エリーゼが誘拐されたようです その2
遅くなり申し訳ございません。忙しかったんです
エリーゼは自分の状態を顧みていた。白昼堂々と襲われ、マーカスの腕が壊れるところまでは覚えている。しかし、その後は気が付くと今の場所に座っていた。ただ、拘束されているわけではない。見張りは二人おり、二人とも黒の装束を身にまとい、その姿からは性別すら判然としない。自分を誘拐した犯人なのだが、ここに連れてこられた以外に危害を加えられる様子はなかった。
(ここ、どこ?)
エリーゼは自分が座っている床をなでながら、周りを観察する。そこは何もなく、ただただ広い空間だった。建物の中であることは間違いないのだが、どこなのかはエリーゼには見当もつかなった。ただ、犯人の目星だけはついていた。それは、目の前の二人の黒の装束をまとった者の会話を聞けば瞭然だった。
「攫って来いとは言ったが、白昼堂々とやるってどういうことだ!」
先ほどから黒の装束をまとった一人がもう一人が怒鳴り散らしていた。その声にエリーゼは聞き覚えがあったのだ。
(あの声はエヴェレットさん?)
聞き覚えのある声にエリーゼは内心ここまでやるのかと呆れたが、それと同時に逃げ出すことも出来るのではないかと二人の会話に聞き耳を立てた。
「方法はこちらに一任したはずです。それに問題はいないでしょう?」
「大ありだ! 騒ぎになったらどうするんだ!」
「いつ行っても騒ぎになるのは変わりませんよ。ようは足がつかなければ問題ないでしょう?」
「……もういい」
そういってエヴェレットと思われる黒の装束をまとった男は会話を切り上げた。もう一人の黒の装束の男は会話が終わると同時にエリーゼに近づいてきた。
「大人しくしていれば危害は加えません。あなたは大事な人質です。努々逃げようなどとは思いませんよう、お願いいたします」
その言葉に有無を言わさない圧力を感じ、表情を硬くしたエリーゼは頷く。
(逃げようと思ってはダメね。この人には確実に捕まるわ)
エリーゼの反応に満足したのか、黒装束の男はエリーゼから離れていった。
(お父さん、大丈夫だったかな?)
エリーゼは最後に見た光景を思い出す。
(せっかくアルヴァが治してくれたのに…… でも、アルヴァならまた何でもないように治しそう)
エリーゼはその光景を想像し、容易にその光景が想像できたことに苦笑した。
(こんな状況なのに私が冷静でいられるのはアルヴァのおかげかな。なんか無事でいられる気がするし)
「お前、怖くないのか?」
そんな余裕そうなエリーゼの様子が気になったのか、エヴェレットと思われる黒の装束をまとった男が話しかけてきた。さすがに気を抜きすぎたと思ったのか、エリーゼは表情を引き締め、エヴェレットと思われる黒の装束をまとった男を睨みつける。
「アルヴァがきっと助けに来てくれるわ」
その名前を聞き、エヴェレットと思われる黒の装束をまとった男は露骨に舌打ちをした。
「さすがに無理だろ。いくら強くてもここの場所が分かるわけがない」
「普通ならそうだろうね」
答えたのはエリーゼではない。突然エリーゼの隣に現れた人物が発した言葉だった。あまりにも唐突に現れたため、エヴェレットと思われる黒の装束をまとった男だけでなく、もう一人の黒装束の男もエリーゼも反応できなかった。
「エリーゼ、迎えに来たよ」
アルヴァはそんな反応など全く気にすることなく、笑顔でエリーゼに手を差し出した。
「あ……ありがとう」
状況としておかしいと感じながらも、もう自分は助かるのだと思い、エリーゼは安堵した。一応緊張していた自分に気づきながら、アルヴァの手を取り、立ち上がる。
「ど……どこから来やがった!?」
「黙ってください」
アルヴァに睨まれ、エヴェレットと思われる黒の装束の男はひるんだ。しかし、もう一人の黒装束の男は違った。突然走り出し、気づけばアルヴァを蹴り飛ばしていた。不意を突かれたのか、アルヴァは吹き飛び、壁に激突する。
「お待ちしていましたよ。これで終わりですか?」
黒装束の男は近くのエリーゼなど一切気にせず、激突したまま動かないアルヴァに向かって声をかける。すると、アルヴァは何事もなかったように立ち上がり、体についた埃を払った。エリーゼもエヴェレットと思われる黒の装束の男も突然のことに呆然としていた。
「突然何をするんですか?」
「やはり無事でしたか。その強さの秘密をお教え願いませんか?」
悪びれた様子もなく、黒装束の男はさらにアルヴァに問いかける。
「秘密? あぁ、魔法具が僕の力の秘密だと?」
そもそも本来なら強さに秘密などない。一対一ならばステータスが高いものが基本的には強者だ。多少の違いは技術で補うことも出来るが、圧倒的なステータスの差はどうにもできない。にもかかわらず秘密を教えろということは、アルヴァが魔法具で低いステータスを補っているはずだと考えている証左だった。
「それ以外にあなたのような少年が強い道理がありませんから。レベル5のアルヴァ」
黒装束の男がそう答えた瞬間、アルヴァはお腹を抱えて笑い出した。しかし、黒装束の男に反応はない。ひとしきり笑ったアルヴァはゆっくりとエリーゼに近づき、何も言わずに突き飛ばした。エリーゼは突然のことに声を上げることも出来ず、その場から空間に吸い込まれるように見えなくなった。
「ノーレス、あなたは勘違いしています」
そういった瞬間、表情が見えないはずの黒装束の男、ノーレスの驚いた気配が感じられた。
「この世界がどれだけ不条理なのか、あなたは忘れているのではありませんか?」
――――――【威圧】
「なっ! これは【威圧】のスキル!? これはレベル差がなければ効果のないスキルのはず!」
「よくご存じですね。そうです。レベル250に迫るあなたに効果を出すには、あなたのレベルを超えるしかない」
実はアルヴァは少し興奮していた。敵の戦力をはかろうと見たノーレスのレベルが231だったのだ。初めて見るこの時代の100レベル越えにどれだけ強いのか興味を持っていた。
「あなたのレベルが250を超えていると言いたいのですか?」
「信じられないのなら、試してみてはどうですか? エリーゼを無視したということは、本来の目的は僕だったんでしょう?」
「そうですね。付き合っていただけるのなら願ったり叶ったりです」
「おい! どういうことだ! 俺は聞いてないぞ!」
そんなエヴェレットと思われる黒の装束の男の声など二人は気にしていなかった。二人はその言葉を完全に無視し、話を続けていく。
「場所は変えていただけますよね?」
そう言ってアルヴァは【隧道】の魔法を使う。
「それがこの場に突然現れたものの正体ですか。さしずめ時空魔法の系統でしょうか?」
驚くことなく魔法を冷静に観察して考察する黒装束の男にアルヴァは興味を持った。今まで会った人たちは自分の魔法を理解できなかっただけに、俄然アルヴァの興味は増していく。
アルヴァが【隧道】を通り抜けると、ノーレスも続くようにくぐった。そこはただの草原だった。
見渡すとそこは木々のない開けた空間。上空から見ることが出来れば、森の中にぽかりと開いた穴のように見えるだろう。ノーレスがその場所を観察している間に、ノーレスから少し距離をとった。
「始める前に聞いてもいいですか?」
アルヴァはノーレスにナンガルフと同じような空気を感じながら、好奇心を満たすために問いかける。
「そちらも答えていただけるのなら」
ノーレスは警戒しているのか、一切アルヴァから視線を逸らすことなく答えた。
「じゃあ質問ですが、なぜそんなにレベルが高いのですか?」
「この国では確かに私のレベルは高いと思いますが、私は隣国出身で、私のレベルはその国の冒険者の中では目立つような値ではありません」
隣国とはブラットがいる国のことだろうとアルヴァには理解できたが、なぜそんなレベル差があるのかアルヴァには理解できなかった。
「では、私の質問です。自己紹介をお願いできますか?」
てっきり力の秘密を聞かれると思っていたアルヴァは驚いたが、信用されていないだけかと思い直し、律義に答える。
「僕の名前はアルヴァです。歳は十五になりました。出身地は遠方の勇者が生まれたという例の村から来ました。得意魔法は回復魔法です」
アルヴァは答えながら、自分の住んでいた村の名前も知らないことに苦笑する。
「あの村の出身者でしたか」
(知ってたのかな? 反応に驚きがない)
アルヴァは相手の反応からそう推測する。おそらく自分の知っている情報と同じことを答えるのかの確認だったのだろうとアルヴァは考えた。
「僕の情報はある程度把握されているみたいですね」
「それは質問ですか?」
黒装束の男は質問にも思えるアルヴァの言葉に答えることなくそう聞いた。その答えにアルヴァは苦笑いを浮かべる。
「さすがに引っ掛かりませんね。まぁ、僕の中では確定なので、もう質問はありません」
先ほどののアルヴァの言葉は一見質問に思えるが、ただの独り言と言い切れる言葉だ。もし黒装束の男が先ほどのアルヴァの呟きに答えたとしても、アルヴァは質問はしていないと逃げ切るつもりだった。そのためにわざわざ初めに質問するときに「質問します」という言葉を入れたのだから。もっとも、その目論見は半分遊びであり、答えてくれたら運が良かったといえる程度のものだったが。
「そうですか」
黒装束の男はそういうと、構えた。武器は手にないが、使わないとは言っていないため、アルヴァは少し警戒する。
「いつでもどうぞ」
アルヴァがそういった瞬間、黒装束の男は隠していたナイフをアルヴァに向かって投擲した。アルヴァはそれを左手で柄の部分を掴み取る。黒装束の男は投げた瞬間、アルヴァに向かって疾走していた。
(顔狙いとは、僕を殺す気なのかな?)
そんなことを考えているうちに、黒装束の男はアルヴァに近づき、右足で回し蹴りを放つ。それをアルヴァは一歩下がるだけで紙一重で回避した。それを読んでいたように左手に持っていたナイフをアルヴァの足にめがけて投擲する。それをアルヴァは左足でノーレスとナイフを巻き込むように横に蹴り飛ばした。ノーレスはその蹴りを警戒したのか、距離をとる。
「攻撃を読んでいるわけではなく、見てから反応していますね。驚異的な身体能力です」
「それは仕方がありません。僕は回復魔法使いですので、格闘術や剣術などのスキルはありませんから」
その通りなのだが、ノーレスが言いたいことは別なのだということはアルヴァにもわかっていた。そもそも回復魔法使いが見てから反応できるのがおかしいのだ。
「あ、これ返しますね」
持っていたナイフをアルヴァはノーレスの足元に投げて突き刺す。それをノーレスは何も言わずに蹴り上げ、アルヴァに向かって再び投擲する。その狙いが足だったため、アルヴァは今度は動くことなく、そのままナイフを受けた。ナイフは全く刺さることなく勢いをなくし、そのまま落ちる。
「もう諦めませんか?」
アルヴァとしては今の動きだけでノーレスの実力をある程度把握していた。
「確かにあなたの体術は素晴らしいと思います。ただ、僕との間にステータスの差がありすぎて、それじゃあ通用しません」
「魔法具の力ではないのですか?」
これは何を言っても信じないだろうとアルヴァは今の一言で察した。そもそも人は信じたいものを信じるものだったと反省し、説得することを諦めた。
「じゃあ、試してみましょう」
今度はアルヴァから仕掛ける。
「な!?」
あまりの速度にノーレスはとっさにナイフを抜き、横なぎで振り抜く。しかしアルヴァはそれを悠々と回避し、ノーレスの横腹を殴りつけた。
あまりの衝撃にノーレスの口から空気が漏れる。そしてそのまま転がっていく。アルヴァはすぐにそれを追い、仰向けになったところで踏みつけた。さらにノーレスの口から空気が漏れ、あまりの衝撃にノーレスは呼吸がままならなくなる。
「正直、手荒なことは好きではありません。お話しませんか?」
十分に手荒なのだが、アルヴァにとってはこれくらいは前世では日常茶飯事だった。それに十分に手加減している。しかし、ノーレスにそれに答える余裕はない。あまりの出来事に呼吸すらままならず、そのうえあまりの事態に思考も追いついていなかった。
「話す余裕くらいありますよね?」
実際ノーレスにそんな余裕はないのだが、アルヴァはそう信じて疑っていない。このままではまずいと感じたノーレスは慌てて頷く。まだ呼吸が安定せず、声が出せないのだ。アルヴァはその答えに満足し、自分のかけていた眼鏡をはずす。
「古代の魔法具は使えますか?」
その質問にノーレスは頷く。
「じゃあ、使ってみてください」
そういってアルヴァはノーレスの顔を覆っていた布をはぎ取り、眼鏡をかける。
「これ……は?」
なんとか話せるようになってきたのか、ノーレスはアルヴァに声で問いかける。
「【解析】の魔法具です。それで僕のステータスを見てみてください」
ノーレスはその言葉に驚いた表情をしたが、何も言わずに魔法具を発動させた。
「見えますか?」
「…………」
ノーレスからの反応は無く、ただ無言のままアルヴァをじっと見つめている。これで問題ないだろうとアルヴァはノーレスから足を退ける。解放されたノーレスはゆっくりと起き上がるが、その間もアルヴァから視線をそらさなかった。
「理解できた?」
「……なんといえばいいのか言葉が見つかりません。ただ、こう言っては何ですが、ステータスは平均以下ではありませんか?」
「そのまま見てて」
アルヴァはそういうと、火球を上空に向かって打ち出した。
「そんな…… 魔力が減らないのですか?」
アルヴァの行動よりも見えているステータスが変化しないことにノーレスは驚愕する。
「そうじゃありません。ただ、表示に現れないだけです」
「もしかしてこのステータスの横のマークに関係が?」
「正解です。そして僕には【限界突破】のスキルがあります」
「……まさか!」
ある可能性にたどり着いたのか、ノーレスは目を見開いたまま、、恐怖するように後ずさりをした。
「そうです。僕のレベルは5じゃない。僕のレベルは1005です」
その3に続く




