ノーレスは報告するようです
これからの伏線
エヴェレットを拘束したノーレスはエヴェレットの犯罪の証拠を誰からかわからないように憲兵の手に渡るように手配すると、報告のためにラディリアスの下を訪れていた。
「ノーレス、その格好でここに来るとは異常事態でも発生したのか?」
ノーレスはラディリアスに会うときは必ず正装に着替えていた。しかし、今回のことは一刻も早く伝えるべきだと思い、その着替える時間を惜しんでラディリアスのところに来たのだ。
「それで、アルヴァとやらの魔法具は手に入ったのか?」
ラディリアスはノーレスの答えを待つことなくそう問いかけた。
「お答えできません」
しかし、その答えに、ラディリアスは眉をひそめる。
(答えられない? 手に入ったでもなく、手に入らないでもなく? なるほど、これは異常事態だ)
そもそもノーレスはラディリアスに絶対服従であり、裏切ることなど考えてはいない。そうでなければ今回のことを任せるようなことはしなかっただろう。そんなノーレスが答えないと言ったことにラディリアスは違和感を感じたのだ。
「なぜ答えられない?」
「お答えできません」
(何かしらで脅されている。もしくは魔法具によって行動を制限されているかの二択か?)
「では質問を変えよう。誘拐は成功したのか?」
「はい。しかし、誘拐することに成功しましたが、結果失敗に終わりました」
(この内容は答えるのか。では、答えられないのは限定的なものか)
「例のクランマスターはどうした?」
「今回の件の責任を取らせるため、憲兵に拘束される手はずになっています」
(この件も問題ない。つまり、答えられないのはあと一つか)
「誘拐を阻止したのはアルヴァという人物か?」
「お答えできません」
(やはりそうか)
ただ、それを特定したところで何故ノーレスが答えないのかの疑問は消えない。故にラディリアスは更に質問を続ける。
「誘拐を阻止するとはアルヴァは余程良い魔法具を持っているようだな」
「お答えできません」
(なんだと?)
その答えを予想していなかったラディリアスは内心で驚く。そもそもアルヴァの強さは魔法具のおかげというのが二人の共通認識だったのだ。それを今更答えられないという意味はないはずだった。嫌な予感を感じたラディリアスは更に問いかける。
「アルヴァのレベルは5だったはずだな?」
「お答えできません」
その答えは決定的なものだった。そもそもアルヴァのレベルは5。それは調べればすぐに判明する公然の秘密だ。それを答えられないことなど理由は一つしかない。
(アルヴァというものはレベルは5ではないのか!?)
ラディリアスとしてはあり得ないと断じてしまいたかったが、それはできなかった。何しろ自分が最も信頼しているノーレスが緊急の要件としてわざわざ訪れているのだ。それを冗談と判断することなど出来るわけがなかった。
「それと、もう一つ報告があります」
「なんだ?」
この場面で口を開いたノーレスにラディリアスは意図を感じ、先を促した。
「隣国が探していた『ハイリとブラット』に該当する方を見つけました」
「本当か!?」
『ハイリとブラット』に関係のあるものを見つけ出す。それは何年も前からある隣国からの要望だった。それが手元にあることは外交でこの上なく役に立つカードになるのだ。
「まさかそれがアルヴァか?」
「はい」
その答えにラディリアスは頭を抱えた。なぜなら、
「アルヴァを味方にすることは可能か?」
「許されましたが心証はかなり悪いと思われるので、不可能だと思います」
「そうか」
そう、今回のことで完全にアルヴァとは距離が開いてしまったのだ。いくらこちらから手を差し伸べようと、その手が振り払われる様がラディリアスには容易に想像できた。しかし、ラディリアスは諦めきれなかった。なにしろノーレスが恐れるような実力者の上、探し人なのだ。今のうちにこの国に縛り付けておきたい人材だった。
(しかし、金品など渡しても逆効果だろう。今回の行動から身内には甘いが、金に執着するような者とは思えない)
そこまで考え、ふとラディリアスはあることを思い出した。
「そういえば、イーステリアが学園に入りたがっていたな」
「はい。しかし、それがどうかしましたか?」
(王に許可をもらおうとしているようだが、今のところあしらわれている。どうせ助けられた恩人であるアルヴァが目当てだろう。ならば、使わない手はないな)
「イーステリアが学園に入れるよう俺も口添えをする」
「何故でございますか?」
「イーステリアは純粋だ。あいつに下心なんてものはない。学園に入るのも恩人に会いたいが故だろう。そこで繋がりを作れれば、少なくともイーステリアの話くらいは聞くはずだ。そこを足掛かりにこちらとのつながりを作る」
「良いのですか?」
それはイーステリアにアルヴァのような強者を譲っていいのかという問いかけだった。
「問題ない。国のためになるなら俺じゃなくても問題ない」
ラディリアスは国を守るためには手段を選ばない。国のためにならないと思えば肉親の命を狙うし、国のためになると思うならばどんなものでも手に入れる。それがラディリアスの在り方だった。
「そういえば、その眼鏡はどうしたのだ?」
ラディリアスは不思議そうにノーレスに問いかける。
「眼鏡ですか?」
そう言われてノーレスは自分が未だアルヴァから受け取った魔法具を付けていることに気づいた。
(回収し忘れた……などということはあり得ませんね)
その時、まるで眼鏡に気づくことを待っていたかのように、天井から一枚の紙が降ってきた。ノーレスはそれを無造作につかみ取り、そこに書かれていた文字に目を通す。そして、その想像できなかった内容に目を見開いて驚いた。
「それは何だ?」
「アルヴァ様からの手紙でございます」
それはあり得ないことだったが、同時にラディリアスは納得していた。
(なるほど。ノーレスが脅されているのは俺の命もかかっているからか)
ラディリアスにはどうやってアルヴァがここに手紙を届けたのかは理解できない。しかし、その技術を使えば自分を暗殺することは容易いと考えていた。
「内容は?」
「この眼鏡についてでございます」
「その眼鏡がどうかしたのか?」
ラディリアスは意味が分からず、続きを促す。
「この眼鏡は【解析】が使える魔法具なのです。それを土産としてこちらの好きなようにしてよいとの手紙でした」
「……ははははははっ!」
その答えを聞き、ラディリアスは声を出して笑い出した。
(【解析】が使える魔法具だと? そんな古代技術でも聞いたことのないようなものを簡単にこちらに渡してくるとは。この程度のものは大したことがないということか)
「一応解析できるのか試してみろ」
「わかりました」
(まぁ、無理だろうな)
古代の魔法具の解析も満足にできていないのが現状なのだ。そんな聞いたこともないようなものをどうにかできるとはラディリアスには思えなかった。
(まさか俺がイーステリアを当てにする日が来るとはな)
ラディリアスは王族らしくないイーステリアをあまり好きではなかった。むしろイーステリアの存在は国のためにならないと思っているほどだ。だからこそ命を狙ったのだが、結果として失敗した。しかし、それが今から役に立とうとしている。
(皮肉なものだ)
ラディリアスはそう思い、これからどう王を説得しようか頭を巡らせるのだった。
ΦΦΦΦΦΦΦΦΦΦΦΦΦΦΦΦ
数時間前。ここは学園内にある研究室。そこである男は悩んでいた。
(俺が学園の教師だと? そんなことをして何になる? そんなことをしている暇があったら魔法具を開発したり、新たな魔法を考えた方がマシだ)
男は手元で魔法具を制作しながらも、頭の中で思考をめぐらせる。
(この魔法具作成だって俺じゃなくてもいいだろ。まぁ、確かに学園にいるおかげで俺は自由に研究できるんだが)
魔法具はもうすぐある入学試験のために使うもので、そう簡単に作れるものではない。しかし男は片手間の作業としてそれをこなす。
(しかし、今まで研究だけしてても文句を言わなかった学園が何で今更? まぁ、もう断ったんだから気にすることじゃないが)
そこで魔法具を一つ完成させ、次の魔法具作成に取り掛かる。変化が起きたのはまさにその瞬間だった。
ピーーーーー―――
(これは何の音だ? そもそも俺は音の鳴る魔法具なんて―――)
そこまで考え、男は突然席から立ちあがり、音のする方に慌てて向かう。それは部屋の隅に置かれたある測定器の音だった。音は既に消えてしまったが、男はその測定器を壊さないようにそっと持ち上げる。
(反応は…………間違いない。これで三回目だ。そして今回は近いぞ!)
事の始まりは数年前にさかのぼる。男がそれに気づいたのは全くの偶然だった。その日、男は魔法による距離と魔力の関係を証明するために自身で作り出した魔力を感知する測定器を片付けていた。すると、突然その測定器が魔力を感知したのだ。その測定器に表示された魔力と距離に男は驚愕した。なぜなら測定器の数値が事実ならば、王都中の魔力を集めても足らない魔力量だったからだ。
故障を疑ったが、その後の実験では問題なく稼働し、男は頭を抱えた。魔力の質から一人の魔力であることは疑いようがなかったのだ。しかし、それからその魔力を観測することはなかったのだが、それが数日前、突然測定器が反応を示したのだ。そして測定器が距離は王都の中、男の興味はその魔力の持ち主に移っていた。そして今、また同じ魔力反応を測定器が示したのだ。
(間違いない。こいつは王都にいる。この魔力量は人じゃないな。なんだ? 魔物? 精霊? それとも俺が知らない何かか? まぁなんでもいい。あんな遠くから王都に来たんだ。時期的に学園絡みだろう。これは教師の件は考え直す必要があるな)
男はそう考え、教師として働くために早速学園長室に向かったのだった―――
次回から学園が始まります




