借金を返すだけでは終わらないようです
次の日のお話。なかなか進まなくて申し訳ない
次の日にアルヴァとルナ、そしてマーカスはギルド長に呼び出されたため、ギルド長のもとに訪れていた。マーカスの腕はすぐに戻っては不自然すぎるため、多少違和感を緩和するために包帯を巻き、骨折した人のように包帯でつっていた。
「よく来てくれ―――待て。マーカス、その腕はどうした」
ただ、ほとんど意味はなしていないのだが。
「こいつに治してもらった。まだ治療中だけどな」
そういいながらマーカスは左手をアルヴァの頭に置く。それを聞いてギルド長は諦めたようにため息をつく。
「まぁいい。ところでアルヴァ、昨日の金貨は持ってるか?」
ギルド長は触れると面倒だと思ったのか、すぐに別の話題に切り替えた。
「はい。持ってますけど……」
アルヴァは何故そんなことを聞かれるのかわからなかったが、ギルド長に隠すようなことではないので、正直に答えた。アルヴァとしてはマーカスに渡したのだからマーカスかワンダに持っていてほしかったが、マーカスに「お前が持ってるのが一番安全だ」と言われ、使用するまで持っていることになっていた。
「なら問題ないな。後一人来るから座ってもう少し待っててくれ」
ギルド長にそう促され、マーカスとアルヴァはソファーに隣り合って座った。ルナは相変わらずアルヴァの後ろに控えている。
「マーカス、一応聞くが、その少年は一体何者だ? 昨日は魔石を五十個ほど換金していったぞ。それも、三十一層のだ」
そう言われ、マーカスは隣のアルヴァを見た。どうお金を稼いだのか、マーカスは聞いていなかったのだ。
「それも、おそらく単独でだ。本当になんなんだ?」
「俺も詳しくは知らない。ただ、ナンガルフさんの弟子って聞いてるけどな」
マーカスもアルヴァについてはナンガルフの手紙以上は知らないため、伝えられることは少なかった。
「ナンガルフさんのかぁ…… あの人は本当に常識破りな人だな」
本人が聞けば「アルヴァ様と比較しないでください」と抗議の声を上げそうだが、あいにくとナンガルフはこの場にはいない。
「そういえば、ナンガルフさんに聞いたんですけど、王都でもホーンラビットは連れ込んで大丈夫というのは本当ですか?」
「ん? あぁ大丈夫だが、飼う予定でもあるのか?」
王都でもペットとして飼っている人は少なからずいるため、ギルド長はそれと同じと思ったのか、そう答える。まさかレベル500に迫るホーンラビットとは考えもしなかった。考えたら考えたでそれは異常な人間だが。
「友達なので連れてこようと思いまして」
ペット扱いされると分かっていながらアルヴァは親友をペット扱いする気などさらさらなく、そう答えた。
「そうか。まぁ、許可もいらないから連れてくるといい」
ギルド長の微妙な反応をしたのを見て、アルヴァは村での反応を思い出し、苦笑した。
そこでドアがノックされ、ギルド長が許可を出すと一人の男が入ってきた。その男を見て、マーカスは目を見開く。
「ん? 《英雄の剣》の人が集まってどうしたんだ? それにそちらの女性は確か奴隷商のところの使用人だったか?」
入ってきたのはクランリーダーであるエヴェレットだった。
「昨日からうちのクランに入ったんだ」
マーカスは目線でどういう事だとギルド長に訴えながら答えた。エヴェレットも用件を聞いていないのか、視線をギルド長へ向ける。ただ、その視線は鋭い。
「これで両クランの代表が集まったな。今から俺、ギルド長立会いの下で借財の返済を行う」
その言葉を聞いて、エヴェレットは明らかな舌打ちをした。
「ギルド長! これは……」
「昨日の金は借金返済のためにアルヴァが頑張ったものなんだろう? おせっかいだと思ったが、この場で立会人をやらせてもらう」
アルヴァはその言葉で現状を理解することができた。ギルド長はクラン《英雄の剣》が借金を返済した証人になると買って出てくれたのだと。
「なかなか大きな舞台を用意したな。まぁ、俺がしたことを思えば慎重になるのは当然か」
そういってエヴェレットは空いていたマーカスの向かい側のソファーに腰を下ろした。
「じゃあ、まずは借財の金額を教えてくれ」
「現在は全部で金貨六十五枚だ。月々の支払いは銀貨十枚ということになってるな」
その金額を聞いた瞬間、マーカスは机を強く叩いた。
「ふざけるな! 借金は金貨五十枚のはずだ!」
「それは計算違いだな。ここに借用書がある。問題があるかどうか、ギルド長に確認してもらうといい」
そういってエヴェレットは一枚の書類を取り出し、それをギルド長に差し出す。その書類にギルド長はじっくりと目を通して、ため息をついた。
「間違いない。この書類に不備はない」
その言葉を聞いた瞬間、マーカスの表情は絶望に染まった。対するエヴェレットは余裕の表情を浮かべているが、内心では焦っており、マーカスの様子を見て安堵していた。
(借財の金額をごまかしていたのはいざというときに相手に追い打ちをかけるための保険だったが、まさかこんな事態になるとはな。あと魔石を五個余分に入手して換金していたら危なかった)
エヴェレットはアルヴァが魔石でいくら儲けたのかは知っていた。なのでこの金額はこの場で一括で返されることはないことは分かっていたが、アルヴァ以外が用意している可能性もあり、そこだけは祈るしかなったのだ。
(あとはアルヴァというガキをどうにかすれば、また元通りだ。いや、どうにかできなくても支払いをのらりくらりとかわし、借金を増やすだけで問題ないか)
エヴェレットは今後の行動について思考を巡らせていく。しかし、エヴェレットはまだ油断するべきではなかった。いや、油断していなかったとしても、結果は変わらなかったが。
「それで、そちらが用意した金額は?」
「金貨六十枚だ」
それがアルヴァが昨日魔石を換金した金額すべてだった。それがわかっているエヴェレットはその答えを聞いてにやりと笑った。
「それじゃあ足りないな。それとも借金の金額を減らしておくか?」
エヴェレットは挑発するようにそういうが、マーカスから反論する言葉はない。
「ギルド長」
「アルヴァ、どうかしたか?」
「昨日約束しましたよね? 残りの魔石も買い取っていただけると」
「あぁ、だから昨日は買い取って―――おいおいまさか」
ギルド長はアルヴァの言っていることを察したのか、驚きの表情でアルヴァを見る。アルヴァは微笑みを浮かべると、魔石を一つどこからともなく一つ取り出した。そして昨日の出来事を再現するように次々に魔石を積み上げていく。それを見て、エヴェレットの表情が引きつっていく。
「そんなバカな!?」
エヴェレットにとっては金貨六十枚を一人で稼いだだけでも異常なのだ。さらに余力を残しているなど全く考えていなかった。
「どれだけ安くてもかまいません。金貨五枚分になるまでお売りします」
実はアルヴァも保険をかけていた。アルヴァは理由を知らないが、エヴェレットはクランの建物を狙っているのは明確であり、そのために借金を利用しているのは明らかだった。ならば卑怯な手段に出るだろうと考え、魔石を余分に集め、予めギルド長との約束を取り付けていたのだ。
「わかった。すぐにメイプルに鑑定させよう」
ギルド長の言葉にエヴェレットの余裕は完全に消え去った。
それからすぐにメイプルにより魔石は【鑑定】され、五個の魔石が金貨に換金される。これにより、クラン《英雄の剣》の借金はすべて返済されることになるのだった。
表面上は穏やかにエヴェレットは金貨の入った袋を受け取ると、帰っていった。それを見届けると、ギルド長はマーカスの向かい側のソファに腰を下ろし、大きく息をはいた。
「マーカス、良かったな」
「あぁ、俺の代で終わりかと思ったよ」
マーカスは苦笑しながら答える。
「なぜエヴェレットはあんなにクランの建物に執着したんですか?」
アルヴァはそれだけは考えてもわからず、今なら聞いて問題ないだろうと問いかけた。それに答えたのは意外にもルナだった。
「クラン《英雄の剣》の建物は特別」
「特別?」
「わたしと同じ、【不滅】が付与されてる」
ルナの言葉にマーカスとギルド長は驚きの表情になる。アルヴァは考え込む仕草をしただけだったが、内心一番驚いていたのはアルヴァだった。
(ルナに施した魔法と同じなのか?)
【不滅】の魔法は阻害魔法に分類される魔法で、補助魔法ではない。そもそもアルヴァが前世で【不滅】の魔法を作ったのは、自分でも使える武器を作るためだった。当時最高のステータスを誇っていたアルヴァには、通常の武器では使用に耐えられなかったのだ。そこでアルヴァは最高硬度を誇るアダマンタイトに【不滅】の魔法を付与し、魔法具とすることで壊れない剣を作り出したのだ。
(それとも別の人が僕と同じことを考えて作り出した? もし僕の作った魔法だとしたら、それを使って建物を建造したのは誰だろう?)
「アルヴァ、お前は【不滅】の魔法を知ってるのか?」
考え込んでいるアルヴァにマーカスは問いかけた。
「はい。それを使うと周囲や使用者の魔力を吸収し、自己を修復するようになる魔法です」
【不滅】は壊れないように補助する魔法ではうまくいかなかったため、壊れることを阻止する阻害魔法として組み立てたもので、魔力を周りから吸収してその物体を守り、すぐに修復する魔法だった。ただ、アルヴァがそのことを知るはずもないのに正確に答えたことにギルド長は驚き、すぐに諦めたような表情になった。
「【不滅】を知ってるなら話は早い。エヴェレットはその建物が魔法具であるクランの建物を狙ってるんだ」
ギルド長は簡潔に事情を説明するが、それはアルヴァが納得できる理由ではなかった。
「でも、【不滅】はただ壊れないだけで、それ以外に使えない魔法具です。そこまでして手に入れる価値はあるんですか?」
「あの建物は【不滅】が付与されてるだけじゃなく、特別な意味があるんだ」
ギルド長はそれにどう答えるべきか迷ったのか、視線をマーカスに向ける。その視線で自分が話すべきだと思ったのか、マーカスは頷くと話し出した。
「拠点の建物は今から五百年前、当時は王族所有のもので、隣国から贈られたものだったらしい。しかし百年ほど前、当時の国王は何を思ったのか、多大な手柄を立てた人物にその建物を下賜され、友好を図ったって話だ」
「それが初代《英雄の剣》のクランリーダー?」
「話が確かならな」
「でも、やっぱりエヴェレットが建物にこだわる理由はないですよね?」
その言葉にマーカスは困ったように頬をかくが、ため息を一つつくと、説明を再開した。
「噂でしかないんだが、どうもあの建物を第一王子が欲しがってるらしい」
その言葉にアルヴァは一瞬、本当に理解できなかったが、時間が経つにつれ、少しずつその言葉の意味を理解していった。
「つまりエヴェレットは第一王子と繋がりがあり、あの建物を狙った?」
「多分な。それ以外思い当たることがない」
そう言ってマーカスは肩をすくめた。どんな理由がるにしろ、迷惑以外の何物でもない理由だった。
「もしかしたら、王族としては隣国との関係維持のためにあの建物を取り返したいのかもしれないな。今のところ関係は良好だが、攻められたら俺たちはひとたまりもない。懸念材料を少しでも減らしたいという気持ちは理解できる」
ギルド長はそう付け加える。確かに隣国として友好のために渡したものをいきなり市民に下賜されたようにしか見えないだろう。人からもらったプレゼントをその人にわかるように他の人にプレゼントとして送ったようなものなのだから、いい気はしないだろうとアルヴァは考えた。しかし同時に、百年も前のことなど今更ではないかとも思ってしまっていた。
「じゃあ、とっとと王族に返したらどうですか?」
「それはそれで王族の権威を傷つけることになる。国王の好意を無碍にしたという形になるからな」
面倒くさいという言葉をアルヴァは飲み込む。そして代わりの言葉を吐き出した。
「じゃあ、これからも面倒ごとはありそうですか?」
「いや、しばらくは大丈夫だろう。ただ、こっちでも監視しておくから、そっちでも一応警戒しておいてくれ」
ギルド長はそう答えるが、アルヴァはその言葉をそのまま受け取ることができなかった。
(この程度で諦めるなら、最初からもっと穏便に済ませてたはずだ。絶対まだ仕掛けてくる)
アルヴァにはその確信があった。エヴェレットにあったのはほんの数回だが、すぐに諦めるような人物には見えなかったのだ。
(何かに追い詰められてるようにも見えたし、油断しないようにしよう)
町の中での警戒はギルド長に任せ、アルヴァは外でどう守るのかを自分の中で検討していった。
もう少しでラビィが帰ってくる!やった!




