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二度目の転生は上手く生きていきたい  作者: 江藤乱世
第三章 ~学園~
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アルヴァは【転生】について知るようです

 アルヴァはイーステリアとマリナに前世について告げた。その告白に二人は固まってしまう。ただ、その反応にアルヴァは首を傾げた。ひっそりと事態を予想していたラビィが溜息をついていたが、アルヴァは気づかなかった。


(マリナが驚くのは分かる。でも、イリスまで固まるのはおかしくないか?)


 イーステリアは確かに『ハイリとブラット』という言葉を知っていた。それはつまり、アルヴァの前世を知ってると考えていた。しかし、イーステリアの反応は純粋に驚いた人のそれだった。


「そ……それはありえません」


 先に口を開いたのはマリナだった。


「転生を信じられないのは分かるけどね」


 イーステリアの反応はひとまず置いておき、アルヴァはマリナの言葉に応じる。


「そうではありません」


 マリナは困惑したような表情で言う。


「転生については前例があります。大体十年に一人の割合で現れます」


(結構転生する人は多いんだなぁ。てっきり僕だけだと思ってたけど)


「なので転生についてはわかります。ただ、あり得ないのです。なぜなら、人間は人間に、エルフはエルフに、ドワーフはドワーフにしか転生は確認されていません。魔物、しかも魔王が人間に転生するなど考えられません」


 そんな法則があったのかと、アルヴァは納得した。


「だけど、現に僕は魔王だった。なんならその事のことを話そうか? 正確に伝えられているかは謎だけど」


「そこもわかりません。もし前世が魔王だったのなら、勇者アルヴァンスに討伐されたはずです」


「それが嘘だったって話だよ。僕はオルタナ・カーネルトに転生させられた。それは事実だから」


「あ……あの!」


 イーステリアは突然声をあげた。突然のことに二人は話を中断し、イーステリアに注目した。


「本当にアルヴァ様は魔王だったのですか!?」


「そうだけど?」


 アルヴァは何故また同じことを問われたのか分からず不思議に思いながら答えた。しかし、イーステリアから反応はない。ただ、独り言のように「血眼になって探していたのは知っていたから? お兄様はこのことを知っている?」と呟いて考え出してしまった。


「イリスは何を悩んでるの? 『ハイリとブラット』を知ってたんだ。僕のことは知ってたんでしょ?」


「そ……そんな事、わたくしは知りません! そもそも『ハイリとブラット』とは、王族に代々伝わっている言葉で、とある国から要請があったものです。その詳しい意味はわたくし達には伝えられていません!」


 イーステリアは慌てた様子でそう答える。その答えにアルヴァは焦りを覚えた。


(意味を知らないって…… ブラットは誰彼構わず話してたわけじゃないのか?)


 余計なことを言ってしまったのではないかと今更察し、アルヴァはラビィに視線を向けた。その視線の意味を理解したのか、ラビィは呆れたような視線をアルヴァに向けた。


「えっと…… なかったことにできない?」


「「出来るわけがありません!」」


「だよね」


 二人同時の答えにアルヴァは苦笑するしかない。


『まぁ、アルヴァの前世は気にするな。これはこいつなりの誠意だ。信じるか信じないかはお前らに任せる。真実がどちらであろうと、今というものは変わらない。結局はお前たちの気の持ちようだ』


 困った様子の三人を見かねてラビィは言う。その言葉にイーステリアとマリナは顔を見合わせて頷いた。アルヴァは声には出さず、ラビィにありがとうと伝える。


「ラビィ様の仰る通りです。どうであれ、アルヴァ様はわたくしの命の恩人であり、信頼に足る方だとわたくしは知っています」


 イーステリアは宣言するように言った。その眼差しには相変わらずアルヴァに対する信頼があった。


「正直に申し上げますと巻き込まれた感じが否めませんが、願ってもない状況でもあります。魔物と話せる魔法具を作り出せるのは事実なのです。その能力は信じたいと思います」


 マリナは指にはまった魔法具に反対の手で触れながら、アルヴァやイーステリアの告白にこたえるようにマリナは心の内を明かした。


「無理に信じる必要はないので大丈夫」


 アルヴァとしてはバレたと先走って言ってしまっただけなので、信じてもらわなくても問題なかった。むしろ本気で忘れてくれないかなとさえ思っていた。


「ただ、言いふらすのだけはやめてね?」


 アルヴァの言葉に二人は頷く。もっとも、言いふらしたところで正気を疑われるだけだが。


「それにしても、ラビィ様はそれほど明確な意思をお持ちだったのですね」


 イーステリアは前世の話は終わったとばかりに次の話題に移る。


「わたしはある程度心が見えるのでこちらの言葉を理解しているのはわかっていましたが、いざお話しすると印象は違いますね」


『可愛いとでも思ってたのか?』


 ラビィはにやりと口元を歪めて問いかける。ただ、側からみればちょっと口元が歪んだだけなのだが。


「いえ、どちらかといえばお爺さまのような方だと思いました。心の動きがわたしを心配する祖父にそっくりだったので……」


 その言葉にアルヴァは思わず吹き出した。


『……なんだ?』


「な……なんでもない」


 ラビィに睨まれ、アルヴァは視線を逸らす。しかし、アルヴァの口元は今にも笑い出しそうに歪んでいた。


「あの、ラビィ様。わたくしは今までラビィ様に失礼なことをしていませんか?」


 今までの振る舞いを思い出したのか、イーステリアは心配そうに問いかけた。


『気にするな。魔物の俺にお前はむしろ敬意を持って接してくれている。それに何か問題があればアルヴァがどうにかするだろうし、いざとなれば俺だけでもある程度対処できる』


 ラビィはイーステリアの顔を見ながら言った。ラビィの中では失礼なこととは攻撃されることなのだ。


「それならば良かったです」


 その人とは違う感性に何となく気づきながらも、イーステリアはそのことには触れなかった。


「ラビィ様はいつからアルヴァ様と一緒に過ごされているのですか?」


 マリナは純粋な好奇心からか、今なら問題ないと考え、ラビィに問いかけた。


『実はな―――』


「待って」


 ラビィが語ろうとしたその時、アルヴァがその話を遮った。そして、今まで発動していた音を遮断する魔法を解除する。別にラビィが話そうとしたことが不都合なわけではない。近づいてきている第三者にアルヴァが気づき、中断させたのだ。


「おい、なんで魔物が人間様と同じ机で食事してるんだ?」


 苛立った調子で声をかけてきた青年にアルヴァは見覚えがあった。それは試験の時に魔法をアルヴァに打ち込んだ青年だった。そのことを思い出したのか、イーステリアとマリナは警戒心をあらわにする。


(けが)れるだろうが」


 青年の両隣には一人ずつ見たことのない青年が見下したようなにやにやと笑みを浮かべていた。


「お二人の許可は取りました。あなたにとやかく言われる筋合いはありません」


「相変わらず生意気な平民だな。そもそもお前が生きてるのになんで俺だけが罰を受けなきゃいけないんだ?」


 あんな大衆の面前で魔法を放ってお(とが)めなしになるわけないだろうと内心呆れたが、相手をするのも面倒なため、適当に答える。


「僕に聞かないでください」


「平民はその程度を考える頭もないのか」


 お前もだろうと思わず口にしそうになりながら、本当に面倒になったアルヴァは先を促す。


「それで、何か用ですか?」


「その汚らしい獣が目障りだ。食事がまずくなるから出ていけ」


「お断りします」


「周りに迷惑をかけていることに気づかないのか? さすが平民、恥知らずか」


「恥知らずはあなた方です」


 我慢できなかったのか、イーステリアは立ち上がると青年の前に立った。


「この学園は身分にかかわらず学問を学べる場所です。そこで身分で差別しようするなんて恥を知ってください」


 その言葉に青年は一瞬忌々しそうに顔を歪めたが、すぐに頭を下げた。


「それは失言でした。しかし、魔物を食事中に机の上に乗せるのが不快なのは俺だけじゃありません」


「そ……それは……」


 イーステリアは言葉に困り、視線を周りに彷徨(さまよ)わせた。しかし、誰もイーステリアを味方をする人はいない。みんな少なからず不快に感じていたのだ。ただ何も言わなかったのはイーステリアが何も言わなかったからに他ならない。


「イーステリア様はお優しいお方ですので、平民や田舎貴族に同情する気持ちも理解できます。しかし、イーステリア様はこのようなところにいていいお方ではないのです」


 青年は饒舌に言葉を紡ぐ。その言葉にイーステリアは怒りを覚えたが、反論するためにはアルヴァの秘密を話さなければ説明がつかず、結局沈黙するしかなかった。

 それを見た青年は優勢を悟ったのか、無造作に机に近づく。そして、机の上のラビィを掴み上げた。


『動くな!』


 ラビィの言葉に攻撃しようとしていたアルヴァは止まり、声を上げようとしていたイーステリアとマリナは口を噤んだ。

 そのラビィの声は理解できないものにとっては「キュ!」としか聞こえず、怯えて驚いたように聞こえていた。


「魔物風情がいつまでそこに居座ってるんだ?」


 そういうと青年はラビィを投げ捨てた。ラビィは数回地面に当たり跳ねると滑っていき、そして止まった。


「ラビィ様!」


 心配でマリナが駆け寄ろうとするが、ラビィはすぐに立ち上がると、アルヴァの足元に駆け寄った。それをアルヴァは無言で抱き上げ、頭の上にのせる。


「しぶとい魔物だな。あれだけやってもぴんぴんしてるとは」


『あの程度で俺に傷が付くと思ってるとはな。さすがに見くびりすぎだな』


 ラビィは努めて明るく声を出し、肩をすくめた。そうしなければアルヴァが何をしでかすのか分からなかったからだ。


「おい、何をしている!」


 そこに騒ぎを聞きつけたのか、サムエルが慌てた様子で騒ぎの中心に向かって走り寄った。


「ちっ…… 行くぞ」


 青年はこれ以上は問題になると思ったのか、サムエルに見つからないように反対方向に歩き出し、人の中にまぎれた。


「この騒ぎは何だ?」


 サムエルはこの場を去っていく三人の青年を横目に、当事者であろうアルヴァたち三人に声をかけた。


「お騒がせして申し訳ありません」


 そう言ってイーステリアは頭を下げた。合わせるようにマリナも頭を下げたが、アルヴァはただじっと去っていく三人を見ている。


「何があった?」


 イーステリアは今回の騒動について説明した。


「そうか。この件は俺が預かる。面倒だけどな」


 日頃ならばサムエルは無視しただろう。しかし、アルヴァやイーステリアの面倒を見ると学園長に約束した手前、無碍(むげ)には出来なかった。


「よろしくお願いいたします」


 イーステリアがそういうと、サムエルは面倒くさそうに頭をかくと、何も言わずに去っていった。それと入れ違いになるように、ルナが近づいてきた。


「探した」


 ルナは声をかけられなかったことが不満だったのか、少しすねた声色(こわいろ)で言った。アルヴァはすぐには答えず、切り替えるように一つ深呼吸をした。


「ごめん。声をかければよかったね。次からそうするよ」


 その答えに満足したのか、ルナは頷いた。


「帰る?」


「そうだね。イリス、魔法具については明日でもいい?」


「はい、大丈夫です」


 いつもの様子で話すアルヴァに安堵しながら、イーステリアは答えた。


「じゃあ、二人ともまた明日」


 二人の返事を聞くと、アルヴァはルナを従えて帰っていった。

このまま平和に終わるはずもなく……

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