聡子の場合~2
49歳をまもなく迎える同期入社2人。
恋愛なんて縁遠いと思われた2人の出会いを全13話で描きます。
久しぶりに焼き鳥を食べると、また食べたくなる。元から焼き鳥が大好きだった聡子はまたあの店に行きたいなと思った。
道1本向こうに行くだけの通り道なので、寄ってみるかな。
でも待てよ。
あの男は毎週木曜日に行ってると言ってたっけ。
また木曜日に行くとわざと狙って行ってるみたいかも…と聡子は変なところに気がついてしまい、今日がその木曜日だから…と行くのを避けて焼き鳥屋の前を通り過ぎた。
すると丁度男が焼き鳥屋から出てきた。
「あれ?こないだの…」
男が気付いた。
「あ、こんばんは」
聡子はびっくりした。
「寄るの?」
「いや、通り道なの。今日は寄らないわ」
「そっか。じゃあ、また!」
男がいかついその風貌でにこやかに笑い、片手を挙げると聡子の家と反対方向へ歩いて行った。
じゃあ、また!か…。
なら気にせず木曜日であれ、食べたい時に行けるよね、と聡子は身軽になった気分だった。
翌週聡子は定時退社日の水曜日にちょっと寄った。
1人お酒と焼き鳥を楽しむ。
いいね、こういうのも。
のんびり寛いで堪能すると、男と楽しく会話をしながら飲んだ時のことを思い出した。
うん、あれは楽しかった。
やっぱり人と他愛ない話をしながら飲み食いするのもいいよね。
聡子はその翌週は木曜日に寄ってみた。
聡子は定時退社出来て早く店に着いたため、男はまだ来ていなかった。
「軟骨2本と酔鯨1合ちょうだい」
コリコリと軟骨の堅さを楽しみながら日本酒を飲んでると、隣に誰かが座った。
「お、軟骨か。大将、軟骨1本と砂肝1本!それと生一丁!」
男だった。
まだカウンター席はまばらだったが、男は聡子の隣に座り、話しかけてきた。
「やっぱ1人で飲むのもいいけど、喋りながら飲むのもご馳走だよな」
悪ガキのような顔で笑うと男は言った。
うんうん、と聡子は大いに頷いた。
とにかく楽しく飲めた。食べれた。
男は高校中退でずっと建設業を生業としてきて、42歳で独り者だった。
見た目ワイルドで滅茶苦茶カッコいい訳では無いが、色気があり、総トータルでかっこよさがあった。なのに独り者?
「でもさぁ…モテんじゃないの?」
「いや、そうでもないよ。こんな仕事だしさ。そっちは家族居るの?」
「…居たらこんな風にお一人様してないって」
「…ぷっ…そうだな(笑」
男は聡子が48だというとものすごく驚いた。
「おんなじ位と思ってた!」
「えっ…なんか奢らなきゃ~(笑」
それ以降聡子は木曜日に焼き鳥屋へ行くのが習慣になった。
勿論焼き鳥屋へ行く前日の水曜日はきちんと栄養コントロールし、そこそこ減らしてから木曜日に臨んでいた。家に着いて量った体重によっては次の日に栄養体重コントロールをした。
4回目辺りで男が渋谷という名前であることがわかった。聡子も仁科だと名乗った。
それ以来「渋谷さん」「仁科さん」と呼び合っていたが、均衡が破れた。




