表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49ersの恋愛ばなし  作者: 由起
4/13

久美子の場合~1

49歳をまもなく迎える同期入社2人。

恋愛なんて縁遠いと思われた2人の出会いを全13話で描きます。

久美子は彼氏いない歴年の数の喪女だ。

見た目も喪女だねと言いたくなるほどもっさりしていた。


でも恭子先輩にダイエット指南を受けて痩せ、髪を縮毛矯正して綺麗にし、次に顔のお手入れと化粧をちゃんとするようにしたら…見違えるようになった。


やっと人並みになったと辛口の人なら言うかもしれない。でも久美子にとっては大冒険の大変身だった。


でもそれだから彼氏が出来て…なんてことはない。

そんなことなら世の中のお洒落女子は全員モテまくりにならねばならない。


さて、そんな久美子だが、毎月第2土曜日の決まった時間に国立博物館へ行き、刀剣等を見るのを習慣としていた。


趣味が刀剣…というところまではいかないのだが、刀剣の刃の部分を見ていると、刀鍛冶の凛とした姿勢と持ち主の武将の生きざまが見られるようで、心がしんと落ち着くからだった。


(今日もありがとう)

と心の中で、刀剣に過去携わったであろう人達に感謝し、次のコーナーに行こうとした。


その時に1振りの刀剣に見入る50代半ば位・170cm弱・平均体重よりは若干重めの男性が目に入った。


他のマニアのように食い入るように見る…という感じではない。じっと出陣前の武将のように、姿勢を正して見つめていた。


男性の周囲だけ空気が違う。


妙に気になり、久美子は次のコーナーへ行かずに刀剣を見続けるようにして、その男性をチラ見した。


男性は暫く見続け…いや、5分ほど見続けたろうか。

わからない程度に黙礼を刀剣にし、そのまま真っ直ぐに刀剣コーナーを出ていった。


まさに武将という感じで、歴女でもある久美子は戦国時代にタイムスリップしたような感覚に襲われた。


翌月また国立博物館へ行くと、既にその男性は刀剣の前に居た。同じ刀剣の前に真っ直ぐ姿勢を正して立つ男性に久美子は見入った。


勿論じろじろ見るのは失礼なので、他の刀剣を見ているようにしながら男性を見た。


また男性はわからないように黙礼を刀剣にして去っていった。


同じ刀剣に見入る?

この刀剣に何があるのだろう?

刀剣の持ち主は所謂有名どころの戦国武将ではない。


しかし見事な刀だった。


国立博物館通いを続けながら、久美子は恭子先輩から教えて貰ったダイエットを続け、お洒落をするようになった。もっさりしてジーンズで出掛けていた久美子だったが、今は同じジーンズでもカラージーンズを穿いたり、見た目が激変していた。


丁度54kg位に落ち、なんとかMサイズになった時にその男性を久美子は見た。


久美子はその男性が見ていた刀を見たけれど、確かに立派な刀だけれど、他のものとどう違うのかがわからなかった。


また来月も来られるのかな?と久美子は思ったが、果たしてその男性は同じような時間に現れた。


他の刀剣はさらりと流し、ただその刀剣だけをじっと見つめる。


また5分ほど見続けたら黙礼をして出ようとした。

その時に久美子は目線を外すタイミングを間違え、その男性と目が合ってしまった。


男性は「あ…」と思ったようだが、そのまま真っ直ぐ出ていってしまった。


久美子は男性の聖域を汚してしまったような気持ちになり、申し訳なさでいっぱいになってしまった。


その翌月…あの男性とタイミングをずらした方がいいだろうかと悩んだが、そもそも自分はこの数年同じ時間に家を出て同じように国立博物館で過ごしているのだから、男性を見ないようにして過ごした方がいいのではなかろうかと結論付けた。


久美子は腹をくくって国立博物館を堪能した。

今日は男性を見ずに自分のペースで見ようと思い、刀剣の静かで動のある世界に自分を近付けた。


ふと視線を感じ、パッとそちらを見ると、件の男性が久美子を見ていた。目が合うと、男性は慌てて目線を外し、外へ出ていった。


その日、美術館も堪能した久美子はいつもと違うルートで帰ろうと思い付いた。普通に上野駅へ戻るのではなく、御徒町まで歩くルートを取った。


少し行くとお腹が空いていることに気付いた。

ダイエットを始めてからお腹が空いていることにだんだん慣れてきたが、3食きちんと摂ることがダイエットの近道と恭子先輩に聞いていたので、どこか定食屋へ入ることにした。


さばの味噌煮定食でご飯半分にして注文して待っていたら、店が混み出し、相席を頼まれた。

「はい、どうぞ」

と顔を上げると、それは件の刀剣の男性だった。


あ、と久美子は驚いたが、男性の方が「あっ」と小さく声を出した。


お互い気付いていた…というのはもう丸わかり。し~んとした一瞬の沈黙を最初に男性が破った。


「刀剣見ておられましたよね」

「あ、はい」

「お好きですか? あ、焼き鯖定食で!」

「あ、はい…」

「刀剣好きな方は結構いますよね」

「あ、私は刀剣そのものが好きというよりは刀剣の中にある刀鍛冶の方とか武将とか…そんなことを考えるのが好きなんです」

「ああ、なるほど」

「あの…1振りの刀だけ見ておられましたけど…」

「ああ、あれは…先祖の刀なんです」

「えっ」

「曾祖父が寄付しましてね。あれを見ては俺も先祖に負けずに真っ直ぐ生きるぞ、と姿勢を正してから仕事に向かうんですよ」


男性が真っ直ぐ姿勢を正して刀剣を見ていた理由がわかった。


13話を一旦書き上げましたが、ゆっくり見直したいので、1日1~2話のアップにします。ご了承ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ