ワンダとマーカスは話し合うようです
今回は説明回(?)のような話です
誤字報告ありがとうございます。見つけ次第修正していますが、読むたびに見つかるので半分諦めています笑。なので報告はありがたいです
アルヴァがダンジョンを攻略している(ただ走っている)頃、マーカスとワンダは向かい合わせに座り、話し合いをしていた。エリーゼはこの場におらず、少しでも足しになればと薬草採取に向かっていた。
「俺は本当に金策しなくていいのか?」
マーカスは不安そうにワンダに問いかける。計理の管理はワンダが行っていたため、マーカスには詳しくわからないのだ。
「今更誰がうちのクランを助けてくれるの?」
ワンダは大丈夫だとは言わず、これ以上打つ手はあるのかとマーカスに問う。その問いかけにマーカスは何も言えなかった。
「だったら私たちにできることは、アルヴァ君を信じて待つことじゃない?」
マーカスはそれに何も言い返すことが出来ず、誤魔化すために目の前の水に口をつける。
「……お前はアルヴァが本当にダンジョンで魔石を集めてくると思ってるのか?」
「えぇ」
ワンダはマーカスの問いかけに即答する。あまりの即答ぶりにマーカスはすぐに言葉を返すことができなかった。
「彼はまだ何かを隠してるわ」
代わりにワンダが言葉を続ける。しかし、その言葉にマーカスは首を傾げた。
「彼が隠し事? ワンダ、他ならない君が【解析】でステータスを見たはずだ。それに、嘘をついてるようには見えなかったが?」
マーカスの印象としてはアルヴァは素直な子供といった感じだった。多少ひねくれている気はしたが、それでもこちらに対して誠実に対応しようとしているとマーカスは感じていた。だが、ワンダは頭を振る。
「確かに彼は嘘はついてないと思う。ただ、正直者でもないわ」
そう言ってワンダは右手の指を三本立てた。
「彼が話してないことは大まかに分けて三つ。一つ目はスキルのレベルについてね」
「魔法スキルに関しては生まれ持っての才能だろう。なぜそれに疑問を持つんだ?」
彼らの常識では魔法スキルは生まれ持ってしか得られないものであり、才能でしか得られないものだった。余談だが前世のアルヴァも魔法スキルについては全ての属性を転生前に与えられていた。
「生まれ持って得ているスキルのレベルはレベル1なのが常識よ。いくら大量にスキルを持っていようと、レベル1以外で生まれてきた人はいないわ」
「そう言われれば…… だが、アルヴァのスキルレベルは8や10のものもあったんだろう?」
マーカスには確認するすべはないため、そこはワンダにしかわからないことだった。
「えぇ、確かにあったわ。つまり彼は魔法をそれだけ鍛えていたことになるわ」
「いやいや! 鍛えたと言っても彼は十五になったばかりだろう! あのナンガルフさんでさえ、鍛えて最大でスキルレベル5なんだぞ?」
「だから謎だって言ってるでしょ。私も流石に十五年であれだけのスキルを鍛えられるとは思ってないわ」
ワンダは困ったようにそう言いながら、意味もなく手元のコップをいじる。
「なるほど。だからアルヴァが隠し事をしてるってことか」
マーカスは得心が行ったように頷いた。
「そういうことね。ただ、スキルの中に【スキルレベル上昇率アップ】というレアスキルがあったから、これについては絶対無理ってわけじゃないわ」
しかし、そのワンダの一言でマーカスは一瞬動きを止める。しかし、気にしたら話が進まないと思ったのか、それについては触れなかった。代わりに話の先を促す。
「それで、後二つは何だ?」
マーカスはそれが何なのか考えることなくすぐにワンダに問いかけた。そんなマーカスに苦笑しながら、【解析】でしかわからないことなので、ワンダあまり気にせず話を続ける。
「二つ目はあなたには説明してないスキルについてよ」
「そういえば途中で説明を中断させたんだったな……」
アルヴァのスキルの量を思い出したのか、マーカスは辟易したように表情を歪める。既にマーカスの中にはアルヴァのスキルに何があったのかの記憶はないのだが。
「私も全部覚えてるわけじゃないけど、その中でも目を引いたのはレアスキルの数々よ」
「レアスキルが数々だと!?」
レアスキルとは一般的に知られるスキル以外を指す言葉で、【解析】もレアスキルに分類される。ただ、珍しいというだけで有益ではないスキルも存在するが、それでもレアスキルを一つでも持つことは人生の安泰を約束されたようなものだった。しかし、全員が自身の持つスキルを確認するわけではないのもあり、レアスキルを持つものは文字通り珍かった
「……もう考えるのも面倒になってきたんだが」
マーカスは諦めたようにため息をつく。
「あなたの不安を拭うために話してることだから、嫌ならやめるけど?」
ワンダは処理しきれないことは仕方がないと苦笑しながらそう言った。
「……いや、続けてくれ」
流石にここまで来て全部聞かない方が気になると判断し、マーカスは先を促す。なのでワンダは容赦なく話を続けた。
「特に印象に残ってるのは【魔法創造】というスキルよ」
「おいおい…… 冗談だろ?」
その捻りもないスキル名にマーカスは頭を抱える。そのスキル名だけでどんな効果を持っているものなのかわかってしまったのだ。
「そう思うわよね。私も流石に目を疑ったわ」
「本当に、そのままの効果だと思うか?」
「それは分からないわ。でも、考えたままで間違いないと私は考えてるわ」
その答えにマーカスは短く「だよな」と答えて苦笑した。
「もし【魔法創造】というスキルが想像通りのものなら、確かにダンジョンをある程度進めてもおかしくはない……か」
「……実は私がアルヴァ君がダンジョンに挑んでも問題ないと思ってるのは、三つ目の理由なのよ。それが一番の謎でもあるわ」
得心していたマーカスにワンダは申し訳なさそうに視線をそらした。その一言にマーカスは固まる。最後にその話を持ってきたということは、それが一番衝撃が強い話だと予想できてしまったのだ。
「これ以上がまだあるのか?」
「三つ目は彼のステータスよ」
ワンダは目線をそらしたまま、マーカスに言う。ただそう言われ、マーカスは首を傾げる。
「それなら聞いたよな? 確かレベル5だったか?」
ほかの情報はもう覚えていないのか、それだけ口にした。
「そのことなんだけど、実は変なことがあったの」
「変なこと?」
「【解析】を使うと、上から順にこうやって見えてて―――」
ワンダは机の上に指でステータスの見え方を示しながら説明する。
「普通は体力や魔力の項目は左側に現在値、右側に最大値が見えるんだけど、アルヴァ君にはそれ以外に、よくわからないものがついていたの」
「よくわからないもの? それはスキル以外でってことか?」
マーカスはステータスがどう見えているのか知らないが、魔法具で測定したときに見たことのあるものと同じだろうと考えていた。もっとも魔法具で測定した場合、スキルは表示されないのだが、今回の話に関係ないと先ほどまで聞いていたアルヴァのスキルの数々を頭の隅に追いやる。
「ええ、スキル以外よ。よくわからないんだけど、レベルの数字の右上と、魔力の最大値の右上、後は精神力の数値の右上に見たことのないような印があったの」
「それが何で一番の謎なんだ?」
確かにステータスに今までに見たことのないものがあれば気になるのは仕方がないとマーカスにも理解できた。しかし、だからと言ってそれが今までのことに比べて大きな意味を持つとは思えなかった。マーカスの反応を見てワンダは何もわかっていないと察したのか、ため息をつく。
「あなた覚えてないの? エリーゼの報告の中に魔法を使ったってあったでしょ?」
少し話がずれたように感じながら、マーカスは素直にその時の会話を思い出す。いや、その時の会話を思い出す必要はなかった。その時の会話は忘れられないものだったからだ。
「……俺の右腕を治せるっていう妄言の時だな」
そう言ったマーカスの声は固い。信じていないのがその声だけでワンダにはわかった。
「その話し合いは後にしましょ。それよりも今はその時彼が誰かに回復魔法を使い、手を元通りにしたって話があったでしょ?」
「あぁ。それもにわかには信じられないな」
「それがエリーゼの混乱で大げさに話しているにしても、回復魔法を使った事実は変わらないわ」
エリーゼに対してかなり厳しい評価だが、マーカスはそれには何も言わなかった。アルヴァが行ったことはエリーゼが大げさに話していると考えた方が現実的なのだ。
「まぁ、そうだな」
アルヴァが回復魔法を使えないとはマーカスも考えていなかった。そもそもナンガルフからの手紙にはそのような記述もあったからだが、それがなくてもマーカスは信じただろう。
「でも、それはおかしいのよ」
「おかしい?」
「あなたはもっとも簡単な回復魔法で消費する魔力って知ってる?」
魔法は使用するものの技術や規模によって消費量は増減するが、平均値のようなものはある程度は分かっていた。
「確か100ぐらいだったはずだな」
マーカスはワンダの質問に特に意識することなく覚えていることを答えたが、その瞬間にマーカスもおかしなことに気づいた。
「おい、アルヴァの魔力っていくつだ?」
「表示は21よ」
その答えを聞いた瞬間、なぜワンダが一番最後にこの話を持ってきたのかが理解できた。今までの二つはまだ常識の枠組みに収まっていた。スキルレベルが異常に高いとしてもそれは鍛えれば上がらないわけではない。レアスキルもたくさん持って生まれてくる人がいないとは言い切れない。しかし、魔力が21しかないにもかかわらず、消費魔力が100を超える魔法を使うことはどう頑張ってもあり得ないことだった。
「君はその印がその異常現象の原因だと考えてるわけだな?」
「そういうことよ。つまり、彼のステータスは見た目のまま役に立つものじゃないんだと私は考えてるわ」
ステータスを偽れるとは聞いたことはなかったが、古の時代の魔法具ならば可能なのではないか。【解析】の使える魔法具を持っていたアルヴァならば他にも持っているかもしれない。マーカスにはそう思えた。
「それを裏付けるようなことをアルヴァ君も言ってたから、ほぼ間違いないわ」
「ん? そんなこと言ってたか?」
そんな怪しいことを言っていれば流石に気づいたはずだとマーカスは疑問の声を上げる。
「言ってたっていうか…… 彼、一度も自分のレベル言わなかったでしょ?」
「そうだったか?」
「レベルの話になると私に話を振ってきたわ。それ以外の時も言わなかったし、言い回しが妙だったから覚えてるの」
レベルなんて自分の口で言えばいいのにもかかわらず、わざわざワンダがいうように仕向けた時、ワンダがおかしいと気づいたのはその時だった。不自然ではない程度に誤魔化されていたが、その絶妙さが逆にワンダの印象に強く残った。
「だから私はアルヴァ君のレベルは5じゃないと思ってるわ」
「……確かにナンガルフさんの弟子だ。あり得るかもしれないな」
あの歳で高ステータスを有していた場合、様々なものから興味を引くだろう。それはスキルよりも注目される可能性が高かった。なぜならステータスとはある程度生まれで決まるとはいえ、鍛えて強くなっていくのが基本だ。それが身近な時間で可能と分かれば、誰もが知りたがる情報なのだ。
「なんか俺も心配しなくていい気がしてきたよ」
マーカスは何かが吹っ切れたように目の前の水を飲みほし、笑った。
「そもそもあなたが力比べで負けてるんだから、最初からそこまで心配することじゃないのよ」
「そう言われても、心配になるだろ?」
「そうなんだけどね」
マーカスに真顔で問われ、ワンダは苦笑して答える。ワンダもアルヴァを心配していないわけではないのだ。
「大丈夫よ。あなたに勝つ力なら、今回の返済分くらい一週間で稼げるわよ」
「任せきりなのが心苦しいけどな」
マーカスが苦笑しながら答えると、ワンダも困ったように微笑んだ。
「主!」
まるで二人の会話の区切りを待っていたように、一人の女性がギルド内に駆け込んできた。
「どうかしましたか?」
ワンダはその人物に見覚えはなかったが、借金取りではなさそうだったので、用件を問いかける。
「ここに主がいたはず! 知りませんか!?」
主と言われたところでワンダにはわかるわけもなく、どう対処すればいいのかわからず、ほほ笑んだまま、困ったようにマーカスに視線を送った。
「主とは誰だ?」
放っておけなかったのか、今度はマーカスが声をかける。
「主とはわたしの所有者! ここにいたはず!」
しかし、先ほどと同じように要領を得ない答えに、マーカスはどうすればいいのか困り果てていた。
「申し訳ありません。わたくしからご説明させていただきます」
すると入り口から今度は四十代ほどの男性が姿を現した。その見たことのある人物に、なぜこんなところに現れたのかわからず、マーカスとワンダはお互いの顔を見合わせるのだった。
秘密がバレバレすぎて笑える




