クランに加入するようです
読み返していないので読みにくいかもしれませんが、ご了承ください
アルヴァは宿からの道を迷わないように目印になる建物を確認しながら進んでいく。すると、一つの建物の前にたどり着いた。クラン《竜の一撃》よりも少し建物は小さいが、見劣りするわけではない。ただ、何故かその建物から暗い雰囲気をアルヴァは感じていた。
(人が……いない?)
クラン《竜の一撃》ではかなりの人通りがあった。しかし、目の前の目的のクランと思しき建物には人の出入りが全くなかったのだ。アルヴァは間違えたかと思い手元の地図を見てみたが、場所に間違いない。
(入ればわかるか)
アルヴァは考えることを諦め、建物の中に入っていく。すると中には本を読んでいる一人の少女しかいなかった。
「何か用?」
少女はアルヴァが入ってきたことに気づくと本を閉じ、近づいてきた。
「このクランに入りたいんだけど、どうすればいいですか?」
「この《英雄の剣》に?」
この場にいるのだからそれ以外ないにもかかわらず、少女はあり得ないことを確認するように問いかけた。
「うん」
アルヴァは少女の反応に違和感を覚えた。どう見ても少女は困惑しているようにしか見えなかったからだ。
「……あんた、田舎者?」
「まぁ、そうだね」
アルヴァがそう答えると、「だからなのね……」と少女は小さく呟く。
「うちの名声を聞いて来たんだろうけど、そんなの過去の栄光よ。今はご覧の通り、廃業寸前の弱小クランよ」
アルヴァは《英雄の剣》が一、二を争うクランということは聞いていたが、だからと言って入ろうとしたわけではない。ただナンガルフにオススメされたため加入を決めたにすぎないのだ。ただ、何故一、二を争うほどのクランが何故こんな状態なのかは気になっていたが。
「そんなことはどうでもいいよ。ここにはナンガルフさんに薦められてきただけだから」
「ナンガルフ? そんな人いたっけ?」
少女はその名前に聞き覚えはなかったのか、首を傾げた。しかしすぐに切り替えて話を続ける。
「まぁいいわ。ホントにこのクランに入ることに後悔はないのね?」
「問題ないよ」
「わかった。今からクランリーダー呼んでくるから、詳しい話はそれからするわ」
「ちょっと待ってて」と言うと、アルヴァが応える間もなく少女は建物の奥に歩いて行ってしまう。数分手持ち無沙汰でアルヴァが待っていると、奥から「クラン加入者なんているわけないだろ」「いいから早く!」という言い合いが聞こえてきた。少女に引っ張られるように現れたのは右腕のない隻腕の男だった。
「お前がこのクランに入るっていう変人か?」
アルヴァはクランに入ろうとしただけなのに変人扱いされたことに驚きながら、礼儀として名乗る。
「アルヴァと言います」
「俺はクランリーダーのマーカス。こっちが娘のエリーゼだ」
隻腕の男、マーカスは少女エリーゼの頭に手を乗せながら紹介する。エリーゼは鬱陶しそうにその手を払い除けていたが、マーカスに気にした様子はない。
「もう一人妻のワンダがいるが、もう少ししたら来るはずだ。そしてこの三人でクランメンバー全員になる」
流石のアルヴァもその人数が極端に少ないことはわかった。そもそも全員家族の地点でクランメンバーなどいないに等しい。
「どうやら知らないようだが、このクランは数年前までこの国で一、二を争うような有名クランだったんだ」
ナンガルフの知っている情報は古かったのかとアルヴァは納得する。
「ただ、俺がある依頼でしくじり、当時主力だった者たちが全滅。俺は生き延びたが右腕を失った。それからこのクランから人が離れていき、転げ落ちるように転落していった」
その言葉にアルヴァは納得する。栄枯盛衰。そんなこともあるだろうというのがアルヴァの感想だった。
「そんなわけでこのクランに入ってもいいことは何もない。それでも加入するか?」
マーカスは親切心なのか、せっかくの加入者であるアルヴァに再度確認する。お人好しだなぁとアルヴァは表情に出さないように心の中だけで苦笑しながら、答える。
「もちろんです。せっかくナンガルフさんに紹介してもらったんですから」
そもそも別のクランにつてがあるわけではないアルヴァにとって選択肢などなかった。クランに入らずにソロで冒険者をやっていってもいいが、右も左も分からないアルヴァはそれは危険だと思っていた。主に常識から逸脱してしまうのではないかという点において。
「ナンガルフ? お前、ナンガルフさんの紹介だったのか!」
ナンガルフの名前を聞いた瞬間、マーカスは笑みを浮かべ、馴れ馴れしい態度に変わる。伝えていなかったのかとアルヴァがエリーゼを見ると、彼女は不思議そうに首を傾げていた。
「それならそうと言ってくれよ。ナンガルフさんの紹介なら大歓迎だ」
そう言いながらマーカスはアルヴァの肩を叩く。まさかナンガルフの名前がそれほどの効力を持つとは思っておらず、アルヴァは驚いていた。エリーゼは本当に知らないのか、「誰?」と首を傾げている。
「あ、これがナンガルフさんからの紹介状です」
アルヴァは慌ててナンガルフの手紙をマーカスに手渡す。これはクランリーダーに渡して欲しいと頼まれた手紙だった。
「おう。じゃあ、見せてもらうぞ」
マーカスは器用に片手で手紙を開けると、中身に目を通していく。アルヴァは手紙の内容を知らなかったが、マーカスの表情は読み進めるうちに驚きに変わっていった。
「お前、あの村の出身だったのか」
手紙に書いてあったのだろう。マーカスは驚いた表情のまま、アルヴァを見た。
「知ってるんですか?」
「あぁ。数年前に村の警護をナンガルフさんに頼まれたからな」
「あの時、村を助けてくれた人だったんですね。その節はありがとうございました」
表向きには魔物を討伐したのは村の警護に呼ばれた冒険者ということになっていたので、それにならい、アルヴァは知らないフリをして頭を下げた。
「やめてくれ。実は俺たちは何もしてないんだ。討伐したのはナンガルフさんだよ。あの人目立つの嫌いだから、手柄を俺たちにくれたんだ」
そういうことになったのかと、アルヴァは納得する。自分のことがバレていなければアルヴァとしては問題ないのだ。
「それでも村を守ろうとしてくれたのは変わりません。ありがとうございます」
その感謝はアルヴァの本心だった。もちろん依頼のためだろうが、それでも命をかけても守ると駆けつけてくれたのだ。役に立ったのかどうかはアルヴァにとってどうでも良かった。
「そ……そうか」
マーカスは困ったように目線を彷徨わせる。エリーゼはどこか嬉しそうだったが。どうやらマーカスはまっすぐな感謝に弱いようだ。
「それにお前はナンガルフさんと師弟関係らしいな。かなり優秀だって書いてあったぞ」
マーカスそれ以上何も言われないうちに話題を変えた。流石に元に戻しても困らせるだけなので、アルヴァもその話に乗っかる。
「はい。ナンガルフさんにはお世話になりっぱなしです」
ちなみに師弟関係というのは本当のことだ。もちろん師はアルヴァで、弟子はナンガルフだが。
「ギルドへの登録は済んでるか?」
「はい。これが冒険者証です」
アルヴァは持っていた袋の中からギルドで受け取った冒険者証を取り出し、マーカスに手渡す。隣で暇そうにしていたエリーゼも覗き込むように冒険者証を見る。
「回復魔法使いか。ナンガルフさんの弟子だからてっきり剣士か風魔法使いだと思ったんだけどな」
マーカスは少し残念そうな表情だったが、それ以上は何もなかった。今までの中で一番穏便な反応に、アルヴァは少し嬉しくなる。しかし、エリーゼは違った。
「回復魔法使いなんて使えない人、クランに入れる意味なんてないわ」
アルヴァの肩書を見た瞬間、エリーゼは明らかに落胆していた。
「エリーゼ! ナンガルフさんの弟子だぞ! 回復魔法使いとはいえ、弱いわけがないだろう!」
マーカスは語気を強め、エリーゼを嗜める。マーカスのナンガルフに対する評価がかなり高く、その熱に若干アルヴァは引いていた。しかし、そんな言葉を聞いてもナンガルフを知らないエリーゼは止まらない。
「私はナンガルフなんて人知らない! その人がどれだけ凄いのか知らないけど、回復魔法使いは回復魔法使いよ!」
エリーゼもマーカスに合わせるように声が大きくなる。そこから二人はアルヴァをそっちのけで言い合いが始まってしまった。マーカスはナンガルフがどれだけ凄い人だったのかを。エリーゼは所詮誇張された話だと言い合う。これはまずいかなとアルヴァが思い始めた頃、一人の女性が現れた。
「二人とも、お客さんの前で何を言い争っているの?」
よくある事なのか、その女性は呆れたように二人に問いかける。すると二人は途端に言い争いをやめ、言い訳をする様に状況を説明し出した。それを聞くうちに女性から明らかな怒気が立ち上り始める。
「それで二人はお客さんを立たせたまま、言い争いをしていたの?」
その言葉を聞いた瞬間、エリーゼとマーカスは姿勢を正した。
「わ……私、水用意してくる!」
エリーゼは逃げるように奥に消えた。しかし、マーカスに逃げ場はない。
「とりあえずそこに座ってくれ」
マーカスは落ち着いたのか、アルヴァに椅子をすすめる。そこにアルヴァが座ると、向かい側にマーカスと女性が座った。
「自己紹介がまだだったわね。私はワンダよ。よろしくね」
「僕はアルヴァです。よろしくお願いします」
自己紹介を簡潔に終えると、マーカスが口を開く。
「とりあえずクランに加入する件だが、俺は構わない。加入する前にギルドに行って依頼を一つこなして欲しいが、それはすぐ出来るはずだ」
アルヴァはその言葉に頷く。何も言わなかったのはまだ話に続きがありそうだったからだ。
「だが、エリーゼが反対している以上、加入を認めるのは難しい。お前も険悪なクランは嫌だろう?」
「そうですね」
アルヴァとしてはどちらでも構わなかったが、仲が悪いよりもいい方が良いので、肯定する。
「だから、妻の【解析】をする許可をくれ。それで娘を説得する」
アルヴァはその言葉に流石に躊躇いを覚えた。いつかは伝えなければいけないことだが、まさかこんなに早く訪れるとは思わなかったのだ。だが、いつかはバレるのだからと躊躇いは一瞬ですぐにアルヴァは覚悟を決めた。
「構いません。ただし、詳細をエリーゼさんやマーカスさんが知るのは僕がクランに加入にしてからにしてください」
ただし、条件はつけたが。
「わかった。ありがとう」
ステータスは基本的に他人に知らせるものではない。法で記載されているわけではないが、勝手にステータスを見ることはかなり心証は悪い。そんな風潮のおかげでアルヴァはステータスを勝手に見られることはない。
「じゃあ、見てもいいかな?」
エリーゼに問われ、アルヴァが答えようとすると、それより先にマーカスが答える。
「エリーゼが来るまで待たないか? 事情を説明した方がいい」
「確かにそうね」
そんな会話をしているとタイミングを図ったかのようにエリーゼが人数分の水の入ったコップをトレイに乗せて戻ってきた。
「どうぞ」
エリーゼはコップをそれぞれ人の前に置くと、トレイを机の上に置き、椅子を動かしてアルヴァとは反対側に座った。そこでマーカスが今までの経緯を説明する。
「わかった。お母さんが納得するようなステータスなら私も文句言わない」
未だ不満はありそうだが、それ以上はわがままになると思ったのか、不承不承頷いた。アルヴァはそんなエリーゼの反応を気にせず、話がまとまったことに安堵した。
「じゃあ、いくわよ」
「あ、待ってください」
アルヴァに遮られ、ワンダは不思議そうに首を傾げる。まさか嫌になったのかとワンダは考えたようだが、アルヴァが止めたのは別の理由だった。
「見るのは構いませんけど、見た瞬間に驚かないでくださいね?」
「え、えぇ……」
ワンダは何故そんなことを言われたのか分からず、しかし頷かないと話がこじれると思ったのか、頷く。エリーゼは「そんな見栄、はらなくてもいいのに……」と呟いていたが、誰も彼も聞こえないフリをした。
「じゃあ、改めていくわよ」
そうワンダが声をかけた数秒後、アルヴァを【解析】された時の独特な感覚が襲う。
(そういえば【解析】されるの久しぶりだなぁ。最後にされたのはいつだっけ?)
自分の感覚でもかなり昔で、うまく思い出せず、アルヴァは思い出すことを諦める。そんな事を考えている間もワンダからの反応はない。十秒、二十秒と時が流れていくが、ワンダは固まったまま動かない。一分も時が流れた頃、流石に無反応なことを不審に思ったのか、マーカスが動く。
「ワンダ、どうしたんだ?」
その声にワンダはハッとしたようにマーカスの顔を見る。そして次の瞬間、勢いよく立ち上がった。
「あなた! この子は絶対に逃しちゃダメ! 何がなんでもクランに入れるのよ!」
そういう反応になるよねとアルヴァが苦笑する中、マーカスもエリーゼもワンダの興奮ぶりに困惑していた。
「お……落ち着け。それで、どうだったんだ?」
「どうだった? そんな話じゃないわ! この子さえいればこのクランは安泰よ!」
未だ興奮冷めやらぬ様子でワンダはまくしたてる。何を見たのか伝えてはならないという約束をしっかり守っているので、理性がないわけではないだろうが。
「そ……そんなになのか?」
「ええ。伝えられないのは仕方ないけど、知れば誰でも加入してくれと頭を下げる。むしろ国が動くかもしれないわ」
その言葉に信じられないものを見るようにマーカスはアルヴァを見る。アルヴァはどう反応すればいいのか分からず、肩をすくめた。
「お母さんがそんなに言うなんて、何を見たの?」
「エリーゼ、それは教えられない。むしろ知らない方が幸せかもしれないわ」
「クランに加入できたら教えても良いですよ。これからお世話になると思いますから」
流石にこの場にいる人に秘密に出来るとは思っていない。マーカスもエリーゼも気になって仕方がないだろう。ならば早めに伝え、情報を共有するべきだとアルヴァは考えていた。
「君みたいな子が加入してくれるなんて、これほどの幸運はないわ。ステータスはこれから鍛えていけば問題ないし」
「ありがとうございます」
「ま、待ってくれ! 加入するためには一度こちらが指定する依頼をこなしてもらう必要がある」
このままでは自動的にアルヴァの加入が決まると思ったのか、マーカスは慌てて話を遮る。
「あなた、そんなの別にいいじゃない。どうせこの子ならすぐ終わるわよ」
ワンダとしては今すぐにでも加入してもらい、クランの一員にしてしまいたいのか、そう主張する。
「だが、規則があってだな……」
「そんなのクランマスターの権限で特例にすればいいでしょ? ここにいる人しかクランには人がいないんだし」
「だけどな……」
このままだとまた言い争いが起きそうだと思ったアルヴァはそこで口を挟む。
「ワンダさん、僕はこのクランにしか入るつもりはありません。それに、規則なら僕も従いたいと思います」
流石にアルヴァにそう言われてはこれ以上何も言えず、ワンダは引き下がった。マーカスは明らかに安堵したように息を吐くと、仕切り直すように喉の調子を整えた。
「じゃあ、アルヴァがクランに加入するための試験を始める。エリーゼ、ギルドに行ってアルヴァに説明してやってくれ」
「わたしが?」
「お前以外いないだろ?」
そう言われ、エリーゼは諦めたようにため息をついた。まだアルヴァが入ることに納得しきれていないのだろう。
「わかった。じゃあ、ついてきて」
エリーゼは立ち上がると、アルヴァがついてくるのも確認せず、外に向かった。アルヴァはその後に続くように立ち上がる。
「素直な娘じゃないけど、よろしくね?」
立ち上がったアルヴァに苦笑したワンダが声をかける。それにアルヴァは頷いて答え、急いでエリーゼのもとに向かった。
アルヴァの犠牲者がまた一人笑




