どうやら心に決めたようです
主役がやっと動き出します
アルヴァが異変に気が付いたのは爆発音が村から聞こえた時だった。
(なんだろう? この世界に爆発を起こすものなんて魔法以外にあったっけ?)
一瞬魔力感知を行おうかとも思ったが、ラビィが警戒している以上問題ないだろうと考え、アルヴァは切り株を撤去する作業に戻った。通常切り株の処理は掘り返すだけでも重労働だが、アルヴァには魔法がある。さらに切り株運びも魔力操作で強化された筋力を持つアルヴァにとっては重いものではない。一人とはいえ、作業は誰が見ても異常な速さで進んでいた。
(このままいけば、来年には本格的に育てられるようになるかな?)
そんなことを考えながら、アルヴァは作業に勤しむ。そんな単純作業を続けていたアルヴァだが、ふと異様な空気を感じ取った。
(なんだ? 何が起きてるんだ?)
それは本当にただの違和感だった。しかし、その違和感に従って村の方に意識を向け、その視界に入ったものを認識して初めて異常事態に気づいた。
(煙? あれは生活で使った煙じゃない!)
アルヴァはその煙の色を見て、明らかに大規模な火災が起きていることを理解した。しかし、アルヴァが行動を起こす前に来訪者があった。
「アルヴァ! 無事だったのね!」
「母さん?」
それは顔を青くしたアルヴァの母親だった。アルヴァを認めると駆け寄り、そのまま抱きしめる。
「どうかしたの?」
何か異常事態であることはアルヴァは分かっている。なので現状理解のために努めて冷静に母親に問いかける。
「とにかく逃げるのよ!」
しかし母親は何も告げず、アルヴァの手をとり、引いて走りだそうとする。
「落ち着いて」
しかし、アルヴァは抵抗し、一歩も動かなかった。あくまで現状を確認するために問いかける。
「何があったの?」
そんなアルヴァの様子を見て説明せずにつれてはいけないと判断したのか、一度アルヴァの手を放し、深呼吸してから話し出した。
巨大な魔物が村に向かっていることが村長であるダウから知らされ、村から逃げるように通達があったこと。その魔物を食い止めるためにナンガルフとダウが向かっていること。そして、遠くに行って村にいなかったアルヴァをこうして迎えに来たことなどなど。まだまだ混乱しているのか、説明がうまくいっていたなかったが、アルヴァが現状を理解するのには十分な説明だった。
(ラビィがここに来てないってことは、ナンガルフさんじゃ対処できない魔物ってことだ。そこに更にナンガルフさんやダウおじさんも向かうなんて、戦力が足りない? だったらなぜラビィは僕を呼ばない?)
そこまで考え、アルヴァは魔力感知を発動させる。魔力感知はその名の通り周囲の魔力、つまり魔素の濃度差を感知する技術だ。
(なるほど、ラビィが僕を呼ばないのはこういうことか)
アルヴァは感じとった魔力の大きさにラビィが自分に頼らなかった理由を理解した。その魔力から推測できる魔物の強さは明らかに今のアルヴァより上だったからだ。だが、気づいたからには助けないという選択肢はない。もちろんアルヴァも危険だとは思っているが、それは見捨てる理由にはならなかった。
「アルヴァ、なにを考えてるの?」
母親は何かを感じとったのか、不安や恐怖に染まった表情のままアルヴァに問いかけた。
「僕、助けに行くよ」
簡潔に母親に伝えると、すぐに駆け出せるように脚に力を込めた。しかし、駆け出すよりも早く母親はアルヴァに抱きつく。
「やめて! 行かないで!」
その声は悲しみに満ちていた。アルヴァの父親も魔物に命を奪われている。その上アルヴァまで魔物に命を奪われるなど母親には耐えられなかったのだ。
「僕が行けばみんな助かるかもしれない」
それでもアルヴァは止まらない。助けられるかもしれないのに見捨てるなどアルヴァには考えられなかった。魔法が戦力になることは母親も理解している。しかし、だからといって危険だと分かっている場所に息子を送り出す母親がいるだろうか?
「嫌よ! お願いアルヴァ! 私と逃げましょう?」
その言葉にアルヴァは横に首を振った。それを見た母親の表情は絶望に染まった。
「なんで……?」
アルヴァの決意は変わらないだろうと察しながら、止める手立てのない母親は力なく問いかける。
「それが僕だから」
それだけ答えるとアルヴァは母親の腕を優しく自分から外すと、今度こそ全力で走り出した。背中に呆然と眺めているだろう母親の視線を感じながら。
村に到着するとそこはアルヴァが思っいた以上に悲惨な状態だった。家は何軒か燃えており、爆発によってえぐれた畑が所々に確認できる。元に戻そうとなれば、かなりの月日を要するだろう。唯一の救いは誰かが死んだ様子が見られない事だろうか。
「アルヴァ!」
その様子を呆然と眺めていたアルヴァに声がかかる。逃げ遅れた人がいないか確認していたダウだった。母親の話では魔物と戦いに行ったという話だったが、混乱での伝達ミスだろうとアルヴァは情報を修正する。
「ダウおじさん、現状は?」
短く問いかけるアルヴァに一瞬驚いたような表情をするが、すぐに切り替えてその質問に答える。
「負傷者はなし。だが、それ以外は壊滅的だ。ラビィが魔物と交戦中。ナンガルフさんがそろそろ合流する頃だ」
その報告を聞いて、アルヴァは悔しさのあまり奥歯をかみしめた。
(まさかこんなことになるなんて…… こんな何もない村襲ったところで何もないのに…… どうしてこんなことに……)
そこまでアルヴァは思考をめぐらせ、ふとある日考えたことを思い出した。
(まぁ、今更だから気にするのはやめよう。とにかくしばらくは魔法やスキルの人前での使用は控えよう。目立つとありがたられるか怖れられるかなのは前世で体験済み。今世は平和に生きていきたい)
それは今世で知識を取り戻し、自身のステータスを確認した時に思ったことだった。自身のステータスを知り、それを知られては前世のように恐れられるのではないのかという不安から、その力を極力隠そうという判断だった。しかし――――――
(なんで、僕は力を隠そうなんて考えたんだ! 前世で散々思ったはずだ! 力がなければ守りたいものは守れないって!)
「あ……アルヴァ?」
アルヴァの様子がおかしいと感じたダウは恐る恐る声をかける。しかし、思考に没頭しているアルヴァはその声に反応する余裕はない。
(僕は守りたいと思った地点で全力を出すべきだったんだ! 持てる力と技術を駆使し、この村を守るべきだった! なぜ怖れられるかもしれないなどというわかりもしない結果を恐怖し、大切なものを守るという選択をとれなかったのだ!)
ここにラビィがいればアルヴァの変化に気づき、その思考を中断させただろう。しかし、現にここにラビィはおらず、それ故にラビィが危惧していたようにアルヴァの思考は進んでいく。
(なぜすぐに魔王だった時の力を取り戻そうとしなかったのだ! そうすれば我は簡単に事態を収拾するだけの力を持っていたではないか!)
――――――【威圧】
「ッ―――!」
それは決してアルヴァが意識して発動したスキルではなかった。だが、自分に対する怒りが何物をも怯えさせる気配として周りに放たれる。実際の【威圧】よりも威力は抑えられているだけ、アルヴァの理性はまだ保たれているのだろう。しかし、それでもダウには立つことも出来ず、意識しなければ呼吸すらままならなくするほどの恐怖を与えていた。
(…………反省は後でよい。とにかく今はこの村を破壊してくれたものを討滅しなければな)
――――――水魔法【水弾】
本来ならば小さな水を生み出し、撃ちだすだけの魔法だが、アルヴァは魔力にものをいわせ、巨大な水の塊を生成する。そしてそれを上空に撃ちだした。
――――――風魔法【風刃】
続けて風の刃を作り出し、撃ちだした水の塊を切り裂く。すると水の塊は細かく分かれ、まるで雨のように地上に降り注いだ。雨にしては大粒であり、当たれば痛みを感じるだろうが、それでも怪我をするほどではないだろう。おかげで炎を消すまでには至らないが、燃え広がる勢いを殺すことには成功していた。
「ダウおじさん、心配せずとも良い。すぐに我が終わらせよう」
呼び方も声色もそのままだが、放つ雰囲気も口調も既にアルヴァではない。今すぐアルヴァを止めなければ大変なことになると直感的に感じたダウはアルヴァの腕をつかもうと手を伸ばそうと試みた。しかし、【威圧】の効果は強く、ダウはその場から一歩はおろか、腕を動かすことも声を出すこともかなわなかった。
アルヴァはそれ以上何も言わず、走り出す。しかしそれは魔物のいる方角ではなかった。
今のアルヴァが力不足なのは本人も承知している。故に必要なものを回収するために動き出したのだ。そんなアルヴァをダウはただ見送ることしかできなかった。
一方その頃ラビィは――――――
『うらぁ!』
ラビィは何度目かになるかわからない炎弾を上空に弾き飛ばす。魔力で強化しているとはいえ、その威力に徐々にラビィの体力は削られていた。
『なかなか粘るな。しかし、もう限界ではないのか?』
四足歩行の獣はラビィを嘲笑うかのように笑みを浮かべる。会話に応じればさらに時間を稼げるかもしれないと考えたラビィはその問いかけに答える。
『あと百回ははじけるんじゃないか?』
ラビィは自身の余裕のなさを表に全く出さず、そう答える。しかし、四足歩行の獣にとってそれが強がりなのは一目瞭然だった。
『もう我を攻撃しても良いのではないか? はじけなかった炎弾で村も壊滅してるかもしれん』
『そうだな、いい案だ』
そんなつもりなど微塵もないが、ただ時間を稼ぐためにそう答える。
(村の避難は終わった頃だろうか? 人間に被害がないといいが。まぁ、あとはどれだけ遠くに逃げられるかが問題だな)
もう戻る気のないラビィは後どれだけ時間が稼げるのかを冷静に考える。これは元々勝つための戦いではない。どれだけ時間が稼げるのかの戦いなのだ。
『では、その覚悟が本当かどうか試してみよう!』
そう言って四足歩行の獣はまた炎弾の準備を始める。再開だなとラビィは今の間に稼げた時間に満足する。欲をいえばどれだけでも時間は欲しいだろう。しかし、今に集中しなければ一瞬のうちに命を失うことをラビィは理解していた。
ラビィは自分自身に炎弾が向けられることを警戒しつつ、次の炎弾に集中する。しかし、次の瞬間にその炎弾は霧散した。そしてそれと同時に感じた気配にラビィは全身の毛が逆立つのを感じた。
『―――っ! なんだこの気配は!?』
四足歩行の獣もその気配に気づいたのだろう。いや、そもそも気づかない方がおかしいほどの強大な気配。ラビィは自分に向けられているわけでもないのに恐怖を感じていた。
(やっぱりダメか。ナンガルフがどうにかしてくれるかもと思ったが、無理があったな)
ラビィは四足歩行の獣から完全に意識を外し、気配のする背後に振り返った。まだ人が向かっているとしか確認できないほどの距離がある。しかしその人影は徐々に大きくなり、瞬く間にラビィの隣に到着した。
そこに到着したのは案の定アルヴァだった。右手には斧が握られており、腰には袋が吊り下げられていた。
「ラビィ、無事か?」
その懐かしい気配に複雑な感情を抱きながら、ラビィは答える。
『一応な』
こうなっては仕方がないとラビィは諦める。何を言ったところでもうアルヴァが引かないことは経験上分かっているのだ。
『な……なんだ貴様は!』
四足歩行の獣は叫ぶように言う。見かけとかけ離れた気配に混乱しているようだ。
「黙れ。誰が話してよいと許可した?」
『―――!』
アルヴァの【威圧】が数段増す。それだけで四足歩行の獣の獣は言葉を失った。【威圧】のスキルはレベルが相手よりも高ければ高いほど効力を増し、スキルレベルが高ければ高いほどレベル差がなくても効力を持つ。四足歩行の獣の獣がひれ伏さなかっただけでも称賛するべきだろう。
「とりあえず回復しよう」
アルヴァの回復魔法で一瞬にしてラビィの負傷はなかったことになる。その光景を見て、四足歩行の獣の獣は目を見開く。
『嬉しいんだが、この後はどうするんだ? 俺とお前でも厳しいだろう? そもそもそんな得物で大丈夫か?』
ラビィはアルヴァの手にある武器に目を向ける。ラビィの記憶が正しければそれはダウの家にあった薪割り用の斧で、四足歩行の獣の獣に通用するような得物ではないのだ。
「手はある。今しばらく時間を稼げるか?」
『それで、勝てるのか?』
「勝算はある」
『十分だな』
もともと無理な勝負に勝算が生まれるのだ。それだけでもラビィには朗報だった。
『勝算だと? ふざけるな! 我は魔王の側近が一、ガルザム! 人間ごときに負けん!』
四足歩行の獣の獣―――ガルザムは恐怖を怒りでねじ伏せ、右前足を振り上げ、叩きつける。それを後退して回避したアルヴァとラビィだったが、ラビィだけはすぐさまガルザムに突っ込む。
『悪いが、時間を稼がせてもらう。アルヴァの相手をしたければ俺を殺してからにするんだな』
そう言いながらラビィはガルザムの下に滑り込み、顎を蹴り上げた。それを確認したアルヴァはすぐにスキル【魔法創造】を発動させる。するといつもより大人しいレイが反応した。
(今回はどういう魔法を作るのかな?かな?)
調子はいつも通りなのだが、それでもいつもよりもテンションが抑えられている。
(どうしたのだ? やけに大人しいが)
(あたしだって空気くらい読みます〜。それよりその口調気持ち悪いよ?)
(何かを殺す時はこの“魔王”でいた方が楽なのだ。気分の問題なのだがな)
前世でのアルヴァは魔王として意に沿わない事をやらなければならないことがあった。そんな時や威厳を持たせるために使っていたのがこの“魔王”だ。結局自分がやることには変わらないのだが、アルヴァとして気分を切り替えることが重要だった。要は家族に見せる自分と友達に見せる自分が違うようなものだ。その時に適した自分に切り替えるのは誰しもが行っている事だろう。
(なるほどね〜。君は誰か傷つけるの嫌いだもんね。あ!)
レイが驚きの声を上げた瞬間、ガルザムからアルヴァに向かって炎弾が撃ち出される。
(ラビィが捉えきれぬから我を狙い、ラビィの意識をこちらに向けるのが狙いか?)
そんな事などありえないのだがなと、溜息をつきながら、アルヴァは右手の甲に防御魔法を展開し、迫ってきた炎弾を殴り上げた。ガルザムが驚きの表情を浮かべるが、それを気にする事なくアルヴァはレイに意識を向ける。その隙にラビィは真横からガルザムを蹴り付けていた。
(なんであいつはアルヴァを狙ったの?)
レイは不思議そうにアルヴァに問いかけた。ガルザムがアルヴァを狙ったのは今まで村を狙っていたようにラビィが助けに入る事を期待してのことだとアルヴァは理解していたが、説明する気はなかった。
(それより魔法を創る。あのガルザムを確実に仕留める魔法を創れるか?)
(できると思うけど、それだったら自分で強力な魔法を使えばできるんじゃない?)
確かにレイの言う通り、それは可能だった。ただし、
(ラビィはおろか、あそこに隠れているナンガルフをはじめ、村で避難している者たちも巻き込んでよいというのならば可能だろう)
アルヴァは右側の木の一本を見ながらそうレイに伝える。魔王時代の技術があれば可能かもしれないが、現在の実力では強力な魔法を使いながら他の防御魔法を同時展開する技術はないのだ。
(なるほどね~。それであいつにしか効かない魔法が必要ってことね。なっとくなっとく。でも、作ると多分魔力の消費がたいへんなことになると思うよ?)
(ならば斧に付与する魔法を創造してくれ)
消費魔力については検証が必要だなと思いながら、アルヴァはまたも迫る炎弾をはじきながらレイに伝える。
(え? 攻撃魔法じゃなくていいの?)
(それでは外した時のリスクが大きい。それならばこの斧に付与し、誰かが当てればガルザムが絶命するようにした方がリスクが減る)
(なるほどね~。もしかしてここに来る前から考えてた?)
(いいから作成を急げ。ラビィが傷つくのを眺めているのも辛いのだ)
(はいは~い! じゃあいくよ~)
そう宣言してレイは魔法創造に取りかかる。前回の約束を覚えていたのか、派手な演出もなく、粛々と作業を進めていく。
(プログラム作成――――――完了
デバック―――――――――――完了
アップロード――――――――完了
魔法名【刀狼斬首】作成完了しました)
戦闘シーンを書くのは苦手です。そしてやっぱりラビィは主人公より主人公らしい




