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二度目の転生は上手く生きていきたい  作者: 江藤乱世
第二章 ~旅立ち~
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アルヴァは換金するようです その2

前回からの続きです。思ったより長くなり申し訳ありません。そしてブックマーク、評価ポイントともにありがとうございます。総合評価が上がるたびにプレッシャーであり、嬉しくもあります。

「あなたは確か、初日に冒険者登録の手続きをしてくれた―――」


 そこでアルヴァは言葉につまった。アルヴァはその女性の名前を聞いていなかったのだ。それを察したのか、冒険者登録してくれた女性は自己紹介する。


「私はメイプルよ。よろしくね、アルヴァ君。それでギルド長、これはどういう状況ですか?」


 メイプルは状況を素早く判断し、状況を知るためにはギルド長に聞くのが一番早いと考えたようだ。現に問いかける相手は受付の女性でもエヴェレットでもよかったはずなのだから。


(意外と出来る人なのかな?)


 アルヴァとしてはただ最初に登録してくれた人でしかないのだが、気にしておこうと心に決める。そんなことをアルヴァが考えている間にギルド長はメイプルに簡潔に説明を終えた。説明を聞き終え、メイプルはため息をつく。


「何故呼ばれたのか納得しました。それでアルヴァ君はどういった要件ですか?」


 今までのことは終わったことと判断したのか、メイプルはアルヴァにそう問いかける。アルヴァとしてはやっと話ができる人に変わり、話が進めることができる。


「魔石の買取りをお願いします」


 そう言ってアルヴァは相手の反応を待つことなく、机の上に魔石を一つ取り出した。


「え?」


 その現象が理解できなかったのか、メイプルはきょっとんとしている。ギルド長はにやりと笑い、受付の女性はそれを見て青ざめ、エヴェレットは顔を真っ赤にしていた。


「な……なんでお前がその魔石をもう一個持ってるんだ!」


 エヴェレットは怒鳴り散らすような大声でそう指摘する。そんなエヴェレットの反応にアルヴァはため息をつく。


「ダンジョンで討伐したからに決まってます。それ以外何があるんですか?」


 冷静なアルヴァの言葉にエヴェレットは何も言い返せない。自分の盗まれた魔石は一つと言ってしまった手前、今更撤回することも出来ないのだ。


「それで、今回は窃盗犯扱いせずに査定してもらえますか?」


「はい。問題あり――――――」


「ま、待って!」


 メイプルが頷こうとした瞬間、突然の大声がそれを遮った。


「何か問題ありましたか?」


 遮ったのは受付の女性だ。顔色が悪いまま、追い詰められた表情で言う。


「それも盗品かもしれないじゃない! それもしっかり調べないと!」


 最初の魔石を調べなかったのはそっちだろうとアルヴァは呆れた視線を受付の女性に向ける。


「二十層に挑むギルドがそんなにいると思ってるのか?」


 ギルド長はそう言って受付の女性を見る。この場に受付の女性の味方はいないようだ。


「そ……それでも調べないわけにはいきません! そもそも、そいつに二十層に到達できる実力なんてあるか確認すべきです!」


 その受付の女性の態度にギルド長はため息をつく。明らかにアルヴァを窃盗犯と決めつけた物言いに、呆れるしかないのだ。


「ステータスを勝手に調べることができないのは知ってるだろ? ステータスを調べる魔法具はあるが、あれはあくまで希望者だけが使えるもので、他人に確認させるものじゃない」


「でも……!」


「そんなにステータスを確認したいならいいですよ」


 不毛な言い争いを始めたギルド長と受付の女性にアルヴァはそう提案する。


「なに?」


 ステータスは人に見せないのが常識だ。それにも関わらず簡単に了承したアルヴァの意図がギルド長には理解できなかったのだ。


「ただし、僕だけが先に確認し、その後に見せるかどうか判断していいのならですけど」


 アルヴァが許可した理由はその魔法具に興味があったからだった。【解析(アナライズ)】が使える魔法具との違いがなんなのか、これ幸いにと確認しておこうと考えたのだ。


「俺は別に構わないが……」


 そう言ってギルド長はちらりと受付の女性に視線を向ける。すると既に女性は移動しており、その場にはいなかった。早速魔法具をとりに行ったであろう受付の女性に、ギルド長はまたため息をついた。


「アルヴァ君、ごめんなさい」


 そう言ってメイプルは頭を下げる。しかし、頭を下げられる覚えのなかったアルヴァは困惑する。


「何かありましたか?」


「さっきのギルド職員の態度は公平をもって接するべき態度ではありませんでした。ですからここに謝罪させていただきます」


 頭を下げたまま、メイプルはそう答える。アルヴァは謝罪されたことよりも、公正な態度で接するべきという規則があったことに驚いていた。


「腹を立てているのは先ほどの女性とエヴェレットに対してだけです。それ以外の謝罪は不要です」


「何故俺が謝罪しなければならない? 俺はお前に魔石を盗まれた被害者だぞ?」


 エヴェレットは自信満々にそう言う。自分の不正がばれることはないと確信している表情だ。


「まだいたんですか?」


 ただ、アルヴァにとっては魔石一つなどそれほど執着するものではない。相手にするのも面倒なのでいなくなってほしい。それが正直な心境だった。


「貴様! こちらが下手に出ていれば、調子に乗りやがって!」


 いつ下手に出たのだろうとアルヴァが不思議に思っていると、先にギルド長がエヴェレットに対応する。


「エヴェレット、お前は既に目的を果たしたはずだ。こいつのステータスを確認する権利もお前にはない。さっさと去れ」


 ギルド長はエヴェレットに鋭い視線を向ける。エヴェレットは小さく舌打ちをすると、何も言わずにその場から去っていった。


(まぁ、これ以上この場にいても出来ることはないし、魔石を一つ奪えたから良しとしたのかな?)


 去っていくエヴェレットを確認しながら、その胸中をアルヴァはそう推測する。その推測は当たらずも遠からずだ。エヴェレットはただアルヴァの魔石一つ売れたところで問題ないと判断したに過ぎない。まさかアルヴァがさらに多くの魔石を持っているとは予想すらしていなかったのだ。


「お待たせしました」


 エヴェレットと入れ替わるように受付の女性が何かを抱えるように持って戻ってきた。


「戻ってきたな。ここじゃステータスを盗み見られる可能性があるから、応接室に向かうぞ」


 そのギルド長の言葉に従い、四人は二階の応接室に移動する。その部屋は来客を迎えるために作られた部屋だけはあり、しっかりとしたソファーと机、派手ではないが、焼き物や絵などの調度品が飾られていた。


「じゃあ、再度確認する」


 座った場所はギルド長を基準に右側に受付の女性、正面にアルヴァ、右前にメイプルが座っている。魔法具は机の上に置かれた。受付の女性は居心地が悪そうに座っているが、それを気にかける者はここにはいなかった。


「まず大前提からだ。当たり前だが、本来お前がステータスを見せる必要はない」


 その言葉にアルヴァは頷く。


「それに、お前が盗んでいないこともわかっている」


 その言葉にアルヴァは目を見開いて驚いた。てっきり疑われていないだけだと思ったからだ。


「そもそも冒険者が襲われたり、ものを盗られたりした場合、必ずギルドに報告が入るようになってる」


 そう言ってギルド長は隣の受付の女性に視線を向ける。アルヴァはこれはもう自分に説明しているというよりは、受付の女性に向けての説明なのだろうと察した。


「それが未だにないということは憲兵にも届け出はないということだ。ギルドに報告がないものは基本的に起きていないものとして処理される。流石に疑わしい場合は今回のように時間を稼ぎ、報告があった場合は厳正に調査するがな」


 そう言われ、受付の女性の顔色がみるみる悪くなっていく。自分が対応を間違えていたことを理解したのだろう。アルヴァは一応疑われていたことを察しながら、何も言わない。ギルド長はあくまで規則に従って行動しているに過ぎないからだ。


「そういうわけでお前は無罪だ。ま、渡した魔石は授業料ってことで諦めろ」


 最後だけギルド長はアルヴァに視線を向けた。自分に話しかけていると判断し、アルヴァは答える。


「もともとそのつもりなので問題ありません」


 アルヴァがそう答えると、ギルド長は納得いかないように顔を歪めた。


「さっきもそうだがお前は物分かりが良すぎないか? あの魔石の価値がわからないわけじゃないんだろ?」


「一つだけなら問題ありません」


「まぁ、諦めろと言ったのは俺だから納得してるならいいんだが……」


 ただ、ギルド長は納得がいっていないのかどこか不服そうな表情だった。アルヴァとしては本当に問題がないので、それ以上何も言うことができない。


「それより、ステータスってどう調べるんですか?」


 アルヴァは目の前の魔法具を観察するように見ていた。その魔法具は左側に水晶のような透明な板が取り付けられており、その周りを視界を遮るためか、壁のようなもので覆われていた。右側にはいかにもここに手を置いてくださいと言わんばかりの手形が描かれている。


「その手形のところに手を置くだけでいい」


「はい」


 アルヴァは答えるとほぼ同時に右手を手型に置いた。すると水晶のような板に文字が現れる。



 名前     アルヴァ

 種族     人間

 レベル      5

 体力     203/203

 魔力      21/21

 筋力      66

 精神力     44



(見え方は【解析(アナライズ)】とほぼ同じか。そのほぼっていうのが大切なんだけど)


 なんとなく予想していたとはいえ、予想以上の収穫に思わずアルヴァはほほ笑む。これを事前に知ったことで憂いが一つ減ったのは大きかった。


「最後に確認するが、俺たちもステータスを確認していいんだな?」


 そういえばそんな話だったなとアルヴァはギルド長の言葉で思い出す。正直どうでもいいことだったので忘れていたのだ。ふと隣を見ればメイプルは見ないように別の方向に視線を向け、完全に魔法具とは反対方向を見ていた。


「ええ、かまいません」


 アルヴァが許可すると、メイプルはゆっくりと正面を向き、魔法具の水晶を覗き込む。


「どうだ?」


 ギルド長は自分で見る気はないのか、メイプルに問いかける。


「平均よりも低いステータスです。レベルは5ですね」


「レベル5!? そんなレベルで二十層に到達できるわけないです!」


 受付の女性は自分の行いを正当化するためか、そう口にする。レベル5では二十層には到達できないので盗んだものに違いないと主張したいのだろう。しかし、


「だから、それは問題じゃないとさっき言ったはずなんだが?」


 ギルド長は面倒くさそうにため息をつく。そもそも論点はそこにはないのだ。もしアルヴァが盗んでいたとしても、訴え出た人がいない以上、罪にはならないのだから。受付の女性がそのことに気づいたかどうかはわからないが、それ以上何も言わず、俯いてしまった。


「ま、これでこいつも納得しただろ。お前はこの魔法具片付けて通常業務に戻れ」


 納得していないのは誰が見ても明らかだったが、ギルド長の言葉には『ここまでしたんだからもう問題を起こすな』という圧力が込められていた。


「わかりました……」


 受付の女性は俯いたまま魔法具を抱えると、静かに部屋を後にした。


「私は業務に戻らなくていいんですか?」


「お前は今から査定の仕事がある。俺には【鑑定】はないからな」


「わかりました」


 メイプルも【鑑定】のスキルを持っているのかとアルヴァは驚く。【鑑定】は【解析(アナライズ)】ほどではないが珍しいスキルだったからだ。


「で、魔石の査定だったな」


「はい。お願いします」


 そう言ってアルヴァは素早く魔石を【道具箱(アイテムボックス)】から取り出し、机の上に置く。それを見てギルド長は渋い顔をした。


「さっきも思ったが、どこから取り出してる? 俺にはお前の手首から先が一瞬消えてるように見えるんだが……」


「秘密です」


 アルヴァが笑顔でそう答える。ギルド長は眉間を親指と人差し指でつまみ、何度かもむと面倒くさそうな表情に戻る。


「ま、冒険者には知られたくない能力や道具の一つや二つあるからな。追及はやめておく」


「そうしてもらえると助かります」


 本気で隠すほどのことではないが、極力ばれたくないというのがアルヴァの心境だったので、ギルド長の提案はありがたかった。


「それでは、査定させていただきます」


 そう言ってメイプルは魔石を手に取り、いろいろな方向から観察していく。そしてすべて見終わったとき、メイプルは魔石を落としてしまった。落ちた魔石は机の上をこんこんと二回ほど跳ね、止まった。


「おい! いくら魔石が壊れにくいからって、もう少し丁寧に扱え!」


 万が一魔石が傷つけばギルドの責任であり、欠けた場合でも元々の価値で買い取らなければならないのだ。二十層の魔石ともなれば金貨一枚の価値があるだけに、ギルド長の焦りは当然だった。しかし、ギルド長の叱責に、メイプルからの反応はない。慌てた様子もないメイプルにギルド長は訝し気な表情になる。


「どうした? 何か問題でもあったか?」


「ギ……ギルド長、これ…… この魔石…… 三十一層の魔物の魔石です……」


 メイプルはほとんど泣きそうな表情になりながらそうギルド長に伝える。【解析(アナライズ)】と【鑑定】の違いはそこにあった。【解析(アナライズ)】は相手を分析することに特化しており、道具を【解析(アナライズ)】しても材料や素材しかわからない。対して【鑑定】は相手や物の価値を見抜くもので、人に使ってもステータスは見えない。ただ、代わりに今回のように魔石や素材がどこでとられたものなのかがわかるのだ。


「三十一層だと!?」


 ギルド長は見てはいけないものを見たように魔石から少し距離をとった。椅子に座っているのだから、大した距離ではないのだが。


「問題ありましたか?」


 アルヴァの今までとは変わらない問いかけに、ギルド長はため息をついた。


「問題だらけだ。そもそも三十層に存在するミノタウロスが討伐できず、数十年前から足踏み状態だったんだ。最後に三十層より潜った記録があるのはもう三十年近く前のはずだ」


 その言葉でアルヴァは自分が何をやってしまったのか察した。そもそも三十層には簡単に足を踏み入れてはいけなかったのだ。


「頼むからこれは内密にしてくれないか? いや、もちろん査定の金額は払う」


 既に窃盗されたものであるとはギルド長は考えていない。そもそも盗み出す場所がないのだ。


「何故ですか?」


「レベル5のお前が三十層まで到達したとなれば、他の低レベルの冒険者が軽い気持ちで挑むようになるだろう。これがギルドからの公式発表ともなれば、信じる者も多い。お前には何か奥の手があるんだろうが、普通に攻略できるような場所じゃない以上、他の冒険者が挑めばどうなるのか、わかるだろ?」


 間違いなく無謀に挑んだ冒険者は死屍累々だろう。流石にそれはアルヴァが望むところではなかった。


「僕に何か不利益はありますか?」


「もし秘密にした場合、お前の功績は一切増えない。つまり、ギルドのランクに影響がないってことだ」


 その程度かとアルヴァは安堵する。それだけならばアルヴァには全く問題なかった。


「それだけなら問題ありません」


「すまない。本来ならギルドはお前の功績を称えるべきなんだが…… もちろん何かできることがあったら言ってくれ。俺にできる限りは便宜を図ろう」


 ギルド長は本当に心苦しそうにそう告げる。本来なら業績を称えるのもギルドの職務なのだから、ギルド長としてはそれをなかったしようとしている手前、心苦しいのだろう。そんな心境からか、ギルド長から最大限の譲歩が行われる。


「出来ることなら大丈夫ですか?」


「あ……あぁ、あまり無茶は勘弁してほしいが……」


 ギルド長は何を言われるのかと身構えるが、


「残りの魔石も買い取っていただけますか?」


 アルヴァの要求を聞くと、安堵の笑み浮かべた。


「あぁ、それならお安い御用だ。出来るだけ高値で買い取らせてもらうよ」


 アルヴァの申し出にギルド長は安堵のため息をつく。無理難題を吹っ掛けられることも覚悟していただけに、拍子抜けだったのだ。三十層を超えるということは、それほどの偉業なのだ。しかし、アルヴァにとっては苦労でも何でもない出来事。あえて言うなら往復が面倒程度のものだ。それがなかったことにされようと魔石を買い取ってもらえるなら何の問題もなかった。


「じゃあ、残りの魔石もお願いします」


 そう言ってアルヴァは【道具箱(アイテムボックス)】から今回集めた魔石を次々に取り出して積み上げていく。そんな様子をメイプルもギルド長も茫然と見ていることしかできない。


「それで最後がこの三十層の階層主の魔石です」


 それだけは区別したかったのか、アルヴァは机の上にはおかず、直接メイプルの両手に乗せた。乗せられたメイプルは涙目になりながらひきつった笑みを浮かべ、動けなくなっていた。ギルド長もあまりの事態に何も言うことが出来なくなったのだった。

ラビィ、早くアルヴァのところに来てくれ! そして止めてくれ! 頼むから!

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