アルヴァの知らないところで話し合いをするようです
遅くなりましたが続きを投稿していきます。
畑の開拓は順調そのものだった。アルヴァの魔法とラビィの力、ナンガルフの手配の手腕により、瞬く間に開拓は進んでいく。他の人達の力は全く借りず、一週間がたった頃には既に木材は全て運び出され、切り株だらけの空き地が出来上がっていた。
ナンガルフには既に独自魔法【多言語理解】を刻んだ指輪を渡してあり、ラビィとの連携も問題なかった。ただ、当初の目的だった母親にラビィと話させるのはナンガルフが止めて保留中だ。いきなり魔物との会話はハードルが高いだろうというナンガルフの意見をアルヴァが聞き入れた形だ。
「さぁ、今日も畑仕事がんばろう」
アルヴァは気合を入れるために声を出す。
『おう、がんばれ』
独り言に近いアルヴァの言葉に反応したのはラビィで、近くの日が降り注ぐ場所で丸くなり、眠たそうに欠伸をしている。
そんなラビィに微笑みかけ、アルヴァは右足で大地を踏みしめながら魔法を発動させる。ちなみにこの踏み締めるという動作は全く意味はない。
魔法はすぐに効力を発揮し、地面が掘り返されたように凸凹になっていった。これは土魔法【大地の針】の応用で、【大地の針】は本来地面から相手を串刺しにするための杭状の針が生えてくる魔法だが、その針の大きさを細かく、深く、広範囲に発動させることで、地面を耕したのだ。おかげで残っていた切り株も盛り上がり、後は運び出すだけとなった。
『便利だな』
「前世でよく使った魔法だからね。今でも問題なく使えるよ」
前世ではよく農地拡大をしていたので、このくらいは魔力操作が拙くなった今でもお手の物だった。
『お前は今、どれだけ強いんだ?』
ふと気になったのか、ラビィはひだまりから抜け出し、アルヴァに近づきながら問いかけた。
「どのくらいって?」
アルヴァとしてはそれが現在どれくらいなのかが分からないから困っている。なのでラビィの問いかけにどう答えればいいのか分からなかった。
『仮に、仮にだが、お前が魔王の生まれ変わりだとして、それと比べてどれくらいだと聞いているんだ』
ラビィはどこか不機嫌そうにそういう。その頑なに認めようとしない態度に、アルヴァは微笑ましいものを見たように笑顔になる。
「そうだなぁ…… ステータスは体力、筋力ともにかなり少なくなったよ。代わりに魔力と精神力は元のままだね。魔力操作してもまだまだ上手くいかなくて、上乗せできても三割もないんじゃないかな?」
『そうか。そんなものなんだな』
「まぁ、前世と違ってこの村は平和だし、慌てて強くなる必要もなさそうだから、ゆっくりやっていくつもりだからね」
「そうか」
ラビィ少し考え込んだ素振りを見せたが、すぐに体を伸ばし、アルヴァから離れ、そしてその場から立ち去っていく。
「あれ? 切り株の片付け手伝ってくれないの?」
『ステータスの筋力が低いんだろ? 鍛えるいい機会だ』
ラビィは振り返らずにそういうと、今度こそその場を立ち去った。
「何か急用でも出来たのかな?」
アルヴァはいつもと少し違うラビィに首を傾げたが、機嫌が悪くなったわけではなさそうなので、そのまま作業を続行していった。
ΦΦΦΦΦΦΦΦΦΦ
アルヴァを離れたラビィはその足でナンガルフの元を訪れていた。ラビィはしっかりと扉をノックする。
「どちら様ですかな?」
『俺だ』
「ラビィ様ですか。少々お待ちください」
言われた通り待っていると、ナンガルフがすぐに扉を開けた。ラビィは決して自分で扉が開かないわけではなく、しっかりと礼儀をもって接しているのだ。
「急用ですか?」
『そういうわけじゃないが、何かしていたのか?』
「はい。もう少しで終わりますのでこちらで少々お待ちください」
ナンガルフはラビィに一つの椅子に座るように勧めながら、自分は先ほどまで座っていたと思われる椅子に座り、ナンガルフは一本のナイフを手に持ち、手入れを始めた。
『そのナイフ、大切なものなのか? 高そうには見えないが』
ただ待つだけでは暇だったのと、純粋な興味からナンガルフに問いかける。
「ラビィ様は素材に価値にも精通されているのですね。はい、このナイフはお察しの通り、ただの鉄のナイフです」
そう言いながらもナンガルフは本当に大切そうに刃を磨く。
『じゃあ、思い出の品か? 人間はものに思い出を込めるのだろう?』
「ええ、その通りです。このナイフは冒険者を始める時、父が持たせてくれたものなのです」
『大切なものなんだな』
「それもありますが、大切なものには精霊が宿るといいます。生きているうちには不可能でしょうが、誰かが受け継いでくれれば、それも可能となるでしょう」
精霊とは魔物とは違い、魔力を宿したものを核として存在する生命体の総称で、基本的には自然に木や水に魔力が滞ることで精霊化する。しかし稀に人間が使い続けることで人の魔力を蓄積し、精霊化することもあった。なのでナンガルフが言ったように『大切にしたものには精霊が宿る』と教育し、ものを大切にさせるのが一般的だった。実際精霊化するには最低でも数百年の年月が必要だが。
『お前は子どもがいるのか?』
「残念ながらおりません。ですのでいつかアルヴァ様にでも受け継いでほしいものです」
『まぁ、あいつなら大事にするだろうからな』
そんなことを話している間もしっかりとナンガルフは作業を続けており、終わったのか道具を片付け始めた。
「さて、お待たせいたしました。それで、今回はどうされましたか?」
『気付いていると思うが、今のアルヴァはかなり弱い。このままだとこの村を守り切れない』
「……その話、詳しくお願いできますか?」
大事の予感がしたのか、ナンガルフは緊張した様子を見せた。
『もちろんだ』
ラビィはもともと相談するためにここに来たのだ。断る理由などない。緊急性がある話ではないが、いつまでも伝えないわけにはいかないのだ。
『お前は初めて会った時、俺の魔石が傷ついていたことを知ってるか?』
「はい。あの後アルヴァ様から伺いました」
『あの時はアルヴァにも理由を伝えなかったが、あれはある魔物との戦闘でつけられた傷だ。しかも、ここ最近に』
「魔物……ですか?」
ナンガルフはことの重大さが分かっていないのか、村の危機と今の話がどう繋がっているのかが伝わっていないような反応を示す。
『……お前、それがどういうことか分かってないな?』
「ラビィ様が村を守護していた話は伺いましたが、こちらにもアルヴァ様とラビィ様がおられるのです。ならばあまり問題がないと思われます」
『俺の話を聞いてたか? あいつは弱いと言っただろう?』
あまりの暢気さにラビィは呆れたように言う。
「それは魔王時代に比べればのお話でしょう?」
『確かにそうだが……』
そこでお互いの認識に何か齟齬を感じ、ラビィはそこで言葉を切る。
「それにしても、ラビィ様はやっとアルヴァ様を元魔王であるとお認めになられたのですね」
ラビィの言葉が切れたので先ほどまでの話は終わったと感じたのか、ナンガルフは別の話にうつした。
『ん? あぁ、元々既に魔王だと思ってるぞ? あんな人間がそんなにいてたまるか』
「では、なぜ本人の前ではお認めになられなかったのですか?」
『元魔王とはいえ、転生して今はアルヴァとして別人になってるんだ。俺は今のアルヴァを尊重してやりたいんだよ』
その言葉を聞き、ナンガルフは目を見開き、目に見て驚いた反応を見せた。
「……このナンガルフ、間違っておりました。ラビィ様の仰るとおりです。アルヴァ様は現在の生を謳歌すべきです。その事に気づかせていただき、誠にありがとうございます」
そう言ってナンガルフは頭を下げた。『変わったやつだな』とラビィはその反応に苦笑した。照れ隠しに『一応この村では年長者だからな』と付け加えながら。
『まぁ、それはいい。話を戻すぞ』
あまり脱線させてもいけないとラビィは話を無理やり戻す。
『さっきまで話で気になったんだが、俺とアルヴァ、どっちが強いと思ってるんだ?』
先ほどまでの齟齬の原因はそこにあるのではないかと、ラビィは問いかける。
「それはアルヴァ様ではないのですか?」
やはりかとラビィはナンガルフの見る目のなさに呆れていた。
『俺とアルヴァは互角ぐらいだ。あの時は魔石が傷ついていて遅れをとったけどな』
「互角…… 失礼ですが、ラビィ様のレベルは?」
『アルヴァから聞いたのは452だったな』
「452……ですと!?」
そのあまりの数字にナンガルフは驚愕する。
『俺は約二千年間ここを守ってきたんだ。そのくらいのレベルがあって当然だ』
「まさかそれ程にお強いとは、想像もつきませんでした」
『まぁ、それはいい。問題は俺が最近退けた魔物が俺よりかなり強いということだ』
『体感ではレベル200ほど上だな』とラビィは付け加える。
「よく撃退できましたね」
『不意打ちと、相手が俺を侮ってくれたからだ。こういう時はホーンラビットである自分を誇りたくなる』
「わたしでは傷一つつけられそうにありませんね」
『まぁ、流石にお前にその領域まで強くなれとは言わないさ』
ラビィとてもそれほど急激なレベルアップができないことは理解していた。かなりの格上を仕留められれば話は別だが、ナンガルフの年齢でそこまで無茶はできないことは分かっているのだ。
『だが、深傷をおわせたとはいえ、あの魔物はまたここに来る。それは間違いない』
「では、わたしに話とは、アルヴァ様をもう少し強くなるよう進言してほしいということですか?」
今までの話を総合し、ナンガルフはそう問いかける。ラビィからこの話をする場合、ラビィはアルヴァを魔王と認めなければならない。そうなればラビィの気遣いは無駄になる。それならば元々魔王と認めているナンガルフが伝えた方がいいだろうと、気を使った結果だった。
『いいや、違う』
しかし、ラビィはその言葉を即否定した。
『お前に頼みたいのは、その……アルヴァに頼ることなくどうにかして欲しいんだ』
ラビィは最後だけは申し訳なさそうに目線を逸らしていった。
「どうにか……ですか?」
『俺にはどうすればいいのかわからないからな。そこはお前に任せる』
「それは良いのですが、何故アルヴァ様に頼ってはならないのですか?」
それは純粋な疑問だったのか、ナンガルフは不思議そうに問いかける。
『純粋に子どもに無理をさせたくないというのもあるが』と前置きをして、ラビィは話し始める。
『あいつは確かに強くなれるだろう。だが、それには時間をかけるのが常識だ。でもあいつは必ず無茶をする。それも、自分の命を投げ捨てるほどの無茶だ。俺はそれをさせたくない』
「確かにそれはありそうですね」
その言葉を聞いてナンガルフが思い出したのは自分の体を躊躇いもなく傷つけた時のことだった。あの行動は決して自分を大切にしたものの行動ではない。手段のためならば自分の身など歯牙にもかけない行動だった。それだけでナンガルフにはラビィの言葉を信ずるに足りていた。
『いつあの魔物が戻ってくるのかはわからない。ただ、お前たちでもどうにかするように動いてほしい』
「わかりました。わたしも出来る限り手配しましょう」
『頼む』
ラビィはそう言って頭を下げる。
「頭をお上げください。ともにアルヴァ様を陰から支えてまいりましょう」
『……あぁ』
ラビィにとってナンガルフは偶然出会った人間の一人にすぎない。アルヴァの側にいなければ、関わることもなかっただろう人間。だから、ラビィは必要以上にナンガルフにかかわるつもりはなかった。今回のことはアルヴァのために動いただけでそれ以外の感情はない。しかし、ナンガルフのアルヴァを慕う心は本物のように感じていた。それにラビィを侮る素振りもなく、対等に接してくれている。
もう少しナンガルフという人間を認めてもいいのかもしれない。そうラビィは考えを改めていた。
『じゃあ、俺は戻る。そろそろアルヴァが切り株を運べず困ってる頃だろう』
「では、わたしもお手伝いいたしましょうか?」
『いや、お前は魔物と戦える戦力の確保を優先してくれ』
「かしこまりました」
ナンガルフの綺麗な一礼を見届けると、ラビィはアルヴァのもとに戻った。
ラビィおじいちゃん




