実験を始めるようです
久しぶりの主人公登場
アルヴァは自室にこもり、あるものを制作していた。とは言っても既に道具は揃っているので、後は魔法を制作するだけだ。
『今度は何をしようとしてるんだ?』
「まぁ、これで便利になるかなって。それに、試したいこともあるし」
アルヴァは答えにならない言葉を返し、自身のスキル【魔法創造】を発動させる。
【魔法創造】
(はいはーい! 今回はどんな魔法がご所望?)
相変わらずやかましい声がアルヴァの頭の中に響き渡り、アルヴァは顔をしかめた。その様子を見てラビィが『大丈夫か?』と声をかける。それに「大丈夫」とアルヴァは答えながら、アルヴァは頭の中の存在に不平をもらす。
(レイ、もう少し静かにできないの?)
(いやいや、静かな方でしょ? だってあたしの声アルヴァにしか聞こえないし)
それは静かだと言えるのかとアルヴァは考えたが、不毛な会話になりそうなのですぐに切り替えて本題に移る。
(また作ってほしい魔法があるんだ。お願いできないかな?)
(おけおけ。今度はどんな感じが御所望?)
(スキルにある【解析】と同じ効果の魔法創れる? 出来れば魔力消費を抑えたいんだけど)
(創ることはできるけど、魔力消費はわたしにはどうなるかわかんないかな。でもでも、スキルにあるもの創るならそんなに多くならないと思うよ〜)
(それならとりあえずよろしく)
(はいは~い! 改変いくよ~)
そして展開される数多な複雑な魔法陣。突然の出来事にラビィが驚きのあまりアルヴァから距離をとる。
『アルヴァ、これはなんだ!?』
「心配しなくても大丈夫だよ。これは僕のスキルの効果で、好きな魔法を創造出来るんだ」
『なんだその破格なスキルは……』
ラビィは困ったように耳を伏せる。ただ、ラビィに驚きはあまりなかった。そもそもアルヴァは元々使える魔法も膨大であり、自身で開発した魔法も数知れない。そんなアルヴァに今更【魔法創造】などというスキルが増えたとしても、それほど強さに影響があるとはラビィには思えなかったのだ。
(魔法改変開始――――――)
頭の中で前回と同じ言葉が響く中、アルヴァはラビィの様子に癒されていた。
(プログラム作成――――――完了
デバック―――――――――――完了
アップロード――――――――完了
魔法名【解析】作成完了しました)
(また魔法名がおかしなことに……)
やっぱり名前は避けられないことなのかとアルヴァはため息をつく。もしかしてこのスキルのリスクはこの名前なのではないかとアルヴァは真剣に考え始めた。
(とりあえず今回はこれだけかな?)
(あ、うん。ありがとう)
(また呼んでね〜)
『終わったのか?』
魔法陣が収束し、いつもの部屋に戻ったのを確認し、ラビィはアルヴァに声をかける。
「うん。とりあえず新しい魔法は完成したよ」
『いったい何を創ったんだ?』
突然魔法の準備を始めたアルヴァに、魔物が再び攻めてくることがばれたのではと内心慌てながら、表面上はいつも通りアルヴァに問いかける。
「【解析】の魔法を創ってみたんだ。そうしたら面白いことがわかったよ」
アルヴァは新しいおもちゃを手に入れた子供のように楽しそうに答えた。
『【解析】? なんでそんな魔法を創ったんだ? お前、【解析】持ってたよな?』
ラビィは心配が杞憂に終わったことに内心胸をなでおろした。
「そうなんだけど、【解析】って相手に気づかれる欠点だあったでしょ?」
あぁ、これは説明したいのかと楽しそうなアルヴァを見てラビィは苦笑する。前世から魔法開発時にはよくラビィはアルヴァの説明を聞いていたのだ。そんな昔を思い出し、ラビィは懐かしい気分になる。
『確かにわかるな。初めてだとその感覚がなんなのかはわからないと思うがな。だが、それと魔法創りに何の関係がある?』
「実は最初に創った魔法が【多言語理解】なんだけど、その時に気づいたことがあるんだ」
アルヴァは流石に魔法名である【多言語理解】と言っても伝わらないと思い、スキル名で伝える。
『あれはスキルで創った魔法だったのか』
てっきり前世で創っていたと思っていたラビィは意外そうに言った。
『それで、何がスキルと違ったんだ? 俺には何もわからなかったが』
「スキルの【多言語理解】は自分自身があらゆる言語を理解できるようにするスキルなんだ。そして、魔法の【多言語理解】も自分にかける魔法だ。だけど、その二つには明確な違いがある。ラビィもスキルの【俊足】があるからなんとなくわかるんじゃない?」
『いや、想像もつかないな』
その答えにアルヴァは少し残念そうにしながらも、すぐに切り替え、答え合わせをする。
「答えは魔法はかけられたかどうかわからないけど、スキルは分かることだよ」
『ん? 魔法も使われたかどうかわかるが?』
回復魔法をよくアルヴァにかけられていたラビィには、確かに回復されたという感覚があったのだ。使用されたのがわからないという感覚は理解できなかった。
「それはよく陥る錯覚だね。回復魔法を例に挙げると、回復したという事象があるから使われたとわかるだけで、何も変化がなければラビィも気づけなかったんじゃないか?」
そういわれてラビィは少し考えこむ。そして気づいた。確かに回復したことに気づいたことはあったが、回復された瞬間に気づいたことはなかったと。
『確かに言われてみればそうだ。だが、それが本当なら、魔法の【解析】は誰にも気づかれないことになるな』
【解析】のスキルは使われたことに気づきことができる。しかし、アルヴァの今の話が本当なら、もう誰も気づけないことになるのだ。
「だって、今も使ってるけどラビィ気づいてないでしょ?」
『今使ってるのか?』
「うん。前に見た時より少し魔力が伸びてるね。あれからたまに僕の作った魔石を食べてるからかな?」
『確かに強くなった実感はあるが…… ただ、それは何の役に立つんだ?』
正直ラビィにはその利点がわからなかった。不意打ちする前に相手の能力がある程度わかることは確かに利点ではあるが、そんなものはあくまで能力であり、その者の実力ではない。直接相対した場合は相手にばれたとしても問題ない。なのでラビィには相手にわからないという利点があまり思いつかなかった。
「役には立たないと思うよ?」
『ないのかよ』
利点が聞けると期待していたラビィはアルヴァの答えに拍子抜けした。
「正直、魔法とスキルの違いを確認するために作ったようなものだからね。使い道までは考えてなかったよ。あ、でもナンガルフさんにまた魔法具を作るつもりではあるけど」
この場に用意された材料はそういうことだったのかと、ラビィは部屋に散らかった素材に目を向ける。
「まぁ、この違いは何かの役に立つだろうし、実験の意義はあったよ」
『楽しそうだな』
「まぁね。前世では魔法の実験は大体しちゃってたし、新しいものを試すのは楽しいよ。こんな派手なスキル、今しか使えないだろうし」
確かに使うたびに派手に魔法陣が展開されれば目立って使いづらいだろうと、ラビィは『なるほど』と納得する。
(あの演出はなくせるよ? あたしの趣味だし)
突然頭の中に響いた不意を突いた声にアルヴァはびくっと反応した。
『どうした?』
「なんでもない」とラビィに答えながら、アルヴァは頭の中でレイに答える。
(趣味ってどういうこと?)
スキルが勝手に話しかけてきたことに驚きながらも、それよりも気になることを問いかけた。
(だってただ魔法創るだけじゃつまんないでしょ~? だから、使ってるぞ~って感じでそれっぽくしてみました。すごいスキル使ってる感じしなかった?)
その言い分にアルヴァは呆れるしかなかった。確かに派手な演出は最初は凄さを感じたが、二回目以降は正直無駄に感じていた。それさえなければその場で魔法を創ることが可能と思っていたアルヴァにとっては朗報だが、何か釈然としないものがあった。
(というか、そもそもなんで意思があるの?)
今までは補助的な存在だろうと思っていたが、それにしては自己主張したり自分の意見を言ったりと、明らかな自我を思わせる発言があり、それがアルヴァには気になって仕方がなかった。
(今時人工知能もおしゃべりするし、これぐらい普通じゃない?)
(なぜ人工知能って言葉を知っている?)
もちろんこの世界に人工知能という言葉はない。自ら考え動かせる人形を作ることは可能なので概念自体は存在するが、それは自動人形と呼ばれ、人工知能という言葉は使われていない。
(それはもちろんハイリ君の頭の中を見れるからだよ~)
なんとなく釈然としないものを感じながらも、一応筋の通った説明にそれ以上問いかける言葉が見つからず、その話題はひとまず保留することにする。
(ま、これでも一応理を超越した、神をも超えるスキルだし?)
(は?)
保留にしようとしていた矢先にもたらされた一言に、アルヴァの思考は停止した。あまりに意味が分からず、何を問いかければいいのかすらアルヴァにはわからなかった。
(ま、気にしない方がいいよ~)
そう言われて気にしないようにできればいいのだろうが、アルヴァはそんなに単純にはできていない。しかし、今はどうしようもないことなのだと割り切り、思った以上に特殊なスキルなんだと頭にとどめた。
(わかった。じゃあ一つだけ。演出はこれからなしで)
(え~……)
明らかに不満そうな気配がアルヴァには感じられたが、黙殺する。何か問題があればその時対処すればいいと、自分の中でひとまず決着をつけた。
『アルヴァ、また実験か?』
ずっと黙ったままのアルヴァの様子を見守っていたラビィは心配そうに問いかけた。
「あ、ごめん。そうじゃないんだ」
スキルが意思を持っていて、それと会話していたんだとそのまま伝えるわけにもいかず、ただ心配をかけないようにラビィを撫でた。
『また誤魔化しやがって……』とラビィは不機嫌そうな声を出すが、その様子からは嬉しそうな気配が漂っている。
『それで、実験は終わりか?』
「実験はね。次は魔法具作ろうと思ってるよ」
まだまだ畑仕事を始めるには早い(やりすぎると母親に怒られたり、ダウに心配されてしまう)ため、もう少し時間には余裕があった。
『何に付与するつもりだ?』
材料はたくさん散らばっているが、そのすべてを使うわけではないだろうと考えながら、ラビィは問いかける。
「一番良さそうなのは眼鏡かな。自分の頭の中に結果を出力するんじゃなくて、空間に見えるようにしたいし、効果範囲も調節しないと見る人全部のステータスを見ることになるから、しっかり標的補助も考えないと。それに――――」
アルヴァの楽しそうな説明を半分も理解できないラビィはそれでもその話に付き合いながら、昔に戻ったような感覚になり、穏やかな気持ちでその話を聞き続けた。
ラビィおじいちゃん、孫のアルヴァを見守る




