魔法具【杖】について話し合うようです
クラスでの自己紹介を終え、担任の教師からこれからの日程や注意事項を聞き終え、その日は解散となった。アルヴァは今日一日は拘束されると高をくくっていただけに拍子抜けだった。どうしようかとぼんやりと視線を正面にぼんやりと眺めながら、今後の予定をどうするのか考える。
「アルヴァ様、よろしいでしょうか?」
そんな風にぼうっとしていると、イーステリアがアルヴァに声をかけた。アルヴァは思考を中断し、イーステリアの方に顔を向ける。イーステリアの隣にはマリナが立っていた。
「アルヴァ様はこの後のご予定はございますか?」
「ないですけど」
「では、ご一緒に食堂でお話しませんか? マリナも一緒です」
「ご一緒させていただきます」とマリナは頭を下げる。アルヴァとしては問題なかったが、ラビィはどうするかと思い、声をかけようとする。しかしそれより先にラビィはアルヴァの頭を軽く二回叩いた。
(否定…… 気にするなってことね)
「いいよ」
「ありがとうございます。食堂までご一緒しましょう」
そう促され、アルヴァはイーステリアとマリナとともに食堂に向かう。
食堂はある程度のグループが出来ても問題ないようにしているのか、四角いテーブルには四人が、丸いテーブルには六人が、多きな長方形のテーブルには十人が座れるようになっていた。それ以外にも個人の席が用意されており、好きな席が選べるようだった。食事はカウンターですでに出来上がったものから選んでいく形のようだった。
イーステリアとマリナは軽く食べるだけなのか、野菜のスープのようなものを手にしていた。アルヴァはそんなすぐには決められず、席がある程度は埋まっていたため、二人には先に席を確保しておいてほしいと頼み、ゆっくりと選ぶことにした。
「ラビィは何を食べる?」
『俺のことは気にするな。所詮食事は俺にとっては趣向品だ。それより変なことすると目立つぞ?』
「今更じゃない?」
『まぁ、そうだけどな』
「僕はお腹空いてないんだよ。せっかくだからラビィと分けようと思って」
『そういうことならその肉にしろ』
「お腹空いてないって僕言わなかった?」
『文句があるなら聞くな』
そんなやり取りをしながら、アルヴァは結局ラビィの選んだ何かの肉のステーキを選び、イーステリアとマリナの待つ席に向かう。
「アルヴァ様、こちらです!」
見やすいようにか、イーステリアはアルヴァに手を振る。そんなイーステリアの行動にマリナは驚いたような表情で見た。
「お待たせしました」
「では、いただきましょう」
「その前に、ラビィは机の上で食べてもいいですか?」
自宅ではラビィは机の上で食べていたが、人間でいえばそれは土足で机の上に乗って食べているのと変わらないため、そこは気を使うべきと考えての提案だった。
「わたくしは大丈夫です」
「わたしも構いません」
二人の許可を受け、アルヴァはラビィを机の上におろす。
「では、改めていただきましょう」
イーステリアの言葉で三人は静かに食べ始めた。ラビィは当たり前のことのようにアルヴァのお皿に乗っている野菜のみを奪って食べ始めた。しかし、イーステリアとマリナの量は少なかったため、すぐに食べ終えた。
「アルヴァ様、よろしいでしょうか?」
少し硬めの肉にアルヴァが苦戦していると、イーステリアは真剣な表情でアルヴァに声をかけた。
「改まってどうかしましたか?」
「アルヴァ様は外に声が漏れないように出来ますか?」
「え?」
「出来ます」
そう言ってアルヴァはマリナの驚きは気にせず、周りに声が漏れないように消音の魔法で周囲を覆った。
「ここまでするってことは、内緒話ですか?」
「ま……待ってください!」
マリナは当たり前のように進もうとしている会話に耐え切れず、席から立ちあがった。
「マリナ、そんなに動いては音を消してもらった意味がなくなってしまいます。聞きたいことがあるなら座ったままお願いします」
イーステリアはそう言いながらほほ笑んだ。落ち着き払ったイーステリアの様子に恥ずかしくなったのか、マリナは静かに席に座り直した。
「落ち着きましたか?」
「はい。ですが、この魔法はどういうことですか? 声を漏れないようにする魔法は使える方が少なく、魔法具に頼ることがほとんどのはずです」
この程度の魔法で使える人が少ないのかとアルヴァは内心焦っていた。イーステリアが当たり前のように言ってきたので、一般的だと思ったのだ。
「その程度のこと、アルヴァ様にできないはずがありません」
謎の信頼感を見せてくるイーステリアにアルヴァは首を傾げる。
「マリナにはおいおい慣れてもらうとして…… アルヴァ様にお聞きしたいことがあります」
そう言ってイーステリアが取り出したのは魔法具である杖だった。
「その杖がどうかしましたか?」
アルヴァとしては自分が作ったのかどうかがイーステリアに伝わってるのかがわからず、とりあえず知らないふりをした。
「大丈夫ですよ。わたくしはアルヴァ様がこの杖を作ったことを知っていますので」
「とても嬉しかったです」とイーステリアは微笑んだ。
「作った?」
マリナは意味が分からなかったのか、首を傾げているが、イーステリアもアルヴァも説明する気はなかった。その反応でマリナは口を挟むべきではないと判断した。その後も自分が聞いてもいいのかわからなかったが、今更席を立つわけにはいかず、ただ静かに話を聞くことにした。
「杖に問題でもありましたか?」
「問題と言えば問題なのですが…… 実は、魔法が使えないのです」
「使えない?」
まさか作った魔道具に欠陥があったのかと心配になり、作った魔法具で失敗している可能性のある部分を考え始めた。
「はい。ただ、魔法具の問題ではありません。アルヴァ様から頂いた手紙に書かれていた魔法が一つも分からないのです」
「一つもですか?」
アルヴァの作った魔法具に込められた魔法は前世ではほとんどが便利でありふれていたものだ。二つほど理解できないだろうとは思っていたが、すべてはアルヴァには予想外だった。
「でも、使ってみればどういう魔法なのかわかりますよね?」
消費魔力的に使えないわけがないのはステータスを見れば一目瞭然。効果も一応書いておいたので、使えないわけがないとアルヴァは考えた。
「わたくしもそう思ったのですが、そのような危険なことを試すことはできないと言われました」
確かにそう言われればそうだとアルヴァは納得する。アルヴァとしてはそんなに威力のあるものではないと理解しているが、わからなければその心配は理解できた。
「じゃあ、僕は使い方を教えればいいのかな?」
「はい。お願いできますか? 魔法具をお願いしたてまえ心苦しいのですが」
「その程度なら構いません。説明不足で僕の方こそ申し訳ないので」
アルヴァとしては道具作りはしっかり使用できるようになるまで面倒を見ることだと思っているので、むしろアルヴァから頼みたいくらいのものだった。
「それにしてもノーレスさんもそうですけど、イリスもよく僕を信じますよね」
ノーレスがアルヴァを信じるのは『アルヴァとブラット』という言葉を知っていたからで、ある程度アルヴァの能力を知っていたからだとアルヴァは推測していた。ただ、イーステリアはそういった事情を知らないはずなのだ。
「もちろん信じています!」
イーステリアは嬉しそうに、尊敬の眼差しをアルヴァに向ける。
「ともに旅をしたときの技能は我が国の騎士団長でさえ信じられないほどのもの。それだけでも信じるに値します」
「でもそれって戦いの面ってだけで、魔法具作製とは関係ないですよね?」
「ハイリとブラット」
イーステリアが噛み締めるように口にした言葉に、アルヴァは全てを察した。
「まさかイリスの口からもその言葉を聞くとは思いませんでした」
「わたくしではなく、これはお兄様からの受け売りです。それがなくてもわたくしはアルヴァ様が出来るということは出来ると信じていますけど」
まるで話せることが嬉しいようにイースエリアは嬉々として話す。そして、旅の間いかにアルヴァが凄かったのか語り出した。
(これは隠す意味もないか)
イーステリアが語る内容を聞き流しながら、アルヴァはチラリとマリナを確認する。マリナはイーステリアの話を無表情に聞きながら時折頷いていた。
(何も知らなさそうだけど、ここまで巻き込んだのなら、今更かな)
そう決断し、アルヴァはラビィに視線を向けた。するとラビィは呆れたような表情をしながら、それでも頷いた。
「そこまで知ってるなら話は簡単ですね」
アルヴァは未だ話し続けているイーステリアの話を遮り、そう言った。そして【道具箱】から素早く二つの指輪を取り出し、それを二人の前に差し出した。
「ゆ……指輪だなんて、突然すぎます……」
イーステリアはそう言いながら恥ずかしそうに両手を頬に添える。マリナは逆に不安そうにアルヴァと指輪を交互に見ている。
「これを手にするには相当な覚悟が必要です。その覚悟がないのなら、今すぐ席を立つことをおすすめします」
恥ずかしそうにしていたイーステリアはぴたりと止まり、目の前の指輪をじっと見つめた。
「つまりこの指輪を手に取ったら、アルヴァ様の秘密を知ることができるということですか?」
イーステリアは真剣にアルヴァの目を見て問いかけた。
「もちろん」
「迷惑ではありませんか?」
「僕としては二人を鍛えていきたいと思ってます。なのでそこは気にしなくて大丈夫です」
「わ……わたしもですか?」
マリナの問いかけにアルヴァは頷く。意外過ぎる答えを聞いたようにマリナは目を見開き驚いた。
「迷惑でないのなら、わたくしに悩むことはありません」
そう言ってイーステリアはそれ以上聞くことはないとばかりにもう迷わず指輪を手に取り、少し迷ってから左手の中指にはめた。
「わ……わたしのスキルは役立たずのものばかりです。ご迷惑になると思います」
マリナは悩んだ末、そう言って席を立ちあがった。
「それは気にしなくていいです。というより、マリナさんのスキルを見たからこそ誘っています。僕ならば【回復魔法】【重力魔法】【時空魔法】を生かせる術を知っています」
アルヴァの言葉にマリナの瞳は不安と希望の間で揺れていた。
「わたしのスキルが使えるってことですか?」
「そうです」
アルヴァは断言してみせるが、それでもマリナの不安は拭えなかった。今までの人生でマリナのスキルと知り、使えないと罵った人はいても使えると励ました人は一人もいなかったのだ。その言葉を簡単に信じることができないのは仕方がなかった。
「マリナ、今は信じられないかもしれませんが、アルヴァ様を信じてみてください。アルヴァ様ならどうにかしてくれると、わたくしが保証します」
決めかねているマリナを思ってか、イーステリアはそう言った。イーステリアが請け負ってくれたことで心が決まったのか、指輪をゆっくりと手に取ると、右手の中指に指輪をはめ、席に座った。イーステリアはその様子を嬉しそうに見ていた。
「わかった。これからは僕と二人は対等だ。言葉遣いも気にしないからそのつもりで」
「もちろんです。むしろ距離を感じていたのでわたくしとしては嬉しいです! 改めてよろしくお願いします」
「わたしもよろしくお願いします」
「よろしく」
『よろしく』
「え?」
「!?」
その場にいるはずのない第三者の声に二人は辺りを見渡すが、アルヴァの魔法が発動していることを思い出し、首を傾げた。その様子がおかしくてアルヴァは笑みを浮かべる。
「少し意地悪だったかな?」
『お前はそういうところあるよな』
「ラビィだって協力してくれたでしょ? お互い様だよ」
『俺は仲間として参加しただけだ』
そう言ってラビィはイーステリアとマリナに体ごと向くと、軽く頭を下げた。
「まさか今のお声はラビィ様なのですか?」
イーステリアは驚きの表情のまま、そう問いかけた。
『あぁ、間違いなく俺だ。さっきの指輪は魔物の声を聞くための魔法具ってことだ』
「そ……そんなものが存在するなんて……」
マリナは自分が今指につけた指輪をあり得ないもののようにじっと見た。
『こいつはそういうやつだ。かかわるならこの程度で驚いてたら大変だぞ?』
「確かにアルヴァ様なら可能かもしれませんね」
イーステリアはそれほどの驚きではなかったのか、しきりに納得したように頷いていた。
「アルヴァ様、あなたは一体……」
マリナは困惑したような、しかしどこか恐怖したような表情で問いかける。
「僕は前世の記憶を持つ転生者―――」
『おい、待て!』とラビィが制止するが、アルヴァは止まらない。
「前世は魔王だ」
その時、確かに二人は数秒間固まったまま動けなかった。
「ハイリとブラット」はハイリはアルヴァの前世の名前になります。ブラットは健在です




