなに僕を怒らせたいようだな』


 アルヴァの怒りに向けられていないはずのエリーゼも身の震えを覚えた。直接向けられた隊長は逃げようと凍った足を引きちぎらんばかりに腕に力を()め、()おうとしていた。


『お前の体を失うことは国の損失なのだろう? そんなに無理することはない。足がちぎれるぞ?』


『た……助け…… 誰か……』


 【威圧】のせいで息も絶え絶えな隊長は涙を流しながら少しでもアルヴァから距離をとろうともがく。もちろん地面ごと凍り付いており張り付いているため、距離などとれないのだが。


『助けなどない。ここで終わりだ』


 アルヴァはそう言って魔法の準備を始める。


『魔物の仕業とするためにここで消えていけ』


 そして火球を作り出した。


「あれはあれでまずくない?」


 エリーゼは引き攣った表情でイーステリアとマリナを見るが、二人は首を振るだけだった。これはどうにもならないことなのだと、エリーゼは無理やり納得した。


『いやだ! 死にたくない! 俺はまだやりたいことが!』


『いい大人が泣き喚くとは情けない。騎士らしく潔く受け入れろ』


『お待ちください!』


 そこに飛び込むように何者かが通過した。勢いを殺す暇さえなかったのか、そのまま通り過ぎ、そしてすぐに戻ってきた。


『ノーレス! 良いところに来た! 俺を助けろ!』


 自分への援護だと疑わない隊長は(すが)りつかんばかりの勢いで声を上げた。しかしノーレスはそれに反応することなく、アルヴァに頭を下げる。アルヴァはいったん無言で魔法の発動を止めた。


『お待ちください! これ以上はご容赦ください!』


『容赦してほしい? こいつは俺の母をラビィを殺すと宣言したんだよ? ここで生かす意味が僕には見当たらないんだけど、それでもノーレス、お前は止めるの?』


 言葉はいつも通りだが、未だに発動している【威圧】のせいか、向けられていないノーレスも恐怖を感じ、冷や汗をかく。


『既に王都は先ほどの衝撃とドラゴン部隊の予想より早い帰還により混乱しています。この上で隊長まで失ったとなれば、王都は魔物の恐怖に怯えることになります。ですのでどうかその者の命だけはお助けください』


『ノーレス! 何をしている! 早くそいつをどうにかしろ! 隣国から逃げかえってきたとはいえ、腕に覚えはあるだろう! 時間を稼げ!』


『あんなことを言ってますけど、助けるんですか?』


 アルヴァは呆れた様子でそう言う。


『それでも、まだ政治的に利用価値はあるのです。いざとなればラディリアス様より借りを使用してよいとのことでしたので、それでこの場は(おさ)めてください』


『ノーレス! この無能が! 何をしている!』


『……仕方がない。借りまで持ち出されたら引き下がるよ。ただ、それはこいつを殺さないことだけだ』


『十分です』


『王子の腰巾着(こしぎんちゃく)が! さっさと俺を助け―――!』


 隊長の言葉は最後まで続かなかった。いきなり現れた水球が隊長の顔を覆い、言葉を遮ったのだ。


『アルヴァ様なにを!?』


『殺さないよ。約束だからね。ただ、意識は奪うよ』


 アルヴァがそう言うと、隊長の体が痙攣(けいれん)するように数回跳ねると、そのまま動かなくなった。それと同時に隊長の顔を覆っていた水が消滅する。慌てた様子でノーレスは隊長の様態を確認するが、確かに生きていた。


『問題ないようです』


『これで約束は守ったから、その隊長は僕が持っていくよ』


 そう言ってアルヴァは隊長の(えり)(くび)をつかんだ。


『そ……それは!』


『大丈夫。約束を破るつもりはないよ。このまま王城まで持っていくってだけだから』


 そう言ってアルヴァは【隧道(トンネル)】を発動し、ある場所につなげる。その穴の向こうの風景を見て、ノーレスは言葉を失った。


『じゃあ、文句はないみたいだから、僕は失礼するよ』


 そう言ってアルヴァは【隧道(トンネル)】の穴をくぐった。その瞬間、画面には何も映らなくなり、そして画面もなくなった。


「どうなったの?」


 何も理解できないエリーゼは誰に言うでもなくそう問いかける。


「とりあえずアルヴァ様は無事で終わったようです。この後どうなるのかまではわたくしにもわかりません」


「アルヴァ様はどちらに行かれたのでしょうか?」


 マリナの疑問に答えられるものはおらず、三人は首を傾げた。ただ一人なんとなく行き先を察しているルナはその方角を見ていた。

いつも読んでいただいている方、待っていただいている方、初めての方、読んでいただきありがとうございます。

いいねや評価は素直に嬉しいです。好きなように評価していただけると幸いです。


とたまにはまともなことを言っておきます

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