久美子の場合~5
49歳をまもなく迎える同期入社2人。
恋愛なんて縁遠いと思われた2人の出会いを全13話で描きます。
毎火曜夜に久美子は大崎の家へ行った。
そして水曜日の朝に大崎の家から出勤した。その頃には「大崎さん」ではなくて「史郎さん」になっていた。
「くみちゃん」
「なに?」
「俺と結婚してください」
ベッドの中で久美子を抱き締めながら史郎は言った。
勿論久美子は涙をぽろぽろ流しながら頷いて承諾した。
2人は久美子の両親と史郎の両親に挨拶した。
婚期を完全に逸した2人ながらも、双方の両親は喜んで祝福した。
結婚式はしないでいようと2人は思っていた。
ただ久美子の母親が娘のウェディングドレス姿を見たがったので、写真館でドレスを着て家族写真だけ撮ろうということになった。
52歳の新郎と49歳の花嫁は初婚同士だった。
史郎の部屋は2人で住むには若干狭めの1LDKだったが、広いと掃除が大変だからとそのまま史郎の部屋を新居とした。
史郎には兄弟が居て、弟には男女2人の子供がいた。
「あの刀の子孫は…俺はダメだったけど、弟と弟の息子が継承してくれる。弟に感謝だよ」
国立博物館のメンバーズパスを持つ史郎は毎日博物館へ寄り、刀剣を見てから不動産屋へ向かい続けた。
久美子は第2土曜日の朝、これまでより少し遅らせて博物館へ行き、刀剣をゆっくり堪能した。そして健康のために…と御徒町方面に歩き、史郎と例の定食屋で一緒にお昼御飯を食べた。
土日仕事で水曜日休みの史郎と土日祝日休みの久美子は休みが合わなかったため、第2土曜日は博物館、それ以外の土曜日はお昼御飯を一緒にその定食屋で食べた。
外回りで忙しいことがわかる日は事前に史郎が久美子に伝えるので、久美子は朝食べやすいおにぎりの中におかずを入れたお弁当を作った。久美子は自分の分のお弁当も別に作って持っていった。
晩御飯はどちらも同じ位の帰宅時間だったが、史郎が料理出来ないため、史郎は洗濯、久美子が料理…と棲み分けた。
久美子に更年期障害が若干でだした。
ホットフラッシュになる人が多いが、久美子の場合は疲労が強く出て、会社から帰ると晩御飯を作るのが精一杯。土日は寝て過ごした。過眠の症状になっていたが、土日史郎は仕事だからちょうど良かった。
基本寝て過ごし、土曜日のお昼御飯だけ外に出て史郎とランチをとり、帰りに買い出しをして帰るという生活パターンになった。
のんびり自分のペースを保ちながら、2人は夜になると家に集い、家族になった。
「ね、史郎さん、私はあまり生活パターン変えてないけど…史郎さんはどう?」
「そうだなぁ…。まぁ俺は外食ばっかりで腹が出てたけど…ご飯を巡る環境は激変したかな(笑)その他は激変ってことはないな」
「私ね、すごく幸せ」
不意打ちを食らい、博物館で刀剣を戦国時代の武将のように鋭い目で見ていた侍は倒された。
「くみちゃん…俺もだよ」
甘くささやき、史郎は久美子に優しくキスをした。




