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二度目の転生は上手く生きていきたい  作者: 江藤乱世
第一章 ~誕生~
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なかなかままならないようです

評価に続き、ブックマーク登録が既にされていて驚いています。更新は気長にお待ちください。いや、本当に気長に

 宿に到着すると、アルヴァは断りを入れ、外の井戸の水を使って血の付いた腕を洗い流した。ついでに体中に出来た擦り傷を治しておく。傷口が完全にふさがっていることに自画自賛しつつ、血で汚れてしまった服を見て、アルヴァは少し(へこ)んだ。


「アルヴァ、本当に大丈夫だったか?」


 部屋の中に入ると、ダウは心配そうにそわそわしながら待っていた。表面上は大丈夫でも中は治っていないというのは回復魔法ではよくあることなのだ。


「大丈夫、ちゃんと完全に治したから」


 アルヴァは腕を動かし、いつかのダウのように問題ないことをアピールする。それを見て思うところでもあったのか、安心したように一息ついた。


「まったく、あんな状態でも魔法が使えるとは、お前はどれだけ魔法が上達したんだ?」


 本当に安心したのか、部屋に備え付けられた椅子にどかりと座り込んだ。


「僕にも良くわからない。何が出来たら凄いの?」


「それもそうだな。お前は村からも出たことなければ、近い子供もいなかったんだ。わからないのは当然か」


 そういう理由ではないのだが、確かに今世のアルヴァも知らないことではあったので、そこはないも言わず、ただ微笑んだ。ダウはそれ以上何も言うことなく、強張(こわば)った体をほぐすように腕を上げ、大きく伸びをする。もうアルヴァは問題ないと本当に体の力を抜いたのだろう。


「まぁ、お前は気にせず自分のやりたいようにやればいい」


 やりたいようにやったら大変なことになるのでアルヴァは基準を知りたかったのだがそれは叶わないかと苦笑した。とりあえず今まで通りあまり派手なことはやめようと心に決める。


「それにしても今日はお前に驚かされっぱなしだ。魔法といい話し方といい、いつ覚えたんだ?」


 その言葉を聞いて、アルヴァはビールドのところで自分がしでかしてしまったことを思い出した。


「ごめんなさい!」


 アルヴァは思い出したらここしかないと勢いよく頭を下げる。ビールドを相手に母さんと離れないようにするためとはいえ好き勝手した自覚はあるのだ。後のことを考えると、アルヴァは自分の行動は軽率としか思えなかった。


「どうしたんだいきなり」


 ダウは本当に何のことなのかわからなかったのか、不思議そうにアルヴァを見た。


「僕がめちゃくちゃしたせいで、ダウの印象が悪くなったと思うから。だから、ごめんなさい」


 ダウが最近様子がおかしかったのは、ビールドから何かしらの報復を恐れてのことだとアルヴァは考えていた。実際見た感想から、あり得ると結論付けている。それが何であるのかはわからないが、ダウが気にしているところを考えると、村に関係があるものとアルヴァは予想していた。

 そこまでわかっているからこそ、アルヴァは自分の行動がいかに愚かだったのかを反省したのだ。アルヴァの行動は子どもとはいえ、完全にビールドに喧嘩を売っていると取られてもおかしくないものだった。それを理由にビールドが報復してくることは十分に考えられた。

 ダウはアルヴァの説明で理由を察したのか、笑えばいいのか困ればいいのか微妙な表情になった。


「お前は本当に子供らしくなことを気にするな」


 本人は子どもらしく振舞っているつもりだっただけに、ダウの言葉はアルヴァにとって意外だった。まぁ、ビールドとのやり取りはやりすぎたと自覚しているが。


「まぁ、その辺はなるようになる。お前は気にしなくていい」


 気にしなくていいと言われても、気になるから謝ったのだからアルヴァとしては納得できない。


「やっぱり何かあるんだね?」


 そのアルヴァの言葉にダウは苦笑する。それでもダウは何かを言うつもりはないようで、何も言わない。


「教えてくれないの?」


「お前の力が必要になったらちゃんとお願いするよ」


 取り付く島もないとはまさにこのことか。ダウはもうそのことについて話す気がないようだった。流石のアルヴァも無理やり聞き出すわけにもいかず、それについては諦める。


「わかったよ。その時は言ってね? なんでもするから」


 この『何でもするから』には元魔王としての力を存分にふるうことが含まれていることはダウには伝わらない。それでもアルヴァは言わずにはいられなかった。


「頼りにしてるぞ?」


 ダウはどこまで本気かどうかわからないことを口にする。きっと子どもの言葉だと思って軽く流されているんだろうなと思いながら、表面上は元気に頷くアルヴァ。

 その後はダウとアルヴァは思い思いに過ごした。ダウは他にも何かこの町に用があるのか、出かけていった。アルヴァは本当にやることがなく、よくわからない町を歩き回る気にもなれず、部屋で大人しく魔力操作の練習をしていた。

 どれほど時間がたっただろうか。部屋のドアがノックされたことでアルヴァの集中が切れる。


(誰だろう? ダウならノックしないような?)


「ナンガルフです。ダウ様、いらっしゃいますか?」


 アルヴァの疑問はすぐに聞こえた声によって答えを得る。アルヴァにとっては本当に来るとは思っていなかった来訪者であるが、来た以上無視するわけにも行かず、アルヴァは扉を開けた。


「おや? アルヴァ様だけですか?」


 ナンガルフは出迎えたアルヴァを見、そして部屋の中を素早く見てそう言う。


「何か御用でしょうか?」


「はい。アルヴァ様、再戦させていただきに参りました」


 ナンガルフは(うやうや)しく頭を下げているが、アルヴァは露骨に嫌な顔をした。

 追い返すわけにもいかず、アルヴァは仕方なく部屋に招き入れ、椅子に座ることを勧める。そして向かいに備え付けてあった同じデザインの椅子に座った。


「では、改めて。再戦していただけますか?」


 ナンガルフはとても爽やかな笑みを浮かべて言う。その笑みにアルヴァはにっこりとして答える。


「あの時はそう言いましたけど、僕のような子ども、相手をしても時間の無駄ですよ」


 正直、アルヴァはこれ以上関わる気がなかった。アルヴァは平穏な日々のために力は必要でも、むやみにその力を誇示したり、広めることは不要と考えている。それ故にアルヴァは何が起ころうとナンガルフを追い返す決意をしていた。


「そんなことはありません。私の目は確かです。なにしろビールド様がわたしを重宝していたのは、この人を見る目を確かにしている【解析(アナライズ)】のスキルですから」


「!」


 アルヴァは反射的に【解析(アナライズ)】を発動させる。

 【解析(アナライズ)】のスキルは珍しいスキルだ。前世でもアルヴァは両手で数えるほどしか出会っていない。だから今世でもそう簡単には出会わないだろうと、出会ったとしても人が多い場所だろうと高をくくっていたのだ。まさかこんなに早く【解析(アナライズ)】のスキルを持っている人がいるとは思ってもみないことだった。

 とっさの【解析(アナライズ)】の結果がアルヴァの頭の中に浮かぶ。




名前     ナンガルフ

種族     人間

レベル    72

体力   12234/12234

魔力    6411/6411

筋力     423

精神力    126


スキル 物理攻撃耐性Lv4 格闘術Lv5 風魔法Lv2




「まさか【解析(アナライズ)】までお持ちとは、予想外でした」


 その一言でアルヴァは自分の失敗に気づいた。

 そもそもナンガルフのスキルに【解析(アナライズ)】は存在しなかった。先ほどの言葉はナンガルフがアルヴァを説得するための嘘だということに遅れてアルヴァは気づいたのだ。

 気づいたときには後の祭りなのだが、アルヴァは後悔せずにいられなかった。そもそも【解析(アナライズ)】のスキルは見られた場合少し違和感があるので、見られて気づけないわけではないのだ。それに気づけないほどアルヴァは自分のスキルが見られたと聞かされたことで気が焦り、確かめずにはいられなかったのだ。前世の魔王だったころならそこまで迂闊なことはしなっただろう。しかし、短くも平和な日々を送っていたアルヴァはその日常に慣れきってしまっていた。


「……騙しましたね?」


「不意打ちだったことは認めます。申し訳ありません。しかし、見る目に自信があるのは本当なのです」


「そこまでして僕と再戦に固執するのは何故ですか?」


 ここまでくるとアルヴァはただただ理解できなかった。あくまで自分は同世代に比べれば少し優秀に見える程度だとアルヴァは考えている。それなのにナンガルフの執着は正直、異常としかアルヴァには思えなかった。


「そうですね。貴方様には真摯にお答えした方が受けがよさそうです」


 そう前置きをすると、ナンガルフは佇まいを正す。


「わたしはビードル様が継ぐ前の先代様の時代からあのお家にお仕えする執事です。もともとは冒険者でありましたが、左腕の怪我が原因で引退し、途方に暮れているところを拾ってくださったのが先代様でした。わたしはその先代様のご恩を少しでも返そうと働き続けました。そして、ビールド様にも先代様からのお言葉でお仕えしていましたが、日々のビードル様の行いにもう我慢できなくなってきていたのです。何度もご忠告差し上げましたが、それも聞き入れられず、愛想が尽きたとも言えますが」


 話が少し抽象的で、ナンガルフがビールドの何に我慢できずに愛想をつかしたのかはわからなかったが、その辺りは使用人の守秘義務に抵触するのか、それとも恩ある家を中傷するのを躊躇ったのかはわからなかったが、どちらかだろうとアルヴァは追及しなかった。


「そこに貴方様が現れました。貴方様は私の目から見るとこれから大物になる予感がするのです。ですからそれを見極めたかった。それが再戦をしつこく申し込む理由です」


「見極めてどうする気なのですか?」


 そもそも何をどう見極めるつもりなのかと心の中で考えながら、アルヴァは首をかしげる。


「仕える家もなくなりましたし、貴方様のお世話になろうかと」


 さらりと続けられた言葉にアルヴァは何も言えなくなってしまった。そのアルヴァの反応に満足したように頷くと、ナンガルフが自身の現状を告げる。


「わたしは使用人を首になりました。正確には貴方様を傷つけた責任を負ってお暇をいただいた形ですが」


 アルヴァは自分が傷ついたことでここまで大事になるとは思っていなかった。せいぜいナンガルフがビールドの小言を聞く程度だろうと。しかし現実はナンガルフは職を失ってしまっていた。自分の見通しの甘さにアルヴァは自分に腹が立った。

 そんなアルヴァの心情を読んだかのように、ナンガルフは口を開く。


「もともとやめようと思ってはいたのです。あの件はきっかけにすぎません。貴方様が気に病む必要は全くございません」


 それでもアルヴァは申し訳ないと思ってしまった。ゆえにもう再戦を断る気はなくなってしまっていた。それと同時に、アルヴァはあることを考えていた。今世で自分の力がどれほど通用するのかということだ。

 アルヴァは前世では魔王であり、あくまで本陣にいる立場だった。それのせいでほとんどが後方からの魔法使用が主だった。多少はブラットなどに手伝ってもらい剣術をやってはいたが、それがどの程度のレベルなのか、アルヴァには測る相手がいなかった。ナンガルフはレベルこそ低いが、佇まいからは格闘術に精通していることは間違いないとアルヴァは推測している。スキルからもそれも伺えた。なのでこの際ナンガルフに実力を測ってもらおうと開き直ったのだ。


「わかりました。再戦しましょう。僕も自分がどの程度の実力なのかは正直知りたいです。でも、危ないと思ったら止めてくださいね?」


「えぇ、もちろん」


 ナンガルフは楽しそうに頷く。なんだかんだと言いながらも、昔の血が騒いでいるだけじゃないのかとアルヴァは今までの話を訝しみながらも、ここまで話したのだから割り切っていろいろ試そうと心に決めたのだった。


「ところでどこでやりますか?」


 アルヴァとしてはその辺りの人の目がある場所は極力避けたい。ナンガルフには少しばれているので問題ないが、その他の人となればそれは別の話だった。


「では少し歩きますが、町の外の平原はどうでしょう? 道から少し離れれば人目に付きにくいかと」


 ナンガルフはアルヴァの考えを読んだかのようにそう提案してくる。そのあまりにも的確な答えに心を読まれたような錯覚を受けながら、それは気にせずに答える。


「では、そこに向かいましょう」


 アルヴァは宿を出る時に受付の男性に、出かける旨とすぐに戻ってくるという旨をダウへの伝言として残し、ナンガルフとともに平原へと向かった。

こいつ絶対魔王じゃない(二回目)

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