久美子の場合~3
49歳をまもなく迎える同期入社2人。
恋愛なんて縁遠いと思われた2人の出会いを全13話で描きます。
食事が終わると「せっかくなのでこの辺りを散策しませんか?」と誘われた。
真夏の暑い日なのでどうしようかと思ったが、異性に免疫が無くて断れなくて、久美子は「はい」とまた言ってしまった。
(帰ってシャワー浴びてお昼寝したいなぁ…緊張するし…)
男性は大崎史郎という名前だった。
不動産屋で口がうまい。
でも口車に乗せる…というよりは実直さで勝負といった感じだった。
50代半ばかと思ったが、白髪がそう思わせただけで、久美子の3つ上の51歳だった。
「あそこは○○という謂れがあって…」と色んな説明をしてくれ、これまで通り過ぎていたところも色んな意味があることがわかったり、大変勉強になった。
「あ、ちょっとすみません!ここでちょっと待ってて貰えますか?」と大崎は自分の店が近付くと、久美子を軒先に残し、鍵を開けて中へ入った。
何かを取るとすぐ出てきた。
「いや~すみません!」
「いえ、大丈夫ですよ。早かったですね」
「お待たせしました。じゃあ行きましょうか」
また説明があり…暫く歩くと大崎が思い切ったように申し出た。
「映画の券がありましてね。私は土日仕事で特に遅くなりがちなんですが…水曜日は休みなので…最終上映…ご一緒しませんか?」
と誘われた。
久美子は映画に誘われたことなど一度もない。それ以前に映画館すらこの10年は行っていない。
硬直した。
「あ、すみません。忘れてください」
大崎が頭を掻き、恥ずかしそうに言った。
久美子は自分がものすごく酷いことをした気分になってしまった。
「あの、すみません。私別に嫌な訳で無くて…単にこういうのに慣れてなくて…」
大崎はいやいや、急に言った自分が悪いので…と恐縮しまくったため、久美子はつい
「水曜日は大丈夫です」
と言ってしまった。
大崎は照れ臭そうに、でも嬉しそうににっこり微笑むと、じゃあ…と待ち合わせの場所を提案してきた。
暑さと恥ずかしさで久美子はぼうっとしてきた。
そんな時に御徒町駅に近付いてきた。
「あの…そういえば母から宅配便が送られてくるはずだったのを思い出したので…」
と嘘をついて駅まで真っ直ぐに移動した。
水曜日の18時半に映画館前で待ち合わせの約束とLINEのID交換をして、大崎と別れた。
(約束しちゃった…)
痩せてお洒落をするようになって…自分が変わったとは思っていたが、まさか男性と映画の約束をするなどかつての自分では想像出来ないくらいの大冒険をしたので、自分自身で驚いていた。
一方大崎は純粋な雰囲気の久美子が随分前から気になっていた。どんどん痩せて綺麗になっていく久美子が更に気になっていった。そして思い切って声を掛けたのだ。
ついに水曜日が来た。
もう約束をした日からドキドキで落ち着かなくて、もう疲れ果てる位で、もうここまで来たらなるようになれと開き直れる位、緊張を通り越していた。
「すみません、遅くなりまして」
約束の時間の2分前に大崎が来た。久美子は会社が近かったので、時間を潰して来たものの、5分前に着いていた。
「いえ、私も来たところです」
「じゃあ中に入りましょうか」
今話題のアクション映画で、多分いつもの久美子なら地上波放送まで我慢して待って観ていたものだ。
映画館に入ると、始まる前に大崎は包みを取り出した。
「映画が終わってから晩御飯を食べると遅いし太るだろうから…」
中身はお寿司だった。しかも細巻きで一口で食べられる、仕事がしてあるきゅうり巻き・かんぴょう巻きだった。
「握りだと好きなネタもわからないし食べづらいだろうから巻物にしたんですが」
大崎ははにかんで言った。
お茶と太りにくい一口でつまめるお菓子を買っていた久美子もお礼をいいつつ、「足りない場合はこれを…」と出した。
映画館で観る旬の映画は格別だった。
かなり遅くなったので、大崎は「本当がお茶でもした方がいいんだろうけど…遅くなったから」と次の水曜日の約束をして別れた。
次の水曜日の約束をした…と書いたが、久美子はちょっと映画で興奮してふわふわしていて、大崎の勢いに思わず「はい」とまた言ってしまった…という感じであった。
次の水曜日は食事の約束になった。
事前にLINEでどういうのが食べたいか、大崎から聞かれていた。
久美子はデートなどしたことない。
雰囲気のあるお店も知らない。
困って「ヘルシーで大崎さんのお勧めのところへ行きたい」とレスした。
こんな感じで久美子は少しずつデートを重ね、第2土曜日は自分達の世界を楽しみながら、ほんの2~3分、刀剣エリアを出たところで立ち話をして別れた。
13話を一旦書き上げましたが、ゆっくり見直したいので、1日1~2話のアップにします。ご了承ください。




