どうやら依頼を受けるようです
今のところの目標は二週間以内には更新したいことです。
急いでアルヴァがクランの建物を出ると、エリーゼはすぐ外で立ち止まっていた。そしてアルヴァが出てきたのを確認すると、何にも言わずに歩き出す。ワンダの言う通り本当に素直じゃないなと思いながら、アルヴァはエリーゼにばれないように苦笑した。そして少し足早に歩き、エリーゼの隣に並ぶ。
「いい? まずは依頼について説明するから」
エリーゼはアルヴァを確認すると、そう言って説明を開始した。
「ギルドに集まる依頼はいろんな人から出されたものがあるわ。町の人からもあれば、中には国からの依頼なんてのもあるわ。もっとも、今のランクで受けられる依頼なんて薬品に使う植物採取か危険度の低い魔物の素材、害獣駆除とかそんなのよ。依頼の数は多いから、仕事に困ることはないわ。依頼料は安いけど」
アルヴァは思ったよりもためになるエリーゼの話を聞きながら、相槌を打つ。
「ただ、気を付けないといけないのは討伐依頼ね」
「何故ですか?」
「討伐した魔物の素材を依頼主か冒険者かどっちが持ち帰るのか違うからよ。もちろん冒険者が素材を持って帰れる依頼は依頼料が安かったりするわ。ただ、素材が手に入るかどうかは運だから、そこは一種の賭けね」
基本的に魔物は討伐すると消滅する。ただ、中には体の一部、もしくは全てを残す魔物も存在していた。
「なるほど。ダンジョンに対する依頼はないんですか?」
ダンジョンとは魔物が定期的に湧く不思議な場所だ。通常魔物は自然界には突然発生する。なので通常、出現場所を特定することはできない。しかし、ダンジョンでは特定魔物が定期的に湧くため、レベル上げや素材集めには最適な場所だった。
「もちろんあるわよ? ダンジョンも近くにあるし、ダンジョンに関する依頼は人気よ」
「エリーゼさんは潜ったことありますか?」
ダンジョンは前世では誰もがレベル上げに使用する場所というイメージだったため、今世でもそうなのか気になり、アルヴァは問いかける。
「あるわよ? 三階層までだけど」
それは潜っていないってことじゃないのかとアルヴァは思ったが、流石に言葉にせず、別のことを問いかける。
「じゃあ、依頼ってどうやって受けるんですか?」
「それはギルドで実際に依頼を受けるときに説明するわ」
そんな事を話している間に、二人はギルドに到着した。エリーゼは立ち止まることなく入っていき、そのまま依頼の貼られた掲示板の前に歩いていく。勝手に歩いているように見えるが、時々エリーゼがアルヴァを気にしているのをアルヴァはもう気付いていた。
「これが今ある依頼よ。もちろんこれ以外にもあるから、気になったら受付の人に聞いてみるといいわ」
掲示板には依頼がランク別に張り出されており、見やすくなっていた。現在アルヴァはランク1なので、その欄に貼られた依頼をなんの気もなしに眺める。確かにエリーゼの説明にあったように採取や討伐、中には魔石を求めるものもあった。
「ここの依頼を受けたかったら依頼書を剥がして受付に持っていけばいいわ。ま、今回はここの依頼は受けないけど」
エリーゼはそういうと、移動を開始する。アルヴァは慣れてきたのか、遅れることなくその後に続く。そして、二人は受付に到着する。
「どういったご用件でしょうか? あら?」
受付の女性はアルヴァが昨日見た人と同じ人だった。完璧な営業スマイルを浮かべている女性だったが、アルヴァを見た瞬間、少し笑みが強くなった。こちらに気づいたことがわかったアルヴァは、昨日の騒動のことを思い出し、適当な言葉が思いつかず、とりあえず頭を軽く下げた。
「今日は依頼ですか?」
昨日登録した事を知っているからか、受付の女性は何かの書類の束を取り出した。
「はい。クランに入るために依頼を受けにきました」
自分に話しかけていると察したアルヴァはそう答えた。
「クランにですか?」
受付の女性は意味が分からなかったのか、首を傾げながらアルヴァの隣を見る。すると何かに気づいたように困った顔になった。
「アルヴァ君、もしかして入るクランは《英雄の剣》ですか?」
自分の名前を覚えていたのかとアルヴァは別のことを感心する。ただ昨日の出来事が印象的だけだったのかもしれないが。
「はい。まだ入ってませんけど」
すると受付の女性は困ったように目線を逸らしたが、すぐに何かを決めたようにアルヴァの目をしっかりと見た。
「本来ギルドではあまり干渉してはいけないのですが――――」
受付の女性はそう前置きをする。
「ご存知ないかもしれませんが、クラン《英雄の剣》は既に潰れかけのクランです。それでも入られますか?」
その言葉にエリーゼは露骨に嫌そうな顔をしたが、元々アルヴァを加入させるつもりがないエリーゼは何も言わなかった。
「はい。全部分かった上で選んでますので大丈夫です」
アルヴァにとってその程度のことは些細なことだった。まだ思い入れがないせいで守る気があまりないのも理由の一つだが、自分ならどうにかなるだろうという自負からくる言葉でもあった。
「そうですか」
受付の女性は納得がいかない様子だったが、それ以上何も言わなかった。
「無駄話は終わった? 薬草採取の依頼を受けたいんだけど」
エリーゼは不機嫌なのを隠すことなく、受付の女性を話しかける。自分のクランを馬鹿にされたのだから、その反応はあまり前のものだ。
「あ、はい」
それが分かっているからか、受付の女性も何も言わず、指定された依頼書を探して取り出した。
「こちらが回復薬の材料である薬草採取の依頼となります。こちらのような常時必要とされる素材の依頼は常にありますので、是非受けてください」
後半の説明は自分に対するものだと気づいたアルヴァは「わかりました」と頷いた。
「このような常時ある依頼については採取してから受けていただいても大丈夫ですので、慣れてきたら他の依頼と並行してこなしてみてください」
「説明ありがとうございます」
「また何か分からないことがあれば聞きにきてくださいね」
「じゃあ、依頼の種類が分かったところで採取しに行くわよ」
先ほどよりもさらに不機嫌になったエリーゼはさっさと受付を後にする。今度は何が気に障ったのかアルヴァには分からなかったが、置いていかれるわけにもいかず、受付の女性に軽くお礼を言うと、慌ててエリーゼを追いかけた。今回は全く待つ気はないのか、外に出てもエリーゼは既にかなり進んでしまっていた。それにアルヴァは足早に追いつく。
「あんた、本当にうちのクランに入るの?」
追いついてきたアルヴァにエリーゼは落ち込んだ様子で問いかけた。どうしたのだろうと思いながら、アルヴァは思った通りに答える。
「もちろんです」
即答。その反応にエリーゼは不審者を見るような視線をアルヴァに向ける。
「何故? あの受付が言っていたように、先のないクランよ。お母さんが認めてる以上、あんたの実力は多分凄いんでしょ?」
ずっと気になっていたのか、その理由が分からずに信用できなかったのか、エリーゼは真剣な表情でアルヴァに問いかけた。
「正直にいうと、まだクランにはあんまり思い入れはないです。でも、マーカスさんには村を守ってもらったから」
「お父さんは自分じゃないって言ってたけど?」
そんな理由では納得できない。エリーゼの表情はそう語っていた。
「それでも、村を守るために駆けつけてくれたことに変わりはないです。ナンガルフさんの依頼だったとしても」
「冒険者として依頼を受けたんだから当然じゃないの?」
「エリーゼさんは知らないと思いますけど、村を襲ったのは六百レベルは超えようという魔王側近の魔物だったんです。そんな魔物相手に村に駆けつけてくれるだけ、本当にありがたいと思いませんか?」
「はぁ!? 六百!? なんかの冗談でしょ!?」
エリーゼの反応に苦笑しながらアルヴァは首を振る。
「事実です。実際【解析】したわけじゃないですけど、そのくらいだったって話でした」
そのアルヴァの答えにエリーゼは完全に言葉を失う。六百レベルはアルヴァにとってもなかなかレベルだ。まぁ、前世でアルヴァが戦おうとしていた勇者のパーティは僧侶を除き、平均八百レベルほどだったので、珍しいというほどではないが。
「僕がマーカスさんに感謝するのも当然だと思いませんか?」
しかし、一般的に見ても前世でも六百レベルは脅威だ。そんな中、助けに来てくれた冒険者にアルヴァは本当に感謝していた。実はアルヴァはマーカスたち冒険者がそんなレベルの魔物と戦うことになるかもしれないと知らされていなかったことを知らない。
「そんなことがあったんだ……」
エリーゼは静かに考え込んだ。エリーゼもまさか自分の父親がそんな危険な依頼を受けていたとは思いもしなかったのだろう。
「うん、あんたの気持ち、理解できるわ。あんたが恩返ししたいと思うのもね」
「じゃあ、僕が入るのを認めてくれますか?」
「そうね。でも、依頼を失敗したら意味ないけど」
エリーゼから感じる雰囲気が少し柔らかくなり、アルヴァは胸を撫で下ろす。流石にアルヴァもぎくしゃくしたままクランで過ごして行きたいとは思わない。
「それで、どこで薬草をとるんですか?」
「あんたうちのクランに入りたいんでしょ? わたしと歳も変わらないだろうし、そんなに丁寧な話し方じゃなくていいじゃない?」
「そっちがいいならそうするよ」
アルヴァとしてはなんとなくその話し方をしていただけなので、こだわりはない。
「そっちの方がわたしは楽ね」
そう言ってエリーゼは微笑んだ。初めての笑顔に受け入れられた気がして、アルヴァは嬉しくなった。
「それで薬草だけと、今から北門から出てそこから向かえる森に取りに行くわ」
王都の入り口はその大きさに対して出入り口となる門が四つしかない。アルヴァが入ってきたのは東門で、最も人の出入りが多い。
「北門から出るのは冒険者くらいしかいないから、他の門より出入りが楽よ。なにしろ北門から出ると行けるのは森と、その中にあるダンジョンだけだから」
「その森の中に薬草があるんだね」
「流石に大量とはいかないけど、買い取って貰えるくらいには集まると思うわ」
そんな事を話している間に北門に到着する。門兵に冒険者証を提示するとすんなりと通され、門の外に出る。すると、三百メートル先に森が広がっていた。
「森まで近すぎない?」
これでは防衛面で問題があるのではないか。アルヴァは関係なのに心配になってしまった。
「入口辺りの魔物は大体狩られてるから、大丈夫だって話よ」
そうではなく隣国から攻められないのかというのがアルヴァの心配だったのだが、自分が心配することではないと話題を変える。
「なるほどね。それで、薬草はどこでとっていいの?」
「あるならどこでもいいけど、そもそもあんた薬草知ってるの?」
「僕が知ってる薬草があってればだけどね」
アルヴァも前世ではあるが、回復薬を作っていたことがある。回復魔法には劣るが、一番簡易的な回復薬は魔石と薬草だけで作ることができ、回復魔法を使うまでもない軽い切り傷や擦り傷を治せるため、重宝していた。もちろん重症や病気を治せるもっと上級の回復薬も作れるが、回復魔法の方が速いため、使っていなかった。
「違ってたらわたしが教えてあげるから、入りましょうか」
エリーゼに先導され、森の中に入っていく。アルヴァは一瞬何かを感じ取ったが、気にするほどでもないと後に続いた。すると、目的の薬草はすぐに見つかった。
「薬草ってこれだよね?」
アルヴァは見つけた薬草を採取し、エリーゼに見せる。聞いてはいるが、アルヴァは【解析】によって薬草だとはわかっている。だが、それが現世で求められている薬草かどうかわからなかったのだ。
「うん、多分そうよ。わたしは【鑑定】や【解析】があるわけじゃないからわからないけど」
「つまり、【解析】で【薬草】と表示されるものが正解ってことだね」
アルヴァは前世の知識と変わっていなかったことに安堵した。しかし、エリーゼには今のアルヴァの言葉に聞き逃せない言葉があった。
「なんで【解析】だけに反応するの?」
そう、アルヴァは【鑑定】と【解析】のどちらでもよいとエリーゼが伝えたのにも関わらず、【解析】でわかるものだけに反応した。わざわざ言葉にされたそれが、エリーゼには不自然に感じられたのだ。もちろんアルヴァは気づかせるつもりでそう言ったのが。
「それはもちろん僕が【解析】のスキルを持ってるからだよ」
元々クランに入ればばれることなので、この程度のことはアルヴァにとって隠すことでもなかった。
「【解析】持ちってそれこそ引く手数多――――――ううん、ごめんなさい。何でもないわ」
エリーゼが飲み込んだ言葉をアルヴァは察していた。それは、【解析】のスキル持ちは引く手数多なのだから、わざわざ弱小クランに入らなくていいのではないかということだ。ただ、既にアルヴァはそれらを含み、答えを伝えたつもりであり、エリーゼもそれがわかったため、言葉を途中で飲み込んだのだ。
「とりあえず採取する薬草もわかったし、出来るだけたくさん集めるよ」
そう言ってアルヴァは目につく薬草の中でも育ち切ったものを選んで摘み取っていく。エリーゼはあくまで見届けるつもりなのか、手伝おうとはしなかった。
「あ、あんまり奥に行くと、魔物が出るかもしれないから、やめた方がいいと思うわよ?」
アルヴァが更なる薬草を手に入れようと歩き出したとき、エリーゼは忠告なのか、そう言った。
「問題ないよ」
アルヴァは常に魔力感知で周辺を探査しているので、周囲に魔物はいないことは分かっていた。
「まぁ、いざとなったら逃げれば大丈夫なんだけど…… あれ? あんた薬草は?」
エリーゼが少しアルヴァから意識を外している間に、アルヴァの手には薬草が消えていた。
「大丈夫だよ。ちゃんと収納してあるから」
「どこに? あんたが持ってる袋じゃ入らないと思うんだけど」
アルヴァが常に持ち歩いている袋には常に何かが入っており、改めて薬草が入る空間があるとはエリーゼには思えなかった。
「それについてはまだ秘密かな。それよりも、ちょっとこっちに来てくれる?」
アルヴァは視線で地面に何かあると示しながら、そう言ってアルヴァはエリーゼを手招きする。
「何かあったの?」
エリーゼは不思議そうにアルヴァに近づいていく。しかし、アルヴァの見ている先にはただの薬草が生えていた。
「薬草じゃない。これがどうしたのよ」
エリーゼは何をしたいのかわからず、呆れたようにアルヴァを見る。
「とりあえず、僕の近くから離れないで。守り切れなくなるから」
エリーゼは一瞬、アルヴァが何を言っているのかわからなかった。しかし、アルヴァの真剣な目つきを見て、非常事態なのだとすぐに腰のナイフに手をかけた。
「いつまでこそこそついてくるつもり?」
アルヴァはまだ姿は見えないが今まで歩いてきた方向に声を投げかけた。
「なんだ、気づいてやがったか」
すると、観念したように三人の男たちが現れた。それは、アルヴァがギルドに初めて冒険者として登録した時に絡んできた男とその取り巻きだった。
さぁ、次回アルヴァが暴れます笑




