森を開拓していきます
森の開拓に着手します。(始まるとは言ってない)
次の日は早朝から行動を開始いていた。ダウは前日にお店に頼んでいた商品を引き取り、アルヴァはその荷物持ちを買って出た。ナンガルフは自分の荷物をどこからか回収するためか、別項行動だったが。
それでも日がまだ昇って少しして三人は合流し、村に向かって出発する。道中、行きと同じように全く問題は起こらず、お昼を少し過ぎた頃には村の入り口に戻ってきていた。
「アルヴァはここまでこれば問題ないな」
ダウはこの後ナンガルフを住める家に案内する予定ないので、この場は分かれることになっていた。
「うん。じゃあ、ナンガルフさんは後で」
ナンガルフは家を確認後、森の開拓に着手する予定だった。その際、森に詳しいアルヴァが同行することになっている。
「アルヴァ様も後程よろしくお願います」
ナンガルフは恭しく頭を下げると、ダウとナンガルフはアルヴァから離れていった。
しばらく二人を見送ったアルヴァはすぐに自分の家に向かった。母親が心配していると思い、少しでも早く顔を見せるためだ。
(あれ?)
家に近づくにつれ、アルヴァは違和感を感じていた。いつも母親はこの時間には農作業をしているはずなのだ。にもかかわらず現在畑の見える範囲には誰もいない。
(母さん、何かあったのか?)
嫌な予感がしてアルヴァは慌てて家に駆け寄った。そして勢いよく扉を開け放つ。
「母さん!」
家の中は暗い雰囲気を醸し出していたが、荒れているわけでもなく、ただ母親は椅子に座り、机に両膝をついて祈るように手を握っていた。
「アル……ヴァ?」
アルヴァの声に反応して、母親は顔を上げる。そしてアルヴァの顔を見た瞬間、勢いよく立ち上がり、ほとんど体当たりするような勢いでアルヴァに抱きついた。見た限り何もなさそうな母親にアルヴァは胸をなでおろす。
「母さん、ただいま」
「お帰りなさい!本当に帰ってきたのね!」
「帰ってくるって言ったでしょ?」
信じてなくても仕方がないかと、アルヴァは苦笑する。通常ならばあのまましばらく会えないのだ。最悪今生の別れということもあり得る。母親の反応は分からなくもないのだ。
「うん、うん、信じられなくてごめんね」
「気にしてないよ。それよりそろそろ離れない?」
流石に恥ずかしくなってきたようで、アルヴァは困ったように母親に声をかける。
「ん〜…… もう少しね」
そう言って母親は抱きしめる腕に力を少し込めた。無理矢理引き離すことは可能だが、母親に乱暴するわけにもいかず、しばらくなされるがままになるしかなかった。
それからどれ程の時間が流れただろうか。アルヴァが本気で魔力操作の練習を検討している時に母親はアルヴァを解放した。
「満足した?」
「満足よ。これじゃあ、立場が逆だけど」
そう言って母親は笑った。確かにここは自分も感動で泣いておくべきだったかと一瞬考え、無理やりやるものでもないかと即その意見を考えから消した。
「それで、どうなったの?」
「とりあえず十五になるまでは保留になったと思う。その後のことは分からないけど」
明確に言われたわけではないが、今回の件はこれで終わりだとアルヴァは判断していた。ビールトの嫌がらせがある可能性はあるが、補助金のこともあるので、おそらくそれもないとアルヴァには断言できた。ただ、流石に十五になったら学園に行くことは避けられないだろうが。
「そう、良かった」
母親は嬉しそうに微笑んだ。問題の先延ばしのような感じではあるが、それでも時間ができたのは大きいとアルヴァは考えていた。残り五年。その間に出来ることは多い。
「あ、今から森に行くんだけどいい?」
先ほどまでの出来事で半ば忘れかけていた予定をアルヴァは口にする。
「こんな時間から狩りに行くの?」
「いや、今回は森の案内かな。森を開拓することになったんだ」
実際は開拓するのもアルヴァだが、アルヴァはそこまで口にするつもりはなかった。
「大丈夫なの?」
母親も森の聖域の話は知っていたのか、心配そうにアルヴァを見た。
「下見みたいなものだから大丈夫だよ」
「そう」
それでも母親は心配そうだったが、それでもそれ以上は何も言わなかった。
それから二人はいつもより遅めの昼食をとった。食べるメニューは相変わらずである。
母親は片づけ終えると、いつものように畑に出かけた。朝から作業はしていなかったようなので、今日は手伝うべきなのかもしれないが、開拓の方が重要だとアルヴァは手伝いを申し出なかった。
それから更にしばらく魔力操作に勤しみ待っていると、扉がノックされた。
「ナンガルフと申します。アルヴァ様はいらっしゃいますか?」
その声にアルヴァはすぐに立ち上がり、扉を開けた。
「お待ちしていました。もう良いのですか?」
「ある程度は片付けましたので、今日のところは問題ありません。必要なものはこれから揃えていきたいと思います」
「そうですか。じゃあ、行きましょうか」
問題ないと判断し、アルヴァは森に向かって歩き出す。ナンガルフも従者のようにアルヴァの後ろに付き従った。
それからは無言だった。ナンガルフが何かを問いかけることもなく、アルヴァがそれを気にした様子もない。アルヴァに貫禄があれば貴族にも見えそうなほどの堂々とした態度だった。
ダウと話し合って決めていた畑を開拓する位置はそれほど遠くなく、すぐに到着した。
「ここです」
「大きさは任意ということでしたので、まずは範囲内を観察してみますか?」
「そうですね」
ナンガルフに促され、アルヴァとナンガルフは森の中に足を踏み入れた。一応何かあった時のために魔力感知も行っておく。
魔力感知とは文字通り相手の発している魔素を感知するための技術で、空気中の魔素の乱れを感じ取り、相手の位置を特定するための技術だ。もちろんアルヴァのように魔力操作を行うようなものは誤魔化せるが、そうでなければ必ず位置はわかる。今のアルヴァでは半径二十メートル程が感知範囲だ。
「今のところ何も起こる様子はございませんね」
「日頃、森で狩りをしている時には現れませんから、やはり森を荒らすものだけを襲うのかもしれません」
もういないかもしれないという希望的観測は口にしない。魔物の寿命は人間に比べて長い。都合よく死亡しているなど考えても仕方がないのだ。
「なるほど。では、私が試しましょうか?」
「いえ、ナンガルフさんは僕の後ろで警戒していてください。僕がやります」
そう言ってアルヴァは木を切り倒すために魔法を発動させるために構える。使う魔法は水魔法【水刃】。文字通り水を刃の形にして飛ばし、切り裂く魔法だ。
「では、行きます」
アルヴァはナンガルフに確認をとる。後ろを振り向き、それに頷いたことを確認すると、アルヴァは魔法を発動させる――――まさにその瞬間だった。
(来た!)
アルヴァの魔力感知に魔物の気配が引っかかった。それはかなり小型で、右側から高速で二人に接近していた。
(まずい!ナンガルフさんが反応できてない!)
魔力感知でナンガルフの行動も感知できるアルヴァは慌てる。今更振り向き突き飛ばしても間に合いそうになかったのだ。
「二歩下がれ!」
アルヴァは苦肉の策としてそう叫ぶ。その通りにナンガルフが動くかどうかは分からなかったが、それが今のアルヴァにできる最速の行動だった。
その言葉にナンガルフは反応した。そこは元冒険者としての条件反射だったのか、迷わずに二歩下がる。それを確認しながらアルヴァはその場で時計回りに回転を始める。そして高速で飛来してきた物体を左手で進行方向とは逆側から掴み取り、そのまま速度を急に殺さないようにその場で数回転してから止まった。そのまま急停止しても飛来した物体は問題なかったかもしれないが、衝撃は少ない方がいいと配慮しての行動だった。
『なっ! 俺の動きについて来たのか! それも背中から掴むだと!?』
アルヴァが掴んだのはやはりホーンラビットという魔物だった。見た目はほぼウサギではあるが、額に小さなツノが生えている。ただこのホーンラビットのツノは少し欠けてしまっていた。
「大丈夫?」
『は……放せ! くそ! 子どもの手からも逃れられんとは、俺も衰えたものだ』
ホーンラビットは少しの間、体をよじって逃げようとしていたが、アルヴァの手からは逃れられないと悟ったのか、すぐに大人しくなった。
「アルヴァ様、ありがとうございます。まったく気づきませんでした」
「仕方ありません。このホーンラビット、普通よりかなり強いです」
そもそもホーンラビットは好戦的な魔物ではない。大量の群れとなれば話は別だが、単体ならば一般人でもあまり脅威にはならないのが普通だ。
『当たり前だ! 俺をそこら辺のやつと一緒にするな!』
「ホーンラビットとしては規格外ですな。それより先程からずっとモキュモキュ鳴いていますが、苦しいのではありませんか?」
アルヴァは未だにホーンラビットを背中側から鷲掴みにしている。しかし、苦しいわけではないことをアルヴァは聞こえている言葉から理解していた。
『ふん。この程度で俺がどうにかなるわけがないだろう』
どこか誇らしげにホーンラビットは鼻を鳴らす。ただ端から見れば可愛げにモキュッキュッと泣いているようにしか聞こえない。
アルヴァのスキルの一つである【多言語理解】は魔物の言語すら理解でいるのだ。ただ、普通の魔物は単語しか理解できないのに対し、このホーンラビットは流暢に話していることがアルヴァは不思議だったが。
「大丈夫ですよ。本人もそう言ってます」
「言っている? アルヴァ様はホーンラビットの言葉が理解できるのですか?」
「【多言語理解】という特殊スキルのおかげで魔物の言葉も理解出来るんです。ただ、普通は単語で理解できるだけですが、このホーンラビットは流暢に話しています」
『ほう? 俺の言葉が理解できるのか。ますます珍しい人間だな』
ホーンラビットに感心され、アルヴァは苦笑した。
「それならばその魔物が何故ここを開拓しようとしたものを襲うのかを聞いていただけますか?」
『俺が人間の言うことを聞くわけないだろう?』
「流石に持ったままでは話を聞く態度と思えないので、開放してもいいですか?」
アルヴァは今から対話しようとしている相手を拘束したままなのは気が咎めていた。それにそもそも全ての魔物が人を襲うわけではない。今拘束しているホーンラビットも意味もなく人間を襲っているとはアルヴァには思えなかったのだ。ただ、もしもこの考えが間違っていた場合、ナンガルフが危険にさらされることになる。なので予め了解を得たかったのだ。
「問題ありません。不意打ちでなければ反応できるでしょう」
その言葉を信じ、アルヴァはその手を放す。するとホーンラビットは素早く二人から距離をとった。
『何故俺を開放する? 余裕の表れか?』
「会話をしようとしている相手を拘束しているわけにはいかないでしょ? それじゃあ会話じゃなくて尋問だ」
『面白いことをいう人間だ。俺をそんな風に対等に扱ったのは親友以来だ。まぁ、こんな風に言葉が通じるのも親友以来だが』
「親友?」
その親友という言葉にアルヴァは引っ掛かりを覚える。ホーンラビットと親友という言葉で、ある魔物を思い出したからだ。しかし、相手は二千年前の魔物である。生きている可能性はかなり低い。それでもアルヴァは言わずにはいられなかった。
「まさか、ラビィ?」
『な……なぜお前が俺の名前を!?』
その反応にアルヴァは思わず一瞬にしてホーンラビットとの距離を縮め、抱きしめた。あまりのスピードにホーンラビットは反応することができなかった。
【ラビィ】
それはアルヴァがこの世界に転生し、初めてできた親友の名前だった。
ラビィの存在は最初から決まっていました。ナンガルフはただのモブの予定でした(笑)




