久美子の場合~4
49歳をまもなく迎える同期入社2人。
恋愛なんて縁遠いと思われた2人の出会いを全13話で描きます。
ある程度慣れた頃、久美子は水曜日に有給休暇を取った。
実際職場で人気なのは金曜と月曜の有給休暇取得だが、久美子は大崎と昼間出掛けられるように…と不人気な定時退社日の水曜を選んだ。
大崎は久美子が水曜日に有給休暇を取ってくれたことで有頂天だった。
その頃には既に喪女ながらも久美子は大崎の好意を感じていた。自分も大崎に多少なりとも好意を持っていると自覚していた。もう喪女卒業といってもいいだろう。
水曜日はドライブに出掛けた。大崎は営業車しか持っていなかったのでレンタカーだったが、ドライブはとても楽しかった。
忍野八海で車をとめて歩いていた時に大崎は久美子の手をとり、つないだ。久美子の顔は恥ずかしさで爆発しそうだった。
でも大崎の手は暖かい手で、大きくはないけれども、無骨な男の手であり、久美子はドキドキした。
人があまりいない場所に来たとき、大崎はいつもの「上野さん」ではなく「くみちゃん」と呼んだ。
びっくりして立ち止まると、大崎も立ち止まり、そっとキスをした。
久美子は真っ赤になった。
その後大崎と久美子は水曜夜のデートと2ヶ月に一度久美子が有給休暇を取得して出掛けるデートを重ねた。
しかし…いい雰囲気でも大崎はキス以上のことはしない。一瞬車中で首筋にキスをしたものの…「ごめん」と言ってそれ以上しなかった。
久美子は少しずつデートに慣れてきたが、高齢の処女の初体験は大変だということを友達から聞いていた。
私は処女だから、大崎さんが求めてきたら対応しきれないかもしれない…それより行為そのものが無理しないと出来ない可能性がかなり高い…と思うと陰鬱だった。出来たら…したくない。
ある日大崎が発熱をしたので、水曜夜のデートがキャンセルになった。一人暮らしの大崎は発熱しても自分のことは自分でやらねばならない。
大崎の家を聞いていた久美子は大胆な行動に出た。差し入れを用意して訪ねたのだ。
既に大崎の存在は久美子にとって大きかった。しかし自分は大崎とこれ以上すんなりと進めない…。大崎に負担を強いているのではないか…と思い、これ以上自分の中で大崎の存在が大きくなる前に離れようとした。
「くみちゃん?」
大崎は驚いた。
「一人暮らしだと大変でしょ?色々買ってきたの。大崎さんは寝てて」
久美子は驚く大崎を無理矢理寝かせ、「台所借りるわね」と雑炊を作った。
大崎の熱は一時38℃を超えたが、寝たお陰で37.4℃まで下がっていた。咳や鼻が出ている訳ではない。疲労から来たと考えられた。
「くみちゃん、雑炊旨いよ。ありがとう」
雑炊を食べ終わると大崎は久美子をそっと抱き締めた。でもそれ以上はしない。絶対しないのだ。切なそうな顔をするのに絶対手を出さないのだ。
私に魅力がないのか、こんなオバサン抱きたくないのか。でも私は行為そのものが大変。出来たらしたくない。
久美子の頭の中でマイナス思考が爆発した。
「…大崎さん、私…魅力ない?」
「は?どうしたの、くみちゃん…」
「だって大崎さん…」
大崎は泣きそうな顔をした久美子をじっと見つめると、ふうと息を吐いて覚悟を決めて言った。
「俺…EDなんだよ…」
「え?E…?」
「ED…勃起不全…」
「え?」
「若い頃からかなり酷いそれで…色々治療してみたけど治らなくて、俺は行為そのものが出来ない…。だからくみちゃんが望むことが出来ないんだ…。ごめん…」
久美子は脱力した。自分は行為出来ないことに悩んでいた。なのに向こうも同じだったなんて。
「逆なの。私…今まで経験したことなくて…この歳だから相当無理しないと出来ない可能性が強くて…大崎さんに嫌な思いをさせてると思ってたの…」
久美子はぽろぽろと涙を流した。
久美子の場合は無理したら出来なくもないが、本人がそこまでしたくない。だから選択肢は「行為無しで付き合いたい」であり、大崎は行為が出来ないから「行為無しで付き合いたい」で完全一致していた。それにお互い気付いて力が抜けた。
「くみちゃん…ありがとう」
大崎は久美子の涙を拭いながら思い切って言った。
「挿入無しでセックスしたい…いいかな…」
挿入無しのセックス…そんなのがあるの?と久美子は驚いて目を見張った。そしてこくりと頷いた。
大崎は安堵した顔で久美子を抱き締め、そっと首筋にキスをして手は久美子の身体に触れていった。
優しく愛撫していく。
お互い一糸まとわぬ姿で抱き合い、挿入以外の行為をした。
これこそが久美子の望むものだった。
辛い陰鬱な気持ちからこんなに幸せな時を過ごせるようになるなんて夢みたいだと大崎に抱き締められながら久美子は思った。
13話を一旦書き上げましたが、ゆっくり見直したいので、1日1~2話のアップにします。ご了承ください。