エリーゼが誘拐されたようです その3
アルヴァのステータスが判明します
アルヴァがその事実に気づいたのは前世でのことだった。レベルの限界は999。そしてステータスは体力と魔力が99999、筋力と精神力が9999となっている。しかし、アルヴァは【限界突破】のスキルにより、文字通り限界を突破した。すると、もともと想定していなかったことなのか、桁が省略して表示されるようになったのだ。つまり、アルヴァの本当のステータスは以下のようになる。
名前 アルヴァ
種族 人間
レベル 1005
体力 203/203
魔力 210000/210000
筋力 65
精神力 44000
ただ、省略されている部分の数値だけはアルヴァにも分からない。ここまでくると下の桁などどうでもいいだろうとアルヴァは考えていた。
「それで、まだやりますか?」
「それが事実なのだとしたら、驚異的ですね」
その言葉にアルヴァは肩をすくめる。その反応から信じていないのは明白だったが、これ以上納得させる手立てがないのだ。
「信じてませんね?」
アルヴァがそう問いかけるとノーレスは少し考えこむような仕草をした。そして、
「ハイリとブラット」
突然ノーレスから放たれた、久しぶりに聞いた言葉にアルヴァは驚いた。
「あなたもブラットに頼まれたんですか?」
「あなたも…… そうですか。既に確認されていましたか」
ノーレスはアルヴァの言葉に苦笑いを浮かべた。
「はい、ナンガルフさんに。そしてそれは僕のことで間違いないです」
「えぇ、今の反応で理解しました。あぁ、とんでもない方に喧嘩を売ってしまったようですね」
そういうと、ノーレスはアルヴァに跪いた。
「私はいかようにしていただいてもかまいません。しかし、ほかの方には関係ないことです。手出し無用にお願い致します」
そういってノーレスは首を垂れる。ブラットにどんな話を聞いているのかが気になったが、最初からそのつもりのないアルヴァは苦笑した。
「今回は誰も傷ついていません。なので、罪は問いません」
「しかし、マーカス様は腕を負傷されているはずです」
律儀にノーレスはそう告げる。
「あれは…… その……」
アルヴァとしてはその件に関しては触れられたくないものであるうえに、ここでノーレスに死なれるわけにもいかず、言葉に迷ってしまう。
「とりあえずマーカスさんの腕については気にしなくていいです。確かに個人的には腹も立ちますし、許せない気持ちもありますけど、誰も死んでいないし、エリーゼも傷一つありませんでした。だから、僕個人としてはこれ以上なにかするつもりはありません」
それはアルヴァの偽らざる本心だった。アルヴァにとって治せるものは問題ないのだ。いかにアルヴァとはいえ失われたものを取り戻す術はないのだから。
「ただし金輪際、僕やギルドに手出しをしないと約束してください。そして僕のステータスのことは秘密としてください」
マーカスやエリーゼには悪いと思いながらも、アルヴァは勝手に約束を取り付ける。あとでマーカスやエリーゼに言い分があればその時考えようと、その場の事態収拾をアルヴァは優先した。
「それだけですか?」
「えぇ、今回は」
アルヴァは言外に「次何かあれば容赦はしない」という意味を込めて言った。
「ありがとうございます」
それをノーレスはその意味をしっかりと理解し、決して逆らってはいけないと心に刻んで頷いた。アルヴァはその頷きを確認し、問題ないと判断すると、来た時と同じように【隧道】の魔法を発動し、先ほどまでいた場所に戻った。
「貴様ら! 一体何なんだ!」
相当いらだっていたのか、戻ってきた二人を確認し、顔をさらし、既に姿を隠す気もなくなったエヴェレットが叫んだ。
「エヴェレットさん、とりあえず落ち着いてください」
「落ち着け? ふざけるな! お前もお前だ! なんでそいつと和気藹々としてるんだ! まさかお前ら、俺をはめたのか!?」
イライラしすぎて冷静な判断力を失ってしまっているようで、エヴェレットは思いついたことをすべてまくしたてる。しかし、その妄言に全く相手をする気のないアルヴァは早速用件を切り出す。
「エヴェレットさん、僕は今回の件をどうこう言う気はありません。訴えるつもりもありませんので安心してください。ただ、次は容赦しません」
そして、ノーレスに伝えたことと同じことを伝えた。
「お前がどう思うかなんて関係ない! 俺には後がないんだ!」
そう言ってエヴェレットは一瞬にしてアルヴァに近づくと、右のこぶしを突き出した。しかし、アルヴァはその攻撃に全く脅威を感じず、そのまま受ける。
「ああぁぁぁぁっ!」
その結果、エヴェレットは右のこぶしに感じた痛みで叫び声をあげながら蹲った。アルヴァのあまりの強度にエヴェレットのこぶしが負け、骨が砕けたのだ。
「後がないとはどういうことですか?」
蹲るエヴェレットに不思議そうにアルヴァは問いかけた。しかし、予想外の痛みでエヴェレットに答える余裕はない。代わりにノーレスが口を開く
「この件に失敗すれば、エヴェレット様の今までの悪事を公開する契約になっているのです」
「そうなんですか? でもそれって自業自得ですよね?」
アルヴァの答えにノーレスは苦笑した。脅してそう動くように仕向けた側としてなんと言えばいいのかわからなかったのだ。
「過去の罪は自分で清算してください。そこまで僕は面倒見きれません」
「お……お前さえいなきゃうまくいってたんだ!」
痛みをこらえ、エヴェレットは精一杯言葉だけを返す。
「だから何ですか?」
しかし、アルヴァは不思議そうに首を傾げるだけだった。
「そんな仮定に意味がないことくらいわかってますよね?」
「くそ……くそくそくそっ!」
エヴェレットは暴力に訴えることも出来ず、ただ悔しさを言葉にすることしかできない。しかしそれを見てもアルヴァは何も思わなかった。
「あの、あとはお任せしても?」
「はい。アルヴァ様のお手を煩わせるまでもありません」
アルヴァはその言葉に頷くと、再び【隧道】を発動し、クランの建物内に戻った。そこには不安そうに話し合う三人がいた。
「アルヴァ!」
アルヴァに気づいたエリーゼは勢いよくアルヴァに抱き着いてきた。アルヴァだからそのまま受け止められたが、普通ならば倒れていてもおかしくない速さだ。
「良かった…… ほんとに良かった……」
そのままエリーゼは抱き着く力を強めた。アルヴァはどう反応していいのかわからずマーカスとワンダに視線を向けるが、二人は諦めろと言わんばかりに首を振った。それからエリーゼが落ち着くまで、アルヴァはされるがままだった。
「エリーゼ」
落ち着いたと見たのか、ワンダがそっとエリーゼをアルヴァから引き離した。そしてそのまま建物の奥へ連れていく。
「無事でよかった。そして、ありがとう」
そう言ってマーカスは頭を下げた。ただ、いまだに腕を失い重症であることに変わりないため、首を最低限曲げた程度だったが。
「出来ることをしただけです」
アルヴァは謙遜でも何でもなくそう答える。
「君の出来ることは多すぎる気がするけどね」
そう言いながらマーカスは苦笑した。
「それで、どういうことだったのか聞いていいか?」
「腕を治しながらでいいですか?」
アルヴァとしては治した腕が壊れたままというのが気になっていたのでそう提案する。
「……わかった」
マーカスは一瞬考えた様子だったが、諦めたように頷いた。アルヴァとしては治すことを了承するまで諦めるつもりはなかったので、すぐ頷いてくれてよかったと内心喜んでいた。
「それじゃあ、横になってください」
アルヴァに促され、マーカスは床に横たわる。そしてアルヴァは前回のように魔法を発動し、魔石を取り出して砕き始めた。それからアルヴァは今までにあったことを簡潔に、しかし隠すことなくすべてマーカスに伝えていく。流石に相手の名前と魔法具を使って説得したことは隠したが、それ以外はかかわっていた人物はすべてそのまま伝えていた。話している間、マーカスはただ静かに聞いていた。
「―――なので僕はその者を見逃しました。あ、嫌ならすぐにでも捕まえに行けるので大丈夫です」
アルヴァは一度会った人物ならば魔力感知で見つけ出すことができる。相当遠くまで行っていなければ見つけることは容易だった。
「いや、それで問題ない。そいつを捕まえたとしても意味はないだろうし、エリーゼも無事だった。今の話からすると、エヴェレットもただでは済まないだろう」
「その点については大丈夫だと思います」
別れ際にノーレスが請け負ったので、アルヴァとしては心配していなかった。
「じゃあ、俺に言えることはもうない。エリーゼやワンダには俺から話しておく」
「お願いします」
そうこうしているうちにアルヴァはマーカスの腕を治し終えた。
「違和感はありませんか?」
「問題ない。それより今回もお金は受け取らない気か?」
「はい。あ、でも代わりに紙と書くものを貸してもらってもいいですか?」
「あぁ、その程度ならお安い御用だよ」
アルヴァの答えにマーカスは苦笑しながら答えた。その後、奥から完全に落ち着いたエリーゼが戻ってくると、アルヴァは今度は無茶をするなと説教を受けるだった。
エリーゼ誘拐事件はこうして幕を閉じた。
え? アルヴァのステータスが予想通りだった? そうですよね。わかります




