ギルドでお願い(依頼)されるようです
試験を終え、アルヴァはギルドに向かっていた。ルナは奴隷商のヨハンの手伝いをするために既に分かれており、この場にはいない。頭の上にラビィを乗せたまま、アルヴァはギルドに向かって歩く。
『今日も薬草採取か?』
「そのつもりだけど、どうかした?」
『そろそろランクを上げる気はないのか?』
「別に興味ないからなぁ。上げたところで大変そうだし、今のところ予定はないかな」
アルヴァはただ隣国に行くためには冒険者になる必要があるとナンガルフに聞いていたためになったにすぎない。もっとも、自分の能力を生かし、お金を稼ぎ、村のために貢献したいというのもあるのだが。
『隣国にブラットのやつがいるんだったか?』
「そうみたい。それで、隣国に行くには冒険者になる必要があるらしいから、一応なった感じだよ。まぁ、クランに入って助けに来てくれたお礼をするっていうのもあるんだけどね」
『そのまま行けばいいんじゃないか? お前の時空魔法なら跳べるだろ?』
「できるけど、やっぱりこの時代のルールは守らないとね」
『まぁ、お前がそれでいいならいいが』
「慌てることでもないからね」
「ブラットには申し訳ないけど」とアルヴァは付け足すように小さく呟くが、その声はラビィには聞こえなかった。そんないつもの会話をしているうちにアルヴァはギルドに到着した。そしてもう通い慣れたカウンターに足を向けた。アルヴァが近づいていくと、受付の女性が誰かを呼び出していた。呼び出されるのはアルヴァ担当メイプルだ。
「お待ちしていました。こちらへどうぞ」
「待ってた?」
意味がわからず、アルヴァは首をかしげる。それと同時にラビィも傾くが、不思議と落ちることはなかった。
「あれ? クランで話を聞いてきたんじゃないんですか?」
メイプルもアルヴァと同じように首をかしげる。
「学園の試験が終わってそのまま何か依頼はないかと見に来ただけです」
「そうだったんですね。クランに伝言を頼んでいたのでてっきり聞いてきたのかと思いました」
メイプルはそう言ってほほ笑む。
「ただ、ちょうどよかったのは確かです。ギルド長がお待ちです。こちらへどうぞ」
(魔石は定期的に必要な数は渡しているし、何かあったのかな?)
アルヴァはそんなことを考えながらメイプルの後に続く。そしてメイプルはギルド長の部屋の前につくとノックをした。
「ギルド長、アルヴァ君をお連れしました」
「あぁ、入ってくれ」
メイプルは声を確認すると、扉を開けた。すると、目の前にギルド長が待っていた。
「……何してるんですか?」
訂正。ギルド長は少し目線から低い場所で待っていた。
「申し訳ない!」
補足。ギルド長は正座をしており、両手は膝より前につき、頭を床につけんばかりに下げていた。
「土下座?」
そんな文化あっただろうかとアルヴァは現実逃避をして関係ないことを考える。
「こちらの落ち度であることは重々承知です! ただ、話を聞いていただきたい!」
「ギルド長、説明してくれないと私もアルヴァ君も訳が分かりません」
「そうです。とりあえず頭を上げてどういうことなのか説明してください」
「わ……わかった」
ギルド長はゆっくりと立ち上がると、近くのいつもの椅子に座った。アルヴァもメイプルも意味が解らなかったが、とりあえず話を聞くために椅子に座る。
「それで、どうかしたんですか?」
「じ……実はな……」
ギルド長は一瞬躊躇いを見せるが、すぐに覚悟を決めたのか、続きを話し始めた。
「魔石の件がばれた」
「ほんとですか!?」
その言葉に驚いたのはメイプルだった。アルヴァは納品している魔石は値崩れしない程度に個数を制限しながら販売されている。もちろん採ってきているのがアルヴァであることを内密にしたままだ。
「あぁ、誰が採ってきているのかまではまだだろうが、ギルドに魔石を安定して採ってくることができる人材がいることは確実にばれてるな」
「それが僕に謝罪したことと何の関係が?」
アルヴァからしてみれば隠してくれたのはありがたいが、そう頼み込んだことはないし、お願いしたこともない。すべてはギルド長からの提案だったとアルヴァは記憶していた。
「え?」
ギルド長はアルヴァを見たまま固まった。そして思い出そうとしているのか、懸命に頭から記憶をひねり出そうとしていた。
「そういえば……ないな。秘密にしてくれと頼んだのもこっちだったな」
「ですよね」
「ギルド長……」
メイプルは呆れたようにギルド長を見た。ギルド長は気恥ずかしかったのか、一つ咳払いする。
「だが、お前も面倒ごとは嫌いだろ?」
「そうですね。まさか面倒ごとですか?」
「あぁ。かなりな」
そう言ってギルド長は一枚の紙を取り出した。読めということだろうと察したアルヴァはざっと内容を把握する。
「五十層の魔石ですか」
「そうだ。それを依頼された」
ギルド長は沈痛な面持ちで肯定する。その言葉にメイプルは驚いたように目を見開いた。ダンジョンの五十層は前人未到の地とされているのでメイプルの反応は当然だった。さすがのアルヴァにとっても面倒な階層だった。主に時間がかかるという意味で。
「確かに面倒ごとですね。なんでこんな依頼が?」
「俺にも詳しくは分からん。ただ、依頼を出されるときに『きっとやり遂げられると信じています』と言われてな。相手が相手なだけに断り切れなかった。今のところ期限がないのが幸いだけどな」
「こんな依頼を出してくるってことは、ギルドでどうにかできるって思われてるってことですね。依頼の出された方に魔石の件がばれているのは確実ですね」
メイプルは考え込むように誰にも言うでもなく言う。
「誰に依頼されたんですか?」
「詳しくは言えないが、依頼者はノーレスという方だ」
その名前にアルヴァは笑みを浮かべる。
(なるほど。僕に直接依頼が出せないからこんな形にしたわけか)
ノーレスの回りくどい行動に苦笑する。直接頼むのは前の件があるので遠慮したのかもしれないと、アルヴァはノーレスの心中を推測する。
「どうかしましたか?」
アルヴァの様子が気になったのか、メイプルが不思議そうにアルヴァに問いかけた。
「ノーレスさんは知り合いです。その依頼、直接本人と話してもいいですか?」
「知り合い!? いや、それより受けるのか!? 確かにランク分けはしてないが……」
「それも含めて本人と話そうかと」
そう言ってアルヴァは無造作に右手を横に突き出した。メイプルやギルド長から見ればアルヴァの上腕より先が消失したように見えただろう。しかしそれを問いかけるよりも先にアルヴァは腕を引いて、誰かを引き寄せていた。
引き寄せられた男性はいきなりのことで対処できなかったのか、しりもちをつき、呆然と周りを観察していた。しかしアルヴァと目が合った瞬間立ち上がり、睨みつけた。ギルド長とメイプルは突然のことに言葉もです、現実のことではないかのように言葉を失っていた。
「な……何しやがる!」
「手荒な真似をしてごめんなさい。でも、こうでもしないと逃げますよね?」
「何の話だ! いきなり拉致りやがって! 何しやがった!」
「単刀直入に言います。ノーレスさんに連絡してください」
その名前を聞いた瞬間、男は一瞬反応を示したが、それを隠すように話を続ける。
「誰だそれは! ふざけるな!」
「誤魔化さなくて結構です。あなたやあなたのお仲間が僕を監視していたのは知っています。それに、ノーレスさんのことですから、ばれたらすぐに事情を話していいと言っていませんでしたか?」
「だから何の話だ!」
「まだとぼけますか? だったら今すぐノーレスさんをあなたと同じようにこの場に引きずり出してもいいんですよ? そうなって困るのはあなたじゃないんですか?」
その言葉に男は何も言わなくなった。先ほどまで喚き散らしていたのが噓のように、静かにアルヴァを見ている。そして数秒後、
「わかった。やめてくれ」
男は降参したのか両手を上げ、ひらひらと振った。
「一つだけ聞かせてくれ。なぜわかったんだ?」
「あんなに気配がするのにばれないと思ったんですか?」
アルヴァは常に魔力感知を展開している。その中に同じ魔力が常にあれば、不審に思わないほうがどうかしているだろう。
「……ノーレス様がなんでお前に監視を付けたのか分かった。伝言はする。内容は?」
「『明日の朝にクランを尋ねてきてください』と伝えて下さい。それだけでノーレスさんには伝わるはずです」
「わかった。じゃあ、失礼する」
「あ、ここを通ってお帰り下さい。元の場所に戻れます」
そう言ってアルヴァは【隧道】を発動させる。
「…………」
男は何か言いたげにしていたが、何も言わずに空間に空いた穴をくぐった。
「今のは何ですか!?」
一連の出来事を見守っていたメイプルは我に返ったかのように言う。
「どれのことですか?」
アルヴァにしてみればどれが謎なのかがわからず、首を傾げた。
「メイプル、余計な詮索はするな」
しかし、メイプルが答える前にギルド長が遮った。
「で……でも今のは!」
「理解出来んのは俺も一緒だ。だが、ステータスや能力の秘密を暴くのは冒険者の間ではご法度だ」
「……そうですね。わかりました」
あまり納得していないようだったが、メイプルはしぶしぶ引き下がった。
(別に教えてもいいものしか使ってないから、聞かれても問題ないんだけどね)
「とりあえず依頼については明日返事をしますので、今日は帰りますね」
「とりあえず任せて問題ないんだな?」
「はい。明日、ノーレスさんと一緒にここに来るという感じでいいですか?」
「あぁ、問題ない」
アルヴァは「わかりました。失礼します」と言ってギルド長の部屋を後にした。
『お前、実力を隠したいんじゃなかったのか?』
部屋を出て早々にラビィは問いかけた。
「隠したいというよりはむやみに広めたくないって感じかな。前世と似たことにはならないようにしているから安心して」
その問いかけにアルヴァは歩きながら答える。
『そうか。お前がいいならそれでいい』
「心配してくれたの?」
『そうだな。お前が無茶苦茶をして周りに迷惑をかけていないのかが心配だ』
「そんなことしないよ」
その答えにラビィは露骨にため息をついた。
『さっきのが迷惑じゃなければなんなんだ? いきなり人を拉致したように見えたが?』
「あれは仕方ないんだよ。そうでもしないとなかなか話を聞いてくれないだろうし」
『だが、不可能じゃないはずだ。それに、後から人目のないところでやっても良かったはずだが、違うか?』
「……違いません」
『魔王じゃないんだ。もう少し振る舞いに気をつけろ』
「おっしゃる通りです……」
アルヴァは前世と合わせれば人間としての生活の方が長い。しかし、魔王時代の印象が色濃く残っているため、振る舞いがそっちに寄ってしまうのだ。村で自重していなかったのも一因だろうが。
『戦時中じゃないんだ。すぐに解決する必要はない。もう少しゆっくり生きろ』
「わかったよ、気を付ける」
本当にわかったのかとラビィは心の中で思ったが、それは口に出さなかった。
(まぁ、俺がいるんだ。ゆっくり見守ればいい)
ラビィはそう考えながら、世話のかかる親友の頭を軽く前足で数回叩いた。
「どうかした?」
『なんでもない』
誰も依頼を受けるとは言ってない




